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前回の大阪編につづいて、今回は京都・奈良編である。
京都には、桜と同様に無数の梅の名所がある。これまで北野天満宮にも行ったし、もちろん二条城にも行った。特に、3年ほど前に訪れた伏見の城南宮の枝垂れ梅は、それは見事なものだった。タイミングがよかったのか、たまたま花のつきが良好な年だったのか、これ以上素晴らしい梅の花は二度と見られないのではないかと思ったほどだ。
だが、同じ場所の梅を毎年見る気には、ちょっとなれない。いつも、まだ行ったことのない場所を物色しては、期待半分不安半分で出かける。予想以上に素敵な花を見せてくれるところもあれば、ちょっとがっかりすることもなくはない。梅林は数あれど、もっとも美しい瞬間に立ち会うのは難しい。花の命は短くて、である。
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今年選んだのは、やや近場で、梅宮(うめのみや)大社というところだった。名前からして、いかにも梅が咲きそうなところだ。嵐山からひと駅、松尾という駅で下車して数分歩いたところにある。神苑には四季を通じて美しい花が咲き、時代劇のロケにもよく使われるという話である。
実をいうと、ここにはかなり前に一度来たことがあった。何月ごろのことだったか忘れたが、なぜかその日はちょうど花の見ごろの狭間で、ずいぶん寂しい庭園だなと思ったものだ。今度は梅の花盛りをねらって、その不本意な印象を改めたかった。訪れる時季がちがえば、花々の顔ぶれも変わるはずだ。四季とは、次々と主役が入れ替わるオムニバスの舞台のようなものだからである。
3月18日のこと。それこそ梅干のような色に塗られた(などと書いても褒め言葉に聞こえないかもしれないが、褒めたつもりだ)鳥居をくぐったとき、今日は来て正解だったな、と思った。神社の門を入る前から、道端に見事な梅が咲き誇っている。
神苑を拝観するにはお金を払わなければならないが、その受付というのが神苑入口とは反対側の社務所みたいなところにある。祈祷料何千円などと書かれた看板があったりして、そっちの客と間違えられたらどうしよう、と思いながらおっかなびっくり近づいていくと、誰かが窓を開けてくれた。「あのう、庭園は・・・」といいよどむと、チケットを手渡された。本当は庭園ではなく神苑といいたかったのだが、いい慣れない言葉なので咄嗟には出てきてくれなかった。
扉をくぐると、いきなり満開の枝垂れ梅の出迎えを受ける。天気も上々で、飛行機雲が横切る青い空に花弁がよく映えていた。以前来たときの印象とは一変して、華やかなものである。朝早いせいか人も少なく、のんびり散歩できた。
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〔池のほとりに桃色の花弁が開く〕
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〔満開の花をつけた紅梅〕
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〔白梅が清楚なおもむきを添える〕
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〔梅以外にも、眼を楽しませてくれる花があった。これは山吹〕
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〔黄水仙。福井出身のぼくには、県の花であった水仙は懐かしい〕
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それにしても、さっきから奇怪な鳥の鳴き声が気にかかる。そんなに山奥に来たわけではないのに、あまり上品とはいえない野鳥の声が、しきりに頭の上から降ってくるのだ。見上げてみても、鬱蒼とした梢にさえぎられて何も見えない。そういえば前に来たときにも、同じような声を聞いた覚えがあった。
神苑を出て社殿の正面にまわってみると、驚いた。何だか得体の知れない大きな鳥が、拝殿の向こうに聳える高い木のてっぺんに何羽もとまっている。この神社は子授けに御利益があるということで、ひょっとしたらコウノトリではないかと思ったが、後から調べてみるとアオサギらしかった。まるで御神体の化身が姿をあらわしたように見えた。
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〔大きく羽ばたくアオサギ〕
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〔社務所脇の椿もよく咲いていた〕
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〔松尾橋の上から見た鳥居形。8月16日の送り火には夜空に明るく浮かび上がる〕
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次は、奈良の梅である。奈良といえば月ヶ瀬の梅林があまりにも有名だが、車がない人間には遠いのであきらめている。
3月15日から翌日にかけて明日香村の小さな宿に一泊し、歴史の遺物が随所に点在するこの地を散策してきた。このときのことはいつか書こう書こうと思って、いまだにまとめきれないでいるが、自然が豊かだったわりには梅は少なかったような印象がある。そういえば明日香にもいくつか神社があったが、特に梅が植えられているということはなかったようだ。京都の神社とはルーツが異なるからだろうか。
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〔宿に泊まった翌朝、部屋の窓から隣家の梅を見る〕
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〔万葉文化館の庭に咲いた紅梅〕
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さらに次の週末の22日、「またか」とあきれられそうだが、ふたたび奈良へ出かけた。今度は学園前駅周辺に点在する美術館をめぐったのだが、行く先々で梅と出会った。すでに盛りは過ぎており、これが今年の梅の見納めになりそうだった。
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〔松伯美術館前の枝垂れ梅〕
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〔同美術館近くの緑地にて〕
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〔大和文華館の庭園「文華苑」の梅〕
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〔中野美術館近くの民家の塀から梅の花がこぼれ出す〕
(了)
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