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「桜姫東文章 下の巻」六月大歌舞伎

2021-06-10 22:23:31 | 見る
「桜姫東文章 下の巻」六月大歌舞伎
見てまいりました!仁左衛門玉三郎の桜姫・下の巻。
楽しかった!
楽しいって感想はおかしいんですけど、このお芝居は、そんな楽しい設定ではないんですが、でも、浮き浮きとおもしろかったのです。

上の巻で追放された残月(清玄の弟子)と長浦(桜姫のお局)の二人が住み着いている地蔵堂。そこに、桜姫の産んだ赤子を抱えた清玄、落ちぶれた桜姫、墓掘りをしている権助がそれぞれやってきて、清玄は殺され、桜姫と権助はめぐり逢い、残月と長浦は権助に追い出されてしまう。
清玄は、稚児・白菊丸の生まれ変わりである桜姫への妄執で幽霊となってつきまとう。
一幕の終り、権助と桜姫が引っ込んでいった花道を、人魂がずーっと追っていく。私たちはそれをずっと拍手して見送っていました。もちろん黒衣さんが持っているのですが、人魂よ。照明を落とした暗い空間の、花道を引っ込んでいく青く燃える人魂に対して拍手し続ける客席。不思議な光景でした。

残月と長浦の性悪夫婦がコミカルで、色と欲と殺しがどんどん展開する場なのにおかしみがある。でも、この二人だけじゃなくて、権助がテキトーないい加減な悪党でおかしすぎるし、桜姫もおかしな人なのだ。

二幕では、権助が、俺と夫婦になって暮らすなら下衆な言葉遣いに慣れなくちゃいけねえというので、「どこに預けようかな?そうだ、いいところがある!」と女郎屋に売り飛ばすのです。預けようって、売り飛ばしてんじゃないの?と思うところだけど、当の桜姫が何とも思ってない。美貌と本物の姫言葉がウケて、超売れっ妓、腕に彫った釣鐘の刺青がちっちゃくて、風鈴にしか見えないというので、「風鈴お姫」という名がついている。
人気はあるが、彼女のところには清玄の幽霊が出る。そのために、店を追い出されて鞍替えになることの繰り返し。
またしても戻されてきた桜姫が、下衆な言葉遣いと姫言葉を微妙に入れ混ぜてしゃべるセリフがおもしろくて、玉三郎の悪女ふうの色気が最高です。
ここらへんは七之助だとまだ難しそうね。強い言葉、悪い言葉を言うと男性的に見えてしまいがち。玉三郎の場合は強い言葉でグッと出ると「女王様!」って感じになるのです。
権助とふとんを敷いて、イチャイチャしてると、赤子が泣く。桜姫の産んだ子がめぐりめぐって、この家に引き取られていた。権助が出かけた留守に、清玄の幽霊が出る。清玄は桜姫に、この赤子が桜姫の子であること、権助が清玄の弟であることを伝えて消える。そこに帰ってきた権助が、酔っぱらって「吉田の家の重宝を盗み出し、吉田家の父子を殺したのは自分だ」としゃべってしまう。
権助が自分にとって父と弟の仇であり、重宝を盗んだ相手であること、そして自分は仇の子を産んだのだと知る桜姫。ここで突然、桜姫はそれまでの、男に恋焦がれて本能のまま生きているような女から、吉田の姫君に立ちかえり、赤子を殺し、権助も討ち果たす。
蓮っ葉な女郎の風情もよかったけど、権助との立ち回りも、きっちり型が決まって、歌舞伎の美でした。

大詰め、もとの姿に戻った桜姫と、吉田の忠臣が、大友何某という偉い人(仁左衛門、結局、三役やってる)に重宝を差し出し、吉田のお家再興が叶う、めでたしめでたしという終わりになっていた。
玉三郎がこの桜姫という役を「何にも精神的負担のない役です」と言っているのがおもしろい。いろんな因縁を持った人たちの中で一人だけ逸脱している、女郎にまでなったのに、急遽、仇討ちをしてお家を再興して「あっさり姫に戻っていく」と。たしかに、この姫だけ、因縁(白菊丸の生まれ変わりだとか)を押し付けられても、「私の知ったことか!」と言ってるし。

最後は、仁左衛門玉三郎が並んで「本日はこれぎり」とご挨拶して幕となり、席は半分ながら割れんばかりの拍手だった。
因縁、妄執、殺し、けっこうな凄さの物語なんだけど、終始、浮き浮きとおもしろく楽しかったのです。

孫の千之助くんはコロナ陽性で休演だし、お兄さんの秀太郎さんの急逝もあり、仁左衛門さんの元気なお姿が見られたのもありがたかった。
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