また少し間があいてしまったので、別の記事を挟むこととしよう。
先日、京都文化博物館へと出かけた。いつもは日曜に出かけることが多い京都だが、この日はがんばって土曜の午前中に家を出た。今年から仕事の派遣先が変わって、普段よりかなり早く家を出なければならなくなったので(そのせいで多少の“通勤ラッシュ”に揉まれるハメにもなったが)、体内時計がちょっとばかり朝方にズレたせいだろうか。その代わりに夜は異常に眠く、ぼくをパソコンから遠ざける一因となってもいるのだけれど・・・。
久々に訪問した土曜日の昼前の京都は、意外なほどに人が少なかった。某施設の入口で、普段は来場者たちに忙しなく呼び込みのチラシを渡しているおじさんも、この日は暇なせいか、職員らしい人を相手に無駄口をたたく余裕すらあるようだ。
こんなときにこそ、いや寒い時季だけになおさら、美術館や博物館で朝から晩まで過ごすのがいい。適度に暖かくて、あまりお金がかからないからだ(何か所もハシゴすれば別だが、ひとつの場所にどれだけ長居をしても、喫茶店ではないのだから追い出される心配はない)。
京都文化博物館は、さまざまな催しを同時進行的におこなう場所だから、必要最小限の出費でもって多彩な展示物を観ることができる。とりわけ総合展示室と呼ばれるフロアは、京都の歴史が概観できるようになっていて、修学旅行生などにはもってこいではないかと思うのだが、ぼくも他の展覧会を観たあとなどでは疲れてしまって、何となく素通りした記憶しかない。
ただ、こんな適当な鑑賞のしかたをしたぐらいでは、眼の前を流れていく回転寿司をただ眺めているのと同じで、腹も満たされなければ心も癒やされまい。いつか、時間を見つけて朝から晩までこの文化博物館にはりついてやろうというのが、ぼくのささやかな目標である。
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まずはかつて日本銀行の建物だった別館に入って、ちょっとおもしろい展示物と対面し(このことはいずれ詳しく書くと思うが)、本館のビルの5階にのぼる。ここに入場するのは無料なので、ときどき足を運ぶことがある。
この日は、「京都美術文化賞受賞記念展」なるものをやっていた。覚えているところでは、4年ほど前にも同じ場所で、同じ記念展を観ている。そのときの受賞者のなかに、野村仁という、いっぷう変わった現代アーティストがいた。太陽や星を写真に写してつないだり、天体の運行を楽譜にして音楽を奏でたり、というようなことだったと思う。ぼくは、かつてNHKの番組で紹介されていたので野村のことを知っていたし、他の場所で作品に接したこともあったが、京都の名を冠した賞が与えられるとは、ちょっと意外に思った。
もちろん、京都といっても古びた伝統工芸だけではないのだ。今回の受賞者のひとり、染色作家の麻田脩二は、名前から連想されるように麻田辨自や麻田鷹司たちの親戚にあたるそうだが、かつて京近美でも回顧展が開かれた稲垣稔次郎に学び、南禅寺の塔頭に下宿しながら制作に励んだという。
展示されていた作品は、まるでカラフルな図形のようで、菅井汲の絵を連想させるスタイリッシュなセンスのよさがある。京都に深く根付いているはずの工芸の分野にも、ほとんど無国籍的ともいえるドライな表現が横溢しているのは新鮮だった。日本的な湿っぽい情緒など、ここには無縁なのだ。
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