特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第392話 幼児誘拐・5年目の再会!

2008年03月27日 03時34分37秒 | Weblog
脚本 広井由美子、監督 天野利彦

ある駅で、父親に連れられた少年が、倒れた脚立の下敷きになった。居合わせた吉野が救急車を手配するが、父親は傷ついた少年を抱いて、逃げるように電車に飛び乗った。数日後、父親が警察署から逃げるように立ち去るのを見かける吉野。通りすがりに空き巣を取り押さえたらしいが、被害者の隣家の様子を窺うなど、不審な様子だったという。父親を訪ねた吉野は、少年が無事な様子に安堵するが、父親は吉野が刑事だと知ると慌てて立ち去った。なぜ、そこまで警察沙汰を避けるのか、吉野は疑念を募らせる。
そんななか、特命課では5年前に起こった時効寸前の誘拐事件を洗い直していた。当時1歳の幼児が誘拐され、犯人からは何の要求もないままだった。被害者の現住所を聞いた吉野は顔色を変える。それは、父親が様子を窺っていたという住所だった。誘拐事件との関わりを聞こうと父親を訪ねたところ、すでに子供を連れて姿を消した後だった。
父親の過去を調べたところ、4年前に死んだ妻との間に子供はなかった。誘拐された幼児は、生きていれば少年と同じ年齢であり、父親が誘拐犯と見て行方を追う特命課。その後の捜査で、父親の事件当日のアリバイが確認されるが、その当時、妻は流産したショックで精神を病み、入院していた。退院したのは事件の発生当日であり、父親のもとへ帰る途中、発作的に誘拐を働いたのではないかと推測された。
少年の実の両親宅に電話を掛け「長い間すみませんでした。必ずお返ししますので」と伝えて電話を切る父親。ようやく父親の潜伏先を探し当てた吉野だが、父親は少年を残して姿を消す。実の両親のもと残されていた幼児の手形と、少年の指紋が一致し、吉野は少年に事実を明かすことを決意。涙ながらに少年を抱きしめる両親だが、少年は姿を消した父親を恋しがる。「お父ちゃん、どこにいるんだよ!」と泣き喚く少年の姿にショックを受ける両親。その恨みは父親に向けられる。
翌日、少年は両親の家から姿を消す。「夜になったら、父ちゃんと公園でサッカーするんだ」かつて少年が語った言葉を思い出し、公園へと走る吉野。そこには、一人でサッカーボールを蹴る少年の姿があった。時効まであと2日。思わず「来るな」と呟く吉野。だが、少年との約束を守るべく現れた父親の姿を認めたとき、吉野は捕らえるしかなかった。「お父ちゃんを連れて行かないで」と泣く少年に、吉野は何も答えることができなかった。
実の両親のもとで暮らすうちに、次第に心を開いていく少年だが、吉野に対しては敵意をむき出しにする。自分に憎しみをぶつけることで、何かを乗り越えようとする少年の姿に、吉野は「坊主、俺を憎め」と呟く。やがて、取調べを終えた父親に、特命課はせめてもの温情として、少年との対面の場を用意する。実の母親の胸で眠る少年を見て安堵の涙をこぼす父親に、実の母親はそっと頭を下げるのだった。

血の繋がらない少年に、実の父親のような愛情を注ぐ男を好演するのは、藤木悠。Gメンの山田刑事役などでお馴染みですが、個人的にはハングマンのいずれかの第一話で、ハングマンになり切れずに死んでしまう役が印象に残っています。
正気を失った妻が少年を誘拐した当初、警察に届け出なかったのは、少年が高熱を出したからだといいます。「子供の命より、殺人犯になるのが怖くて、必死に看病したんです・・・」と語る父親ですが、少年が回復したときには、もはや手放せないほど愛しい存在になっていたのでしょう。それからの5年間、実の両親の哀しみを思い、返さねばと決意しながらも、愛しさの余り返すことができない父親。吉野の前から姿を消したのも、行方をくらますためではなく、最後の思い出を作るためだったのでしょう。
吉野に取り押さえられた際、少年を抱きしめ「許しておくれ。お父ちゃん、悪い奴なんだよ。お前、本当はよその家からさらってきた子供なんだよ。お父ちゃん、これから警察に行かなくちゃいけない。だから、お前は本当のお父さんとお母さんのところで、幸せになっておくれよ」と涙するシーンは、藤木氏の朴訥極まりない演技もあって、涙を誘います。
加えて印象深いのが、実の両親のもとに戻りながらも、育ての親である父親を慕う少年を見て「これでよかったんですかね。俺があの子の立場だったら、納得いかんと思うんですよ」と悩む吉野。そんな吉野に、おやっさんは大岡裁きの事例を持ち出します。「子供を取り合う二人の女に子供の両手を引っ張らせて、痛いと泣く子供の手を放した方が本当の母親だという。よく考えたもんだ。けどね、両方が手を離したら、どう裁いたんだろうね」実の親も、育ての親も、子供に対する愛情に偽りなどありませんでした。当初は父親を憎んだ実の両親も、父親が5年間注ぎ続けてきた確かな愛情を感じ取れたからこそ、最後には許す気持ちになったのでしょう。
特捜にしては甘いラストかもしれませんし、少年にその場を誤魔化すだけの稚拙な嘘をつく吉野など引っかかる点もありますが、不幸な事件にも関わらず、最後には収まるべきところに収まった心温まるエピソードとして、それなりに満足できる一本だと思います。

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