特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第371話 7月の青春レクイエム!

2007年12月14日 18時21分16秒 | Weblog
脚本 亜槍文代、監督 野田幸男

銀行強盗の現場に居合わせた叶と吉野。女行員の喉元にナイフを突きつけ、逃走を図る強盗犯人に銃口を向ける叶。女行員が「撃たないで!」と必死で叫ぶ姿に、叶は苦い記憶をダブらせる。その迷いが、強盗犯の逃走を許してしまう。マスコミに向かって「自分のミスです」と告白した叶を、神代は処分せざるを得ない。
叶の脳裏をよぎった悪夢、それは、夜間大学の同級生だった親友を自分の手で殺めた記憶だった。孤児院育ちの叶にとって、親友とその妹、母が暮らす家庭は、招かれるたびに温かな想いに包まれる「第二の我が家」と言えた。しかし4年前、刑事となった叶は、勤め先の金を強奪した親友を追う羽目になる。追い詰められた親友は「自首する前に、奪った金を弁償したい」と妹に懇願した。叶と対峙する兄のもとに、必死でかき集めた金を届ける妹。だが、血迷った親友は、妹を人質に逃走を図る。喉元にナイフを突き立てられながらも「撃たないで!」と必死に叫ぶ妹。やむなく叶は引き金を引く。銃弾はナイフを持つ手に当たったが、階段から転落した親友は頭を強く打って死亡。兄がその親友に殺されるのを目の当たりにした妹は、ショックで記憶を失った。
謹慎処分となった叶は、親友の墓参りに向かう。真新しい花束を見て、最初は母親が手向けたものかと思った叶だが、住職の話では、若い女が定期的に参っているのだという。
一方、強盗犯を追う特命課は、逃走車両が盗難車だと突き止める。車の持ち主であるカメラマンの協力を得て車両盗難犯を追う特命課だが、目撃者はなく、捜査は暗礁に乗り上げる。
精神科に入院する妹を見舞った叶は、ときおり妹が病室を抜け出していることを知る。墓参りの主は妹だった。彼女は記憶を取り戻していたが、辛い現実から逃避するために記憶喪失を装っていたのだ。妹の姿を女行員と照らし合わせた叶は、あることに気づく。「人質となった女行員も、強盗犯をかばっていたのではないか?」密かに女行員をマークする叶。そこにカメラマンを尾行してきた特命課が合流する。車両盗難がカメラマンの狂言だったのではないかと推測し、容疑者としてマークしていたのだ。こっそり落ち合う女行員とカメラマンに、歩み寄る刑事たち。二人は罪を認め、事件は解決した。
後日、なおも浮かぬ顔の叶のもとに、妹が訪ねてくる。「私は忘れません。自首しようとした兄を、無慈悲にも撃ち殺した刑事がいたことを」憎悪の目で睨みつけ、去っていく妹に、弁解するでもなく、なぜか微笑を浮かべる叶。妹を送っていく叶に代わって、神代が刑事らに真相を明かす。あの日、叶の親友は自首するつもりなどなかったのだ。母親や妹のために身を粉にして働いていた親友は、眠気覚ましの薬に頼るうちに、いつしか覚醒剤中毒者となっていた。妹に頼んだ金も、逃走資金を得るための嘘だった。「貴様、妹さんまで騙すつもりか!」叶の悲痛な叫びも、もはや親友には届かない。「お前に捕まるくらいなら、妹を殺してでも逃げてやる」次の瞬間、現れた妹を人質に取る親友。やむを得ず放った叶の銃弾は、結果として親友の命を奪った。「だったら、逆恨みじゃあないですか!」妹に真相を伝えんとする吉野を、船村が制止する。「叶君は、許してもらおうなんて望んじゃいない。むしろ逆だ」「それじゃあ、叶は自分を憎ませることで、彼女に生きる気力を・・・」叶の優しさを知り、笑みを浮かべる刑事たち。声一つ掛けることなく妹を見送った叶は、「これでいいんだよな」と、亡き親友に語りかけるのだった。

親友を手に掛けた哀しさを胸に秘め、その親友の家族に恨まれながらも、なおその幸せを願う叶の優しさが、胸を打つ一本です。
自分に良くしてくれる友人の母親というものは、誰にとっても、我が家とはまた違った懐かしさを感じるもの。孤児である叶にとっては、なおさらだったでしょう。そんな“おふくろさん”に「二度と顔を見せないで」と罵られる辛さはどれほどのものだったでしょうか?同様に、自分に懐いてくれる友人の妹というものは、誰にとっても愛しく、幸せを祈りたいもの。そんな妹に「鬼!」と罵られる辛さは、どれほどのものだったでしょうか?憎しみを買うとしって、それでもなお「罪を犯した人間を捕まえるのは、刑事として当然のことだ、恨むなら、君の兄さんを恨みなさい」と言い放つ叶の胸の内を思うと、たまらないものがあります。
妹の行為は、客観的に見れば、叶が言うように「甘ったれ」であれ、吉野が言うように「逆恨み」でしょう。自首すると言いつつ自分の喉にナイフを突きつける兄に、彼女が疑惑を抱かなかったのか?という突っ込みもあるでしょうが、妹は心の奥底で兄の真意に気づいてはいても、それを自覚することが怖かったのではないでしょうか?今は兄を信じ、叶を憎むことしかできないかもしれません。しかし、いつか時がすべてを解決し、彼女に真実を見据える勇気を与えることでしょう。犯罪者に堕した兄を恨むことも、その兄を殺した叶を恨むこともなく、二人が妹や母親の幸せを願っていたことに気づく日が来ることを、信じたいと思います。