特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

第368話 野鳥団地の女!

2007年12月06日 01時14分22秒 | Weblog
脚本 藤井邦夫、監督 天野利彦

ある夜、ルポライターが殺された。所持金は奪われてなく、動機は怨恨と推測された。被害者は、5年前の一家皆殺し事件のルポを書くため、犯人の愛人だった女に取材攻勢をかけていた。だが、女は頑なに取材を拒んでいたという。重要参考人として女を事情聴取する特命課。女は「内縁の夫と一緒だった」とアリバイを主張。そのとき、特命課に女の夫から電話が入る。応対した紅林に「奴を殺したのは俺だ。女房は関係ない」と告げ、夫は電話を切った。女は「夫はいろんな現場に泊り込みで働いていて、帰ってくるのは土日だけ。だから、夫の素性をよく知らないし、籍も入れていない」と語る。神代は「お互い、消し切れない嫌な過去を持っているのではないか」と推測する。
女の住む団地に送っていく紅林。女は野鳥が訪れる川辺に紅林を誘い「ここで夫と出会ったんです」と語る。夫は野鳥を見るのが好きで、いつか一緒に渡り鳥を見ようと約束したのだという。「本当は、あの人に私のことを知られたくなかった。だから、あの人のことも聞かなかった」
建設現場で夫を探す特命課だが、該当する人間はいなかった。夫は女に嘘をついていたのだ。騙されていたと知って、なお夫をかばう女は、捜査への協力を拒む。やむなく団地内で聞き込みを開始する紅林たちだが、夫の存在を知るものはいなかった。団地内で野鳥好きの人間を探し回った紅林は、一人の男と出会う。男は、妻子を持つエリート商社マンだったが、仕事優先で家族を顧みなかったために、家庭に居場所を失っていた。
その後も女の張り込みを続ける紅林。モノレールから女を見つめる白い服の人影に気づいた紅林。駅に先回りしたものの、それらしき人影は見当たらない。人並みの中に先日の男を見かけた紅林は、男=夫ではないかと直感する。紅林の直感が正しいとすれば、男は同じ団地内で二重生活を送っていることになる。男の家庭や会社を調べたところ、男は週末になると出張と偽って外泊していた。だが、それ以上の物的証拠は何もなかった。
女を訪れ、男の写真を見せて証言を迫る紅林。だが、女は首を横に振る。戻って来ない夫の分まで食事を用意する女の姿に、苛立ちを抑えきれない紅林。「この男は今頃、この団地の別の部屋で、妻や子供と一緒に食事をしているんだ!」と声を荒げる紅林。だが、女は静かに答える。「あの人がどんな名前でどんな暮らしをしていようと、この部屋で私と一緒に過ごしていたのは私の夫です。私のために人を殺したあの人は、いつかきっと、一緒に渡り鳥を見ようと誘いに来てくれるんです」
翌日、川岸で野鳥を見つめる男に、一途に夫をかばい続ける女のことを語る紅林。彼女への苛立ちと、夫への怒りを語りつつ、暗に自首を勧める紅林。意を決したように、野鳥を見ている女のもとへ歩み寄る男。特命課の存在に気づいた女は、「近寄らないで」と警告し、立ち去ろうとする。女を引きとめ「この人が、あなたの夫ですね?」と念を押す紅林。「違います!」と答える女だが、悲しげに見つめる男の前に、思わず泣き崩れる。「もういいんだ」女を優しく抱きしめる男。ふと気づけば、いつか一緒に見ようと約束した渡り鳥が川岸で鳴いていた。

地味ながらも特捜らしい味のある一本。野鳥が羽を休めるかのように、新しい生活を求めてニュータウンに集う人々。その中で、捨てたくとも捨てられない過去を背負った男女が出会う。過去を知られることを恐れながら、一人で生きていくことに耐えられない女。もはや家族からは得られない温もりを求めて、偽名を使って女のもとへ通う男。そんな二人が紡いできた愛情が、男を悲しい殺人へと駆り立てる。
自分のせいで崩壊してしまった家族を傍観するしかできない男。そんな自分を情けなく思うからこそ、かりそめながら第二の家族である女だけは、殺人を犯してでも守らねばならなかった。「俺たちの仕事は矛盾だらけだ。逮捕したいと思う一方で、そっとしてやりたいとも思う」と紅林が語るように、悪意なき殺人者を追及する刑事の悲哀が、ラストシーンの手錠に込められています。
哀しい殺人者を演じるのは、やいと屋こと大出俊。演出の唐突さもあって、現れた瞬間に犯人と分かってしまうのは残念なところ。真相を暴くのがドラマの本筋ではないとはいえ、もう少し何とかならなかったものでしょうか?