特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第421話 人妻を愛した刑事!

2008年07月17日 02時30分54秒 | Weblog
脚本 長坂秀佳、監督 辻理
1985年6月26日放送

【あらすじ】
吉野が恋した相手は人妻、それも殺人容疑で拘留中の有名カメラマンの妻だった。夫の無実を主張する妻の言葉を信じ、濡れ衣を晴らすべく捜査を続ける吉野。
殺されたのは、カメラマンとの醜聞が噂される女優だった。事件当日、カメラマン宅に押し寄せたマスコミ陣を、カメラマンはインターフォン越しに追い返した。その後、女優がカメラマン宅に到着。やがて、カメラマン宅から出て行く車をマスコミ陣が追う。特殊ガラスで覆われ、車内の様子は分からない。スタジオまで車を追ってきたマスコミ陣は、焼却炉から女優の着衣と、後に凶器と判明したトロフィーを発見。異常を察知し、カメラマン宅に戻って踏み込んだマスコミ陣が見たものは、撲殺された女優の死体だった。
カメラマンは「ずっとスタジオにいた」と主張。妻もアリバイを証言するが、マスコミ陣の証言もあり、所轄署はカメラマンを犯人と断定した。特命課が見る限り、所轄署の捜査に落ち度は無かった。「吉野の奴、厄介な事件に手を出したな・・・」特命課の刑事らが心配するなか、吉野は捜査に名を借りた妻との逢瀬を楽しんでいた。「奥さん、どんな男が嫌いですか?」「女々しい男、だらしの無い男、誠意の無い男・・・吉野さんは?」「ガムをかむ女、人前で化粧をする女、タバコを吸う女・・・」
そんな吉野を詰問する神代。「カメラマンの無実を証明できる自信はあるのか?夫人を信じる根拠はあるのか?」「わかりません」「では、なぜ?」「好きだからです!刑事が犯罪関係者を好きになっちゃいけませんか?その人の言葉を信じちゃいけませんか?」吉野の言葉に、神代は5日間の猶予を与える。
吉野は妻の証言をもとに、カメラマンがスタジオにいたことを証明する第三者を探す。それは、妻が弁当を届けに着た際にすれ違った若い女だった。女が撮影モデルだと考え、マネージャーの協力を仰ぐ吉野たちだが、マネージャーは事務所を畳む準備に追われて協力を拒む。だが、やがて吉野の執念が実り、女が出前を届けに来たアルバイトの女学生だと判明する。
同じ頃、特命課の刑事たちも事件の真相を追っていた。「カメラマンや夫人のためじゃなく、お前のために動いてみたよ」桜井や橘が見つけたのは、カメラマンが他人を立ち寄らせなかった部屋に飾られた、大量の妻の写真だった。その写真の美しさに、吉野はカメラマンの妻に対する確かな愛を知る。
その後、特命課はカメラマンに濡れ衣を着せたトリックを暴く。犯行現場にいた真犯人は、スタジオにいたカメラマンに電話をかけた上で、インターフォンの受話器と重ね合わせ、あたかもカメラマンが自宅にいるかのように見せかけた。その上で女優を殺害し、誰にも顔を見せぬまま車でスタジオに向かい、焼却炉に証拠品を投げ込んだのだ。それができた者は唯一人。マネージャーに他ならなかった。
一方、女学生を訪ね当てた吉野と妻は、カメラマンのアリバイを証明する証言を得る。だが、そこに証拠隠滅を図るマネージャーが現れ、拳銃で妻と女学生を襲う。間一髪のところを吉野が救出。駆けつけた特命課がマネージャーを連行し、事件は解決した。
カメラマンが釈放される日、吉野は妻に公園に呼び出される。勇んで駆けつけた吉野が見たものは、清楚な和服姿に似合わぬ素振りで、ガムをかみ、人前で化粧をし、タバコを吸う妻の姿だった。あえて吉野の嫌う女の姿を見せて、無言のまま立ち去る妻。その哀しげな後姿には、吉野への確かな感謝と、そして訣別の想いが込められていた。「カメラマンは釈放され、吉野さんの恋は終わった・・・」

【感想など】
好感・吉野の切ない恋を描いた一本であり、その主題においては紛れも無い傑作。トリックが陳腐だとか、真犯人に意外性がないとか、事件そのものへの不満を口にするのは、はっきり言って野暮というもの。ここは吉野が切ない胸の内をストレートに語る、素晴らしい台詞の数々に酔いしれましょう。「天使っているんだ!惚れちまった、俺!」「あの人の頭は旦那のことで一杯だ。旦那の無実が証明できれば、俺はそれ以上逢うことはできない。俺は、あの人と別れるために捜査をしている。苦しいな・・・」「奪っちゃおう。本気でそう考えたこともある。しかしな、あの夫婦には9年間培ってきた歴史がある。俺は、その歴史にどうしても勝てんのだ・・・」注目すべきは、これらの台詞がすべて叶に向けて語られていること。なんだかんだ言っても、吉野が最も心を許している存在が叶だったということでしょう。ラストのモノローグが叶の台詞だというのも、二人の確かなつながりを印象づけています。

叶に限らず、吉野の無謀とも言える捜査を期限付きながらも認める神代課長や、「お前のために動いてみた」の名台詞を残して真相を暴く橘たちの姿から、吉野がいかに仲間たちから愛されていたかが伝わってきます。そんな仲間が見守る中、吉野の恋は今回も悲恋に終わります。悲恋でもいいじゃないか。恋は悲恋だからこそ、美しいままに終わることができる。その意味では、あえて吉野の嫌う姿を見せ、去っていく妻の凛とした潔さは、「さすがは吉野が惚れた女」と言うほかありません。妻は捜査を通じて、吉野の想いを知り、少なからず好意を抱いたと思われます。しかし、だからこそ、最後はあそこまでして吉野を拒絶したのでしょう。拒絶することこそ、彼女のカメラマンへの、そして吉野への愛情であり、人としての優しさでもあったのだと私は思います。そんな彼女の真意が分かったからこそ、彼女を見つめる吉野も、当初の険しい(そんな彼女を認めたくないような)表情から、やがて涙をこらえるような表情へと変わっていったのではないでしょうか。彼女が嫌う男とは、女々しく、誠意の無い男。そんな男にならないために吉野ができることは、彼女の切ない真意を思いやり、思わず溢れそうになる涙をこらえることしかなかった。泣くな吉野。泣くなら家に帰って布団の中で泣け。そして一晩泣いたら、いつもの笑顔を見せてみろ。彼女を愛したことは決して間違いではなく、辛い想い出として君を苦しめるものではないのだから。

6 コメント

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別れのシーンで (鬼親爺)
2008-07-17 19:37:32
わざとらしくガムを噛んでゆがんだ奥さんの顔が可愛かったですねー。
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新井春美さん (コロンボ)
2008-07-17 21:15:11
 新井春美さんが昔、TBSの「料理天国」で出演されてたのを覚えてます。そのもう少し若い姿を同ファミリー劇場で放送された「決めろ!フィニッシュ」で拝めた時は感無量でした。ロケ地が世田谷区鎌田の野川水道橋で、「ウルトラマン レオ」のメインロケ地「簡易保険東京青少年レクセンター」も至近です。自宅が近いので図書館の帰り等で橋(架け替え工事で様変わりが激しいですが)に行くと、ついカメラアングルを追ってしまいます。「おお、この道を新井さんが通ったのか~」と独り合点してます。安上がりで幸せですね。                         
 「あばれはっちゃく」や「おれたちの旅」の岡本町の坂道も近く・・・キリが無いので終了(笑)。本作も岡本町が・・・。しつこい。                                   新井さんに戻って、作品No453[不倫!?紅林刑事が愛した女!」が待ち遠しいです。新井さんを巡って吉野刑事が紅林と三角関係になったらおもしろいんですが・・・。
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Unknown (匿名神代)
2008-07-19 03:19:45
特捜最前線の中での吉野と叶のコンビはやはりいいですね。殺意が配達された朝!は二人の考え方の相違を描いた作品でしたけどこちらも面白かったですし。
それだけにあと10数話で見れないと思うと悲しいです
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まとめてお返事 (袋小路)
2008-07-23 22:50:19
皆さん、お返事遅くなり恐縮です。

鬼親爺さん。私には切なく、儚げに思えた奥さんの表情が「可愛い」と感じる人もいるのだなと、ちょっと感心しました。そう思って録画したビデオを見返してみると、なるほど・・・

コロンボさん。いつも貴重なロケ地情報をありがとうございます。奥さん役の新井春美さんは、子供の頃にNHK朝のテレビ小説「風見鶏」でよく見ていて、子供心に「きれいな人だなぁ」と思っていました。

匿名神代さん。しばらくです。吉野と叶のコンビといえば、個人的には「隅田川慕情」が印象に残っています。吉野殉職という悲しみを叶がどう受け止めるか、しっかりと見届けましょう。
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男・吉野リュウジ (リュウジ)
2008-10-12 19:13:32
もはや特捜の名物と化している吉野の失恋ですが今回も良かったですねえ。
新井春美さんの美しさもあいまって、良作に仕上がっています。
亭主の無実をその妻と共に晴らす過程で恋に落ちる。
でも、それは決して結ばれない、はかない恋。
外国映画のようなストーリーでした。
こういう恋愛を一度してみたいものです。
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リュウジさんへ (袋小路)
2008-10-14 23:42:10
吉野主演編も残り少なくなってきましたが、この話といい、その前の412話「横浜ラブストーリー」といい、良作に恵まれているのは吉野ファンとしては嬉しいことです。本人は怒るでしょうが、やっぱり吉野といえば失恋ですよね。
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