本を読もう!!VIVA読書!

【絵本から専門書まで】 塾講師が、生徒やご父母におすすめする書籍のご紹介です。

『かまやつ女の時代』三浦展

2006年04月04日 | 教養
 
『格差社会』『勝ち組・負け組』や『負け犬』という言葉が氾濫しています。『かまやつ女』という言葉はどうでしょう?いずれも社会の階層化傾向をいうのですが、それは男性よりも女性の服装にすぐに表れると、筆者は指摘します。最近増えているのが“かまやつ女”。あの、歌手のかまやつひろしみたいということです。ご存知でしょうか?

かまやつ女の具体的な服装は、昔の中年男性がかぶっていたような帽子をかぶり、服は全体的にゆったりフィットの重ね着、色あせたジーンズやスパッツかなにかで、髪はどこかもっさりで、スニーカーなど。ブラウスは着ないし、スカートもはいたとしてもまれで、はくなら濃い色のソックスで足を隠す。とにかく楽チンな格好をするのですが、これが特定の町で急増しているそうです。

渋谷にいるのはギャル系・コンサバ系で、かまやつ女系とはタイプが異なるそうで、彼女らは原宿、下北沢、吉祥寺に多いそうです。年齢は18~20歳くらいがほとんど。で、彼女らはどういう考え方や行動様式を取るのかということの分析です。

筆者はマーケティングの専門家です。アンケートなどの調査のサンプルの少なく、やや雑なのが悔やまれます(筆者もそれは認めています)が、非常に興味深く読むことができました。それにしても、本人は『自分らしく』生きているつもりでも、こんなくくられ方をされてしまうとは…。なるほどと思うのと同時に個性発揮の難しさを感じます。

『下流社会』が驚くほど売れましたが、その前に本書が出ています。こちらは、活字も大きく、やや雑な書き方の本ですが、女性に的を絞った話しで、写真や図が多く用いられていますので、先に本書を読んだ私は、下流社会よりも強く印象に残っています。

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「かまやつ女」の時代―女性格差社会の到来

牧野出版

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『愛国心』田原総一朗、西部邁、姜尚中

2006年04月02日 | 教養
 
いよいよ教育基本法の改正と思いましたが、やっぱり愛国心という言葉には、公明党が難色を示すのですね。“郷土”“国”“愛国心”それぞれ人によってイメージも異なるでしょうから、話し合いも難しいのでしょう。

本書を読んでみたのは、田原氏が『なぜヨーロッパと異なり日本だけは“愛国心”が民主主義につながっていかないのか?』と問いかけていたからです。まさに私の疑問とぴったりでした。つまりなぜ日本だけが愛国心を健全に使えないのか?

WBCのイチローを持ち出すまでもなく、愛国心は当たり前の言葉でありながら、もっとも危険な言葉と扱われている現状です。愛国心を錦の御旗に戦うこともあるでしょうが、愛国心ゆえ不戦の誓いを新たにすることもありますよね。

北朝鮮問題や中国のデモ、最近でも、嫌韓の流行、WBCやサッカーワールドカップ、これらの報道を見ていれば、強く日本を意識します。避けがたくあるものを徹底して否定してしまうのは、『公』すべての軽視につながらないのか。

本書では右、左の論客二人に田原氏が混じって、『朝まで生テレビ』風の討論を展開します。朝生風ですから、結論は出ませんし、時として話がかみ合っていないなと感ずる部分もあります(笑)。しかしテレビと違い、とんでもない方へ話が進んだり、相手を罵倒したりするわけでもないし、冗長な言い回しもありません。

まぁ田原氏以外は落ち着いた語り手ですから、テレビよりずっと能率よく頭に入ります。書名は『愛国心』となっていますが、言葉の問題だけではなく、戦前、戦後の日本の状況を分析したり、今後の日本について語っています。もっと対立する部分があるのかと思ったのですが、北朝鮮問題やアメリカのイラク攻撃のせいでしょうか、歴史的な事実や現状分析などで一致しているところも意外と多いというのが新鮮な発見のような気がします。

とここまで書きましたが、今確認しましたら、本書の文庫版が出されており、そちらには「靖国問題など大幅加筆」と書かれていましたので、そちらの方が良いでしょうね。
愛国心

講談社

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『心理療法個人授業』 南伸坊・河合隼雄

2006年03月25日 | 教養
 
では、受験もすべて終わりましたが、やはり今年も医学部志望はもちろんですが、心理学や心理療法を学びたいという高校生はかなりいました。受験生は読書をする時間がなかなかないのですが、理想を言えば、そういう人にはぜひ読んでもらいたい一冊です。

シリーズもので、南伸坊氏が生徒役になってその分野の第一人者に“個人授業”を受けます。つまり、日本の最高峰の知識人がわかりやすく素人に対して、説明をしてくれるわけです。ちょっと難しめのところや、誤解しやすいところは反復があったり、各章にまとめがあったりして、学習者は大助かりです。

本書では、河合隼雄氏が心理学(療法)の歴史や現状などを講義しますが、さすが第一人者、丁寧にわかりやすく、深みのある話をしてくれます。学生の小論文対策でなくとも、われわれ大人も教養としてぜひ覚えておきたい内容がたくさん出てきます。まずは催眠術からです。

医学に興味のある人には『解剖学個人授業』(講師:養老孟司氏)や『免疫学個人授業』(講師:多田富夫氏)がありますが、特に後者はストレスと病気といった一般的なことがらについても楽しく学べます。私も以前ストレス性潰瘍で入院した経験があり、それに照らし合わせてじっくり読みました。
心理療法個人授業

新潮社

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『世界がわかる宗教社会学入門』橋爪大三郎

2006年03月25日 | 教養

本書は東京工業大学で筆者がおこなっている宗教社会学の講義をもとに編集した一冊です。大学では宗教を知らない“高校生に”話すつもりで講義をしたということですので、読みやすくなっています。世界の4大宗教、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教、仏教を取り上げ、さらに宗教改革とは何か、儒教とは何か、尊皇攘夷とは何かなどの章立てがあります。

筆者の考えでは、日本人は宗教を知らなさ過ぎる、このまま若者が世界に出て行くのは危険でさえある、と述べています。これには私もまったく同感で、私も自分の無知を痛感いたしました。

9.11のテロも衝撃的でしたが、世界史的にもテロ、地域紛争などは宗教を理解しないと、なぜそこまでやるのかということが日本人にはどうも腑に落ちない気がします。宗教に関する本はさまざま出ていますが、本書のように、一冊で世界の主要な宗教のことをまとめた本は、ありそうでなかなかありません。

なぜ日本の捕鯨にあれほどの反対があるのか、中国、韓国の人々はなぜ日本にことさら反発を持つのか、文明の中の宗教という視点から眺めると、実に多くの疑問に対するヒントを授けてくれます。

世界がわかる宗教社会学入門

筑摩書房

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『14歳からの哲学』池田晶子

2006年03月24日 | 教養

WBCのイチローは言葉では表せないほどの衝撃を持っていました。トリノ五輪の荒川選手も同様です。敗者の中にも同種の感動を引き起こす例は限りなくありますが、競技のすばらしさ以外に、彼らが見る人に伝えるものは何なのでしょうか?何をすばらしいと感じたか、どうしてそう感じるかを子どもたちに考えてもらう一冊です。

本書の題名は、14歳からとなっていますが、年齢に関係なく多くの方が共感できる本だと思います。後半は17歳からの哲学となっています。筆者はニュースステーションにも出演したそうで、そんな話題になるような本だったのですね。

それを見た人の話によれば、難解な用語を連発し、せっかくわかりやすく書いた本なのに、逆効果だと言っていましたが(笑)。つまり簡単ではないということですね。

【感じる】ことと【考えること】はどう違うか、自分とは何ものか?よ~く考えると、世の中のものすべて『ある』のではなく、自分の心が『作り出している』ということが分かります。『生きていることはすばらしいと思っているだろうか』という問いかけから始まります。

『すばらしい』『つまらない』『どちらでもない』の答えに対して、さらに問いかけを続け、どこまでも考えてみようと呼びかけます。考え抜いていくと今まで自分が思っていたことと全く逆の結論になったりします。 

いかんせん哲学ですから、まるっきり興味のない人には『何言ってんの?』ということになるかもしれません。また『世の中すべては心である』というように考える余裕のある中学生は少ないかもしれません。

そのため、本書はソクラテス、アリストテレス、カント、ヘーゲルなどの名前や哲学用語は出てきません。イチローなどを例にとり、幅広く、わかりやすく人生を語ります。考えて考えて考え抜いた上で『自分』を確認できれば、何も恐れることはないんだと教えてくれます。子供だけでなく多くの大人や親御さんにもお読みいただきたい一冊です。

そういえば14の逆、41歳からの哲学という本も出ていましたね。

14歳からの哲学―考えるための教科書

トランスビュー

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『女は何を欲望するか』内田樹

2006年03月24日 | 教養

東京都国分寺市が、都の委託で計画していた人権学習の講座で、上野千鶴子・東大大学院教授(社会学)を講師に招こうとしたところ、都教育庁が「ジェンダー・フリーに対する都の見解に合わない」と委託を拒否していたと報道されました。

確かに「ジェンダー・フリー」の名の元に、過激な性教育や男女が同じ部屋で着替えをさせたりするなど、本来の意味からはかなりかけ離れた事態を招いているようですね。それにしても都の対応はどうなんでしょうか?新聞だけでは詳細がわかりません。

本書は“フェミニズム”という観点で論じています。内田氏のフェミニズムに対する認識は、その運動のおかげで、我々の社会のいびつなところ、目が届かなかった問題が表出し、改善された部分もあった。しかし、その思想を政治的に利用しようとするあまり、過激に性急な要求などを掲げたため、今や支持や影響力を失いつつある、というものです。

かつては「売られた喧嘩はすべて買う」と豪語していた、上野千鶴子がその後「もしフェミニズムが、女も男なみに強者になれる、という思想のことだとしたら、そんなものに興味はない。弱者が弱者のままで、それでも尊重されることを求める思想が、フェミニズムだと、わたしは考えてきた。」と述べたことを『方向転換』だとして、一体なぜそのような事態に陥ったのかを考えてみようというのが本書の中心です。

マルクス主義同様、一見まったく誤謬のないフェミニズムの理論が、一般に受け入れられなかった理由を分析するわけです。哲学的でもあり、易しい内容ではありませんが、内田氏の他の著作同様、新鮮な指摘にあふれています。


女は何を欲望するか?

径書房

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『街場の現代思想』 内田樹

2006年03月18日 | 教養
私にとって、内田氏の著作はどれもこれも新しい考え方を提供してくれているというか、自分がどうなんだろうかと思っていることをうまい言葉で説明してくれて、得心がゆく、そんな気がします。構造主義だとか、浄土真宗だとか倫理学についての著書があるのですが、専門的なことを日常的な言葉で置き換える名手ですね。ただし、その置き換えられた内容に賛成するか、疑問に思うかはしっかり自分で考えることが必要だと思います。

本書もまさにそういう一冊で、氏の著作の中でも最も平易な言葉で書かれた、そして、最も身近な問題を扱っています。哲学や倫理という、あまり実社会で役に立ちそうにない学問が、これほどまでに現代社会の問題に応用できるのかと感心します。

前半部分で、東大の教育学者、苅谷剛氏や佐藤学氏などの著作や対談の中で出てきた、東大入学者の親の年収がとても高くなりつつあるという調査結果を現代社会の象徴的なものとして例に出します。日本中で進行している『勝ち組と負け組』『利口組とバカ組』という二極分化の現象を考察します。

国の将来を考えたら、日本がフランスなどのような階層のある国に向かうのが非常に危険であるという結論です。経済的な格差などは、努力次第で何とでもなるが、それが文化にまで及んでくると本人の努力などは埒外に置かれてしまう。日本がこれまでのように、流動性や活力を失わないでいるためにどうしたらよいか、筆者の戦略が述べられます。

後半は学生や読者からの日常的な不満、質問に関して、筆者が答えるという形式をとっています。『なぜ敬語を使うのか』『給料が安い』『フリーターについて』『結婚について』『学歴について』などなどです。いずれの問題に対する考察や答えは非常に参考になります。

こんな風に人に質問に答えたり、自分の疑問を解決できるようになれたら、ずっと前向きに生きていけるはずです。

街場の現代思想

NTT出版

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『曽根崎心中』近松門左衛門

2006年02月08日 | 教養
超有名なんですが、初めて読みました。
心中物です。

死ぬ覚悟があれば何でもできる、
頑張れる、という風に私は思うのですが、
この作品の味わい方は別のところに
あるなと、思いました。

「曽根崎心中」が著された近世封建社会で、
情死は「気弱な」主人公徳兵衛による
現実逃避というのはちょっと
不当な評価かなと思ったんです。

重視したいのは、徳兵衛が「心中」を
主体的に選択したことです。
なぜなら、主人の進めた縁談を蹴ってまで
遊女と結ばれることを望んだのは、
他ならぬ徳兵衛だからです。

また、「道行」の際、死を恐れる
お初を勇気付ける姿は普段の
「気弱な」徳兵衛らしさは
微塵もありません。

人から聞いた話でイメージしていた
主人公の姿が、
実際作品を読んでみると
随分違うように感じました。
面白いものです。
曽根崎心中・冥途の飛脚 他五篇

岩波書店

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