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藻谷浩介&山田桂一郎著『観光立国の正体』新潮新書/地域内でおカネを回そう!

2018年01月16日 | ブック・レビュー
 観光立国の正体 (新潮新書)
 藻谷浩介、山田桂一郎
 新潮社

1月25日(木)、「観光地奈良の生き残り戦略2018」と銘打ち、奈良県と南都銀行の共催で「第9回 観光力創造塾」を開催する。無料だが申し込みが必要である。まだ席があるので、今からでもぜひお申し込みいただきたい(お申し込み方法は、こちら)。

講師にお迎えするのは藻谷浩介氏と山田桂一郎氏。お2人には『観光立国の正体』(新潮新書)という共著がある。イベントに申し込まれている方の中にも未読の方がいらっしゃるようなので、本書の概要をここに紹介しておく。まず、本の要約サイトflierの「レビュー」によると、

観光はサービス業である。ゆえに、観光を地域の基幹産業に据えるのであれば、観光客に「また来たい」と思わせるサービスを提供してリピーターを獲得していかなくてはならない。それを怠れば客から旅先に選ばれなくなり、やがて観光地として寂れていく。そして、地域全体の活力までもが失われていくことにもつながる。

日本の観光地は、かつては団体客を効率よく回していくことで収益を上げていた。しかし、団体客が減って個人客の割合が高くなった途端に、客をリピーターに変える魅力や価値が十分に備わっていないことを露呈し、多くの観光地は集客に悩むようになっていった。

著者の一人である山田桂一郎氏は、山岳ガイドやスキー教師としてスイスの観光産業に携わってきた人物だ。日本各地を回り、スイスで培った経験や知識をもとに観光地の再生、ひいては地域の再生のためのアドバイスをしている。そのポイントは「住民主体の地域経営」と「地域全体の価値向上」である。本書ではこれらの点を踏まえて立て直しに取り組み、成果を上げた地域が紹介されている。

観光産業だけが潤うのでは意味がない。農林漁業や商工業などの他の産業、そして一般住民までもが豊かさを実感できるようになることが重要なのだと山田氏は強調する。その地域が真の意味で豊かであれば、訪れたものに幸せを実感させ、良き思い出となる。まさに観光地を「感幸地」にするためのヒントが詰まった一冊だ。




では、以下に主な論点を本文から抜粋して紹介する。

第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス(山田桂一郎)
残念ながら日本の観光・リゾート地のほとんどは、そういった(海外の事例のような)厳しいリピーター獲得競争を知らないまま、ひたすら一見客だけを相手に商売を続けてきました。特に高度成長期からバブル期、近年までずっと一拍だけの団体客メインでやってきたために、せっかく二泊、三泊と連泊を希望している個人のお客様に対して、二泊目以降の夕食を出せなくなってしまう旅館やホテルが未だに存在しています。もしくは、そういう個人客にも団体用のビュッフェスタイルの食事でごまかしています。

経営的に見ればどう考えても長期滞在者の方がありがたいはずなのに、そういう一番大切な顧客を満足させるノウハウを持っていないのです。このことは、日本の観光業界において「リピーターあってこそのサービス業」というビジネスの常識すら共有されていない証拠と言えます。

昔々、画一的な団体旅行が主流だった時代は、それでも問題なかったかもしれません。しかし、これだけ価値観が多様化し、インターネットでいくらでも情報が得られる時代、その手法が通用しないのは明らかです。実際、宿泊者数ではなく消費額ベースで見ると、団体客のシェアはすでに全体の約1割です。つまり業界の売上の約9割が、今では個人によって支えられています。

しかし、そういう現実は理解していても、古いタイプの事業者というのは自らマーケティングをしてきた経験もありません。そもそも自分たちの魅力について真剣に考えたこともないため、どういう層のお客様にどのような商品提供や情報発信をすればよいかも分からないのです。その結果、やみくもな価格競争に巻き込まれてしまうケースが多くなってしまうのです。

さらに困るのは、寂れた観光・リゾート地ほど、そういった老舗旅館や大型ホテルの経営者が地元観光連盟のトップや役員になどに君臨していることです。既得権にどっぷり浸かった古株の中には、自分たちの無策を棚に上げて、お役所から予算を引っ張ることしか頭似ない人も多々います。観光産業を狭い枠でしか捉えられず、社会全体の中に位置付けることができないため、お客様から見放された真の原因を見抜いていません。

第2章 地域全体の価値向上を目指せ(山田桂一郎)
(スイスのツェルマットでは)レストランで使う食材やホテルの備品にしても、「地元で買う・地元を使う」の思想は徹底しています。多少コストが高く付いたとしても、地域内でお金を使ってキャッシュフローを活発にした方が、結局は地元のためになる。この考え方はツェルマットが観光・リゾート地としてスタートした19世紀末から一貫して変わりません。もちろん、質が悪いものを扱うと厳しく指摘されますから経営努力を怠ることはできません。

今、日本の観光・リゾート地に一番欠けているのが、この「地域内でお金を回す」という意識ではないでしょうか。特に近年は、目先の価格競争に気を取られ、1円でも安い業者から食材・資材を購入しようと躍起になっている事業者が増えています。しかし、そうやって無理に利益を出しても、地元の生産者や業者が倒れてしまえば、結局はその地域の活力そのものがなくなってしまいます。

第5章 エゴと利害が地域をダメにする(藻谷浩介、山田桂一郎)
藻谷浩介:行政がすすめているガイド養成事業についても、山田さんは「ボランティアガイドばかり増えていてプロとしては使えない」と指摘されていますよね。熊野古道などではガイドをちゃんとプロにするぞという考えを持って、養成事業に税金も使ってきたわけですが、これは相対的にはマシと言えるんでしょうか。

山田桂一郎:これも全国的に同じ問題を抱えているのですが、どこも的を射ていないというか、極めて効率が悪い。例えば、行政が主催するガイド養成講座は平日の昼間中に開催することが多く、基本的にリタイアした暇なおじさんおばさんしか参加出来ません。しかも、稼ぐ気がなく生涯学習の講座のような感覚で参加しているので、ビジネスの話をすると文句を言う人までいます。これでは、他に仕事を持った人たちや既にガイド業で活躍している人たちがスキルを磨いて食っていきたいと思っても参加出来ません。

山田桂一郎:きつい言い方に聞こえるかも知れませんが、私は「質の低いボランティアガイドはストーカーと同じである」と言っています。相手が何を望んでいるのかも確かめず、自分の知識をひけらかすように上から目線でひたすらしゃべり続けて観光客につきまとっているわけですから。


「質の低いボランティアガイドはストーカーと同じ」とは、キツい言葉であるが、奈良にはそんな人はいないと信じたい。そういえば県は「プロの観光ガイドを増やす」と公言していたが、進捗しているのだろうか。

藻谷浩介:観光地は地域としてまとまって行動しなきゃダメですよという話をすると、若い世代は比較的分かってくれる。なぜかというと、いい時代を知らないから。旅行業界のアンシャンレジーム構造がなぜできたかというと、戦後、旅行の「リョ」の字も知らない人たちが一生に一回ぐらいは旅行に行ける時代になり、さらに一年に一回ぐらい行ける時代になったので、今の中国人による爆買いみたいな現象が国内で起きたわけです。

藻谷浩介:素人さんが大勢旅行に行くので案内業、つまり旅行代理店が大成長を遂げるという時代が70年代にあった。年寄りの脳中にはその残像がいまもあるんだけど、そんなのを知らない若い人たちは、昔の常識は役に立たないと分かっている。旅館だって、飲食店と同じように直接ネットで見て自分で選ぶと分かっている。

藻谷浩介:だけど、旧来型の人たちがまだ生き残っていて、客が来ないと「お前ら観光協会のプロモーションが悪いからだ。だから俺に実権を戻せ」となってしまう。有名観光地で起きているのはそういうことですよね。せっかく若手が頑張ってやろうとしたり、北陸の某有名温泉のように県の観光担当が事情を分かって指導していたところで、突然先祖返りが起きてしまう。もしくは、世代交代を全くせずに老害が残る。

山田桂一郎:まあ、戻ってきても考えることは単純な宣伝や広報が中心で、例えばいきなり知事のところへ行って「大河ドラマか朝ドラを引っ張ってこい」と訴えたりするから、行政側も頭抱えますよ。

藻谷浩介:つまり彼らは、「知名度が落ちているから客が来ない」という認識なんですよね。松下村塾のあった山口県の萩は二年に一度は大河ドラマに出ているのけれど旧態依然の事業者の巣のようになっています。関ヶ原も同じく二年に一回は大河ドラマに出るけど、誰も観光に行かない。事実に照らして考えればわかりそうなものですが、考えない。ましてや知名度ではなく自分の経営が悪いと考えることはない。

第7章 「おもてなし」は日本人の都合の押しつけである(藻谷浩介、山田桂一郎)
山田桂一:ただ次回の東京に関して言えば、そもそも言われているような経済効果はないですよ。都市圏人口もGDPも世界最大の都会で、元々が巨大ですから、オリンピックのプラスなんてほとんどないのです。東京でのオリンピック効果と、鳥取での国体の効果は、比率で考えれば後者の方が大きいですね。そしてどちらもたいしたことはない。


本書に出てくる「地域のボスゾンビ」はちょっとした流行語になり、かつて「都議会のドン」と並べて論じられた。サイト「デイリー新潮」によると、

「都議会のドン」だけじゃない!「観光立国」の前に立ち
はだかる「地域のボスゾンビ」たち(2016年11月29日)

小池百合子都知事の誕生で、それまで語られることのなかった「都議会のドン」や彼を取り巻く利権構造が可視化されたが、「ドン」が生息しているのはもちろん東京に限らない。むしろ、問題は地方の方が深刻だ。地域の再生に現場でとり組む2人の専門家が「ぶっちゃけ」で現状を語って話題を呼んでいる『観光立国の正体』(藻谷浩介、山田桂一郎著)によると、観光立国にとって最大の問題は「地域のボスゾンビの存在」だと言う。

■「半沢直樹の敵みたいな人」
「地域のボスゾンビ」とは、地元の有力な観光事業者で、一族からはしばしば政治家などが輩出することもある「現状維持勢力」のことである。自分たちの商品や魅力に磨きをかけることなく、「もっとPRすれば客は来てくれるはずだ」と信じて、旧来型の観光の仕組みに安住し続ける人たちである。「比喩的に言えば、自分では何もしないけど他人の邪魔だけはする、半沢直樹の敵みたいな人」(藻谷氏)。

バブル崩壊以降、有名観光地の多くは凋落傾向に苦しんできた。そうした現状を打開しようと、地元の事業者の中には若手を中心に、新しい試みをしようと考えている人たちも出ている。それが功を奏して復活を果たした観光地も多くある。しかし、そうした若手たちの試みを苦々しく見ていて、事あらば潰してやろうと考えている「地元の名士」たちも沢山いたのだ。その「地元の名士」が現状維持を図り、改革の芽を潰しにかかったとき、「ゾンビ」と化するわけである。

『観光立国の正体』の中で挙げられている例の一つに、志賀高原がある。志賀高原ではかつて、若手事業者たちが停滞する現状を打開するために新しい試みを構想したことがあったが、地元に君臨していた「ボス」が圧力をかけて改革の芽を潰してしまったのである。それから数年が経ってインバウンドブームが起きたものの、志賀高原はそのブームに対応するための準備が出来ておらず、外国人客を取り逃がしてしまった。しかも、圧力をかけていたそのボスの会社自体が倒産してしまったのである。

同じ頃、近くにある野沢温泉では若手の改革が実を結んで、スノーリゾートとしての評価が高まった。今では外国人スキーヤーが2週間単位で滞在する場所にまで変貌を遂げているが、地元のボスに食い物にされた志賀高原は、いまだ充分にインバウンドを取り込めずにいる。

■有名観光地でゾンビ大復活!
同書の中で、著者で観光カリスマの山田桂一郎氏はこう語っている。「最近の動きでとても気になるのは、全国的に有名な観光地や温泉地の観光協会や宿泊業組合等の組織で、役員が老齢化していることです。これまでの古い体質から脱して、新しい組織で動きだしたと思ったら、役員が前の世代に先祖返りしてしまっている場合も多い。でも、居座っている古い人たちも何をすればいいのかぜんぜん分からない。役職を手にして喜んでいることだけは確かですが(笑)」

「九州にある超有名温泉地でも、新しい観光推進組織が立ち上がり地域全体で支えて行かなくてはならないという時期に、地元の宿泊業組合の役員が代わって『逆走』が始まったことがありました。役員が代わっただけで、それまでまちづくりに頑張っていた組織がただの会員同士の親睦会になってしまった。全国の老舗温泉地ではいくつも実例がありますが、どの地域でもうかうかしているとやる気ある若手にとって代わろうとするヤクガイゾンビに乗っ取られますね。ヤクガイとは薬害ではなくて、役職だけを欲しがる役害です」

この九州の有名温泉地の他にも、北陸地方の有名温泉地、中部地方の海辺のリゾート地など、役害ゾンビが復活している観光地は枚挙にいとまがない。皮肉なことに、「地方再生」とか「観光立国」というスローガンが声高になっていることが、ゾンビたちを妙に元気にしている面もあるという。(デイリー新潮編集部)


デービッド・アトキンソン氏とはまた違った意味で、「よくぞ書いてくれた」と爽快になれる本である。シンポジウムではお2人がどのような切り口で「観光地奈良の生き残り戦略」を語ってくださるのか、今から楽しみ(心配?)である。お申し込みは現在も受付中(お申し込み方法は、こちら)。たくさんの方のお申し込みをお待ちしています!

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