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田中利典師の「3・11 ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」上映会舞台挨拶

2023年05月28日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、「3・11 ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」の金峯山寺奉納上映会の舞台挨拶である(師のブログ 2011.9.11付)。先日紹介した「大震災の祈り」が、この上映会の開催(世界初)につながった。
※トップ写真は、吉野山「花矢倉」からの眺望(2023.3.31 撮影)

最終的に内容が変更されたので、正確には「舞台挨拶の当初原稿」である。これを舞台で読み上げるのはややカタいが、文章で読むと、師の思いがダイレクトに伝わってくる。なお「3・11 ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」とは、知識・情報 イミダス(2011.09)によると、

世界の映画監督21人が、東日本大震災の被災地への思いを込めて、「『家』という感覚」(センス・オブ・ホーム)をテーマに制作した3分11秒の短編映像21本をまとめた映画作品。

2011年5月、カンヌ国際映画祭に参加した河瀬直美監督が世界の映画監督たちに協力を呼びかけ、スペインのビクトル・エリセ監督、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督、マレーシアのナジブ・ラザク監督などが、家族や故郷、祖国をテーマにした映像を自費で制作した。

震災から半年後の9月11日、奈良県吉野町の金峯山寺(きんぷせんじ)で奉納野外上映会が行われ、奈良市在住の河瀬監督のほかエリセ、ラザク両監督らも出席した。9月18日に「なら国際映画祭」で2回目の上映を行った後、東北の被災地などで巡回上映していく予定。


師のブログ記事〈「3・11 ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」金峯山寺奉納上映会のご挨拶〉には、〈金峯山寺奉納上映会、素晴らしかったです。夕方から吹き始めた風、虫の鳴き声、空に浮かんだ月、自然の力に見守られ、上映会最後の田中利典様のご挨拶、心に響きました。あたたかなお言葉でした〉というコメントが入っていた。では、記事全文を紹介する。  

「3・11 ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」金峯山寺奉納上映会のご挨拶
今、日本は大変なことになっています。あの東日本大震災の想像を絶する大災害から半年。そして西日本一帯を襲った先日の豪雨。奈良県南部や熊野地域はいまだ多くの方々が危険にさらされています。

半年前、連日映し出された大津波の映像と福島原発の惨状、そして数日前の集中豪雨のありさまを前に、私たちは立ち尽くすしかありませんでした。かけがえのない、私たちの美しい日本の国土が、今まさに大きな危機に瀕している、そんな気がしてなりません。

ここ蔵王堂はご開祖役行者開闢(かいびゃく)以来、千三百年にわたってつづく祈りの道場です。蔵王堂に祀(まつ)られる蔵王権現は、国家の災難を封じ、人々の生活を守る霊顕第一のご本尊で、その左足は、大地の振動を押さえ、地下の悪魔を打ち破る力を表しておられます。

その権現様に、私たちは大震災の翌日から、梵鐘を打ち鳴らし、被災者の平安と亡くなった方への鎮魂の祈りを捧げるとともに、日本全体が不安におののく心の恐れを取り除くため、毎日毎日地震の起きた時刻・午後2時46分の祈りを続けています。今、このときに蔵王権現さまに祈らなくて、いつ祈るのかという思いからであります。

今日9月11日は東日本大震災からちょうど半年を迎えるだけではなく、あの忌まわしい「9.11アメリカ同時多発テロ」からも10年の節目を迎えました。大きな意味を持つ今日この日、千年の祈りの場であるここ蔵王堂に於いて、私たちにとっての家族とは、故郷とは、祖国とは何かをテーマとする「3・11 ア・センス・オブ・ホーム・フィルムズ」の世界最初の上映会が奉納されようとしています。

地震津波の自然大災害や、原発事故のような人災、テロや戦火による被災によって、その都度、世界中で、人間にとってかけがえのないはずの生活や故郷や国が失われてきました。その、立ち尽くすしかないような現実を前に、私は蔵王権現さまへの祈りを持つしかありませんでした。それは私たちを育んできた大地や歴史・風土。祖国への感謝と、災いの消滅を願う祈りでした。

そして、今回の映画制作企画の主宰者である河瀬直美監督にとっては、この作品のテーマとなった「センス・オブ・ホーム」…つまり「ホーム」という感覚だったのだと思います。それは、宗教と芸術が別々の方法で互いに共有した、ある種の危機感だったとも感じました。その出会いが本日の金峯山寺上映会に繋がりました。

今、大震災から半年を経て、「あれはなかったことにしよう」というような、日本の風潮を感じます。東北で苦しむ被災者のことも、原発事故でどうにもならない事態に陥っている福島のことも、まるでよその国の出来事のように、どこかで忘れたい、豊かな元の生活を早く取り戻したいという世の中の流れに、私は大変な憂いを感じています。

まだわからないのか、と大自然が、権現様が、言っておられるような気がします。揺るぎのやまない国土、うち続くさまざまな災害はそのお叫びのように感じてなりません。

9.11以降世界は変わりました。そして3.11以降、日本は変わらなければいけないと思います。なかったことにしてはいけない。その感覚を今回の作品映像が、今に生きる我々にきっと伝えていただけると思っております。そして、後世の人々にも伝えなくてはならないものだと感じています。

地震による福島原発の事故や、うち続く災害でわかったことがあります。それは効率優先という名のもとの経済発展がもたらした、豊かさが持つ危さであり、大地への祈りと感謝を忘れた行為の愚かさでした。

私たちは大地とホームを今こそ、取り戻す、取り戻す方向に向かわねばならないでしょう。今夜の映画祭を、蔵王権現様とともに鑑賞することで、なにかが生まれることを期待してやみません。

最後に、今回の奉納上映会開催に当たり、意を尽くして奔走された「なら国際映画祭実行委員会」のスタッフをはじめ、遠く日本にお出ましをいただいたビクトル・エリセ夫妻ほか多数の製作監督、多方面にわたり惜しまぬ協力をいただいた地元吉野山や関係各位のみなさまに心より御礼を申し上げるものであります。合掌  金峯山寺執行長 田中利典
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