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田中利典師の「山の行より里の行」(中外日報「随想随筆」①)

2024年08月19日 | 田中利典師曰く
今日の「田中利典師曰く」は、〈「山の行より里の行」①仏教者として思うこと〉(師のブログ 2016.7.20 付)。この年の5月、中外日報「随想随筆」欄に4回にわたって掲載された連載の初回である。中外日報は、仏教など宗教と文化の専門紙で、利典師は時々、請われて寄稿されている。60歳で自坊に帰山されてからの活動と、その思いを綴られている。全文を紹介する。
※トップ写真は、金峯山寺・南朝妙法殿の桜(2024.4.5撮影)

「山の行より里の行」①仏教者として思うこと…田中利典著述集280720              
パソコンの不具合などのせいで休んでいましたが、久しぶりの回顧著述集です。今回は、今年(2016年)5月に中外日報「随想随筆」欄に連載させていただいた原稿の元原稿です。1行12字での執筆依頼を1行17字で書いてしまったので、編集者から指摘があって、急遽短くして掲載しました。いささか不本意なところもありましたので、元原稿を紹介させていただきます。よろしければご覧ください。

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「山の行より里の行」
昨年春、齢60を無事迎え、長年勤めた本宗の役職を勇退し、後輩たちにあとを任せて、京都府下綾部の自坊に帰山した。「40、50は洟垂れ小僧」が相場の僧侶の世界では、60才での引退はかなり早いし、勿体ないかもしれない。

私は15才から家を出て、天台宗と浄土真宗の学校で学び、26才で自坊林南院の本山である吉野の金峯山寺に入寺した。その後、教学部長、執行長、宗務総長と役職を歴任し、また家庭を設けて、1女3男も授かった。その間、自坊にはなんどか帰山しようとしたがその都度本山から呼び返されて、30数年を経ることとなり、ここ23年ほどは家族だけを綾部に置いての、単身赴任生活を送っていた。

こういう生活が70才くらいまで続くのかなと思っていたが、諸般の事情で昨年、吉野生活に終止符が打たれた。ようやく洟垂れ小僧から僧侶として1人前に扱ってもらえる年齢を迎える矢先のことなので、自分自身でも戸惑ったし、かなり心残りなところもあるにはあった。でも、よく考えると、70才を過ぎてから故郷に帰ったのではものの役にも立たないし、新たなことなどなにも出来ないにちがいない。いまは、そんなことに思いを至している。

さて、お山の上にいては出来ないことが、里に下りればたくさん出来る。もともと、私たち修験の世界では「山の行より里の行」…という教えがあり、山で修行した力を里の生活で活かしてこそ、その修行に意味がある、と教えている。実は昨年から東京で開講された「誇り塾」という私塾の塾頭を務めているが、山の修行で学んだ智慧を、一般の人々に伝えることで、世のため人のための一助になればと考えたからである。

また今年4月からは地元のFM局コニュニティラジオ「FMいかる」で毎週、コメンテーターも務めることになった(毎週水曜日正午から午後2時半までの生放送「とりたてワイド763」)。折角やるのだからと、番組の中に、「りてんさんの知人友人探訪」というインタビューコーナーも新設し、吉野生活で培ったネットワークを活かしていろんな方に登場いただいている。

第1回は高野山大学名誉教授の村上保壽さん。その後、空援隊専務理事の倉田宇山さん、聖護院の宮城泰年門主、東大寺の狭川普文新別当、興福寺副貫首森谷英俊副貫首と次々に出演願っていて、さらに九鬼家隆熊野本宮大社宮司や、本宗の五條良知金峯山寺管領さまなど、いろんな宗教者にお願いして、大いに語ってもらうつもりである。

今まで数々のメディアからの取材を受けてきたが、取材する側になるのは初めてのことなので、新しい発見も多く、かなり面白い。ところで、世は、無仏の時代というか、末法というのか、現代社会は宗教離れが著しい。一方で、仏像ブームや、パワースポット巡り、四国八十八ヶ所などの霊場巡拝、ご朱印帳ブームなど、宗教的なことに関心を抱く世代も多い。

要は今までの形とは違うアクセスのありように宗教者側がどう答えていくかが、問われていると言ってよいのかもしれない。そういう意味では、こういったラジオの出演も、役職を持たない身となって、私自身がそこのところでなにが出来るのか、正面から向き合う、絶好の機会を与えられたのだと思っているのである。

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中外日報の「随想随筆」(平成28年5月13日掲載)で連載させていだいた文章の元原稿を、加筆して転載しました。実はこの連載はもともと熊本地震など天変地異についての原稿依頼だったのですが、一度書いて、どうにも納得出来ず、全くテーマを変えて、全編書き直すという、結構私の中では苦労した執筆でした。ご意見ご感想をお待ちしています。
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