※以前に放送された際に視聴し損ねて欠番としていましたが、「刑事ベルト」枠で再放送されたため、ようやく更新できました。当時いただいたですとらさんのコメントも参考にさせていただきましたので、改めて御礼申し上げます。
脚本 佐藤五月、監督 辻理
1984年6月6日放送
【あらすじ】
六本木の公園で青年の刺殺死体が発見される。手首にためらい傷があったため、自殺とも思われたが、死因となった胸への刺し傷から他殺と判明。特命課が捜査に乗り出す。
現場検証のさなか、叶は現場を見つめる不審な娘に気づく。声をかけたところ、娘は「現場近くでコンタクトレンズを落とした」と答えるが、叶の胸には疑念が残った。
その後、現場付近で宝石が発見され、叶は娘が宝石の外れた指輪をしていたことを思い出す。娘と青年の接点を探すべく、叶は娘の身辺を捜索する。
娘はダンサー志望で、レッスンに励むかたわら、昼はウェイトレス、夜は踊り子として複数のディスコを掛け持ちするなど、多忙なバイト生活を送っていた。娘の働くディスコで聞き込んだところ、青年と娘の接点が判明。青年はディスコにミキサー(音響エンジニア)として雇われていたが、支配人にミスを咎められ、娘に慰められていたという。だが、顔見知りという以上の関係ではなかったらしい。
強引とも思える叶の捜査に、特命課は一抹の危惧を抱き、橘がフォローにつく。その後も娘のマークを続けた叶は、ダンサーという夢に掛けた娘の情熱と、それが報われない厳しい現実を知る。自分が落選したオーディションに友人が合格しているのを見て、落胆を隠して嬉々として友人に報せに行く娘の姿に、叶は自分の直感が間違っていたのではないかと悩む。「彼女は自分が不幸でも、他人の悲しみは見逃せないんです。仕事がうまくいかずに落ち込んでいる青年を殺すような人じゃありません」悩んだ末の叶の言葉に、神代はこう答える。「お前の考えはよく分かる。だが、自分が最初に抱いた確信を確かめてみろ。それが刑事というものだ」
再び、娘を張り込む叶。落胆する娘に、オーディションの関係者が接近し「この世界、実力だけじゃだめだ」と金を要求する。純粋な夢を金で汚そうとする行為に憤りを感じた叶は、娘の自宅を訪ね「あんな話を信じちゃダメだ」と忠告する。叶の励ましを受け、娘は翌日のオーディションに臨む決意を固める。
すでに娘の無実を確信している叶に、意外な報せが届く。例の宝石が娘の指輪のものだと判明したのだ。娘の友人によれば、その指輪は有名な某ダンサーにまつわる縁起物だった。叶がマークして以来、娘は指輪をしていなかった。だが、明日のオーディションに臨んで、娘は縁起物の指輪を身につけるはず。そう信じた叶はオーディション会場に張り込む。
友人から、特命課の捜査が指輪に及んだことを聞かされつつ、娘はあえて指輪をはめてオーディションに挑む。素晴らしいダンスを披露する娘。だが、娘を待っていたのは、絶賛の声を断ち割るように現れた特命課の姿だった。
宝石は娘の指輪にピタリと嵌り、動かぬ証拠を前に、青年殺しを認める娘。だが、動機については黙秘を貫く。動機を突き止めるべく、青年が常に持ち歩いていたカセットデッキを探す叶。それは青年の墓前で発見される。再生したテープから、青年の最後の声が流れる。「僕には死ぬ勇気もない。頼めるのは貴方しかいない。貴方の手で死にたい・・・」
テープを聞かされた娘は、重い口を開く。その夜、娘は青年に電話で公園に呼び出され「殺してくれ」と頼まれたという。青年は、自分がミキサーとして採用されたのが、父親が裏で金を渡していたからだと知って絶望したのだという。「金で買える世の中なんて、何の価値があるんですか?」テープの言葉を残して、胸にナイフを突き立てる青年。死に切れずに苦しむ青年を見兼ねて、娘は「弱い人は嫌いよ!」と罵りながらも、ナイフを深く突き刺した。
自殺幇助の罪で送検される女を、「早く刑を務めて、もう一度踊るんだ」と励ます叶。娘は叶に語る。「彼が『死にたい』って言ったとき、本当はその気持ちが分からなかった。でも、オーディションに落ちて、お金のことを持ちかけられたとき、彼の絶望感が分かった」「それでも、君は踊ったじゃないか」だが、娘がオーディションに向った理由は、叶の励ましではなく、青年が最後に言い残した「貴方だけは、踊り続けてくれ」という言葉だった。「あれが、私のラストダンス・・・」
その後、娘の罪が軽くなることを祈る叶のもとに、娘が飛び降り自殺を遂げたとの報せが入る。「彼女もまた、弱い人間だったのです。本当に死にたかったのは、むしろ彼女のほうだったのかもしれません。二人は別々に死にましたが、心中だったのです・・・」叶の報告書に目を通した神代は「これは感想文であって報告書ではない」と書き直しを命じる。報告書を書き終え、六本木の雑踏を歩く叶は、ふとすれ違った少女の顔に、娘の面影を見る。彼女の夢、そして絶望と死は、この街ではありふれたものだったのだろうか?そんな想いが叶の胸をよぎるのだった。
【感想など】
夢と現実とのギャップに傷つき、死を選んでしまう若者の弱さと哀しさを描いた一本。情けないにも程がある自殺動機はもちろん、好きだった(と思われる)娘を罪に落としてまで、自殺を手伝わせる青年に、感情移入する視聴者はほとんどいないだろうと思われます。
娘の行動と心理についても、説明がつくようで、どこか納得できないものがありますが、それでもなお、それなりに見応えがあったのは、「現実は汚い」という彼と彼女の主張に、共感せざるを得ないものがあるからではないでしょうか?「だからと言って死ぬことはないだろう」という思いは、もちろんあるのですが、そう言えるのは、我々が「夢と現実は違うもの」と、世の中を分かったような気持ちになっている「大人」だからこそ。かつて、世間の厳しさ、現実の厳しさを知らずに、ただ夢を追っていた頃の気持ちを思い返してみれば、一概に「愚かなことを」と言い捨てにできないものがあると思います。
一方、視点を変えて、叶の立場からドラマを振り返ってみると、(何の確証も無く、直感を頼りに娘を追い掛け回すのは無理がありますが、それはさて置くとして)ひたすら空回りしている印象です。落ち込む娘への「オーディションに落ちる、落ちないは問題じゃない。大切なのはずっとやり続けることじゃないか?踏まれても踏まれても、踊り続けることじゃないか?」との励ましや、連行される娘への「君は立派に踊ったじゃないか」との言葉は、結局のところ、娘の胸には届いていません(届いてはいるのかも知れませんが、青年の言葉ほどには娘の行動に影響を与えてはいません)。意地の悪い見方をすれば、本編のもう一つのテーマが「過剰な思い込み、思い入れが空回りする悲劇」ではないかとも思ったりするのですが(ラストの課長の突き放すような台詞なんかが特に)、底意地の悪さには定評のある(褒め言葉ですよ)佐藤脚本だけに、あながち深読みしすぎではないかもしれません。
脚本 佐藤五月、監督 辻理
1984年6月6日放送
【あらすじ】
六本木の公園で青年の刺殺死体が発見される。手首にためらい傷があったため、自殺とも思われたが、死因となった胸への刺し傷から他殺と判明。特命課が捜査に乗り出す。
現場検証のさなか、叶は現場を見つめる不審な娘に気づく。声をかけたところ、娘は「現場近くでコンタクトレンズを落とした」と答えるが、叶の胸には疑念が残った。
その後、現場付近で宝石が発見され、叶は娘が宝石の外れた指輪をしていたことを思い出す。娘と青年の接点を探すべく、叶は娘の身辺を捜索する。
娘はダンサー志望で、レッスンに励むかたわら、昼はウェイトレス、夜は踊り子として複数のディスコを掛け持ちするなど、多忙なバイト生活を送っていた。娘の働くディスコで聞き込んだところ、青年と娘の接点が判明。青年はディスコにミキサー(音響エンジニア)として雇われていたが、支配人にミスを咎められ、娘に慰められていたという。だが、顔見知りという以上の関係ではなかったらしい。
強引とも思える叶の捜査に、特命課は一抹の危惧を抱き、橘がフォローにつく。その後も娘のマークを続けた叶は、ダンサーという夢に掛けた娘の情熱と、それが報われない厳しい現実を知る。自分が落選したオーディションに友人が合格しているのを見て、落胆を隠して嬉々として友人に報せに行く娘の姿に、叶は自分の直感が間違っていたのではないかと悩む。「彼女は自分が不幸でも、他人の悲しみは見逃せないんです。仕事がうまくいかずに落ち込んでいる青年を殺すような人じゃありません」悩んだ末の叶の言葉に、神代はこう答える。「お前の考えはよく分かる。だが、自分が最初に抱いた確信を確かめてみろ。それが刑事というものだ」
再び、娘を張り込む叶。落胆する娘に、オーディションの関係者が接近し「この世界、実力だけじゃだめだ」と金を要求する。純粋な夢を金で汚そうとする行為に憤りを感じた叶は、娘の自宅を訪ね「あんな話を信じちゃダメだ」と忠告する。叶の励ましを受け、娘は翌日のオーディションに臨む決意を固める。
すでに娘の無実を確信している叶に、意外な報せが届く。例の宝石が娘の指輪のものだと判明したのだ。娘の友人によれば、その指輪は有名な某ダンサーにまつわる縁起物だった。叶がマークして以来、娘は指輪をしていなかった。だが、明日のオーディションに臨んで、娘は縁起物の指輪を身につけるはず。そう信じた叶はオーディション会場に張り込む。
友人から、特命課の捜査が指輪に及んだことを聞かされつつ、娘はあえて指輪をはめてオーディションに挑む。素晴らしいダンスを披露する娘。だが、娘を待っていたのは、絶賛の声を断ち割るように現れた特命課の姿だった。
宝石は娘の指輪にピタリと嵌り、動かぬ証拠を前に、青年殺しを認める娘。だが、動機については黙秘を貫く。動機を突き止めるべく、青年が常に持ち歩いていたカセットデッキを探す叶。それは青年の墓前で発見される。再生したテープから、青年の最後の声が流れる。「僕には死ぬ勇気もない。頼めるのは貴方しかいない。貴方の手で死にたい・・・」
テープを聞かされた娘は、重い口を開く。その夜、娘は青年に電話で公園に呼び出され「殺してくれ」と頼まれたという。青年は、自分がミキサーとして採用されたのが、父親が裏で金を渡していたからだと知って絶望したのだという。「金で買える世の中なんて、何の価値があるんですか?」テープの言葉を残して、胸にナイフを突き立てる青年。死に切れずに苦しむ青年を見兼ねて、娘は「弱い人は嫌いよ!」と罵りながらも、ナイフを深く突き刺した。
自殺幇助の罪で送検される女を、「早く刑を務めて、もう一度踊るんだ」と励ます叶。娘は叶に語る。「彼が『死にたい』って言ったとき、本当はその気持ちが分からなかった。でも、オーディションに落ちて、お金のことを持ちかけられたとき、彼の絶望感が分かった」「それでも、君は踊ったじゃないか」だが、娘がオーディションに向った理由は、叶の励ましではなく、青年が最後に言い残した「貴方だけは、踊り続けてくれ」という言葉だった。「あれが、私のラストダンス・・・」
その後、娘の罪が軽くなることを祈る叶のもとに、娘が飛び降り自殺を遂げたとの報せが入る。「彼女もまた、弱い人間だったのです。本当に死にたかったのは、むしろ彼女のほうだったのかもしれません。二人は別々に死にましたが、心中だったのです・・・」叶の報告書に目を通した神代は「これは感想文であって報告書ではない」と書き直しを命じる。報告書を書き終え、六本木の雑踏を歩く叶は、ふとすれ違った少女の顔に、娘の面影を見る。彼女の夢、そして絶望と死は、この街ではありふれたものだったのだろうか?そんな想いが叶の胸をよぎるのだった。
【感想など】
夢と現実とのギャップに傷つき、死を選んでしまう若者の弱さと哀しさを描いた一本。情けないにも程がある自殺動機はもちろん、好きだった(と思われる)娘を罪に落としてまで、自殺を手伝わせる青年に、感情移入する視聴者はほとんどいないだろうと思われます。
娘の行動と心理についても、説明がつくようで、どこか納得できないものがありますが、それでもなお、それなりに見応えがあったのは、「現実は汚い」という彼と彼女の主張に、共感せざるを得ないものがあるからではないでしょうか?「だからと言って死ぬことはないだろう」という思いは、もちろんあるのですが、そう言えるのは、我々が「夢と現実は違うもの」と、世の中を分かったような気持ちになっている「大人」だからこそ。かつて、世間の厳しさ、現実の厳しさを知らずに、ただ夢を追っていた頃の気持ちを思い返してみれば、一概に「愚かなことを」と言い捨てにできないものがあると思います。
一方、視点を変えて、叶の立場からドラマを振り返ってみると、(何の確証も無く、直感を頼りに娘を追い掛け回すのは無理がありますが、それはさて置くとして)ひたすら空回りしている印象です。落ち込む娘への「オーディションに落ちる、落ちないは問題じゃない。大切なのはずっとやり続けることじゃないか?踏まれても踏まれても、踊り続けることじゃないか?」との励ましや、連行される娘への「君は立派に踊ったじゃないか」との言葉は、結局のところ、娘の胸には届いていません(届いてはいるのかも知れませんが、青年の言葉ほどには娘の行動に影響を与えてはいません)。意地の悪い見方をすれば、本編のもう一つのテーマが「過剰な思い込み、思い入れが空回りする悲劇」ではないかとも思ったりするのですが(ラストの課長の突き放すような台詞なんかが特に)、底意地の悪さには定評のある(褒め言葉ですよ)佐藤脚本だけに、あながち深読みしすぎではないかもしれません。