映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ブランカとギター弾き

2018年09月12日 | 映画(は行)

お母さんはいくらで買えるの?

* * * * * * * * * *


製作がイタリア、監督が日本人、舞台がフィリピンという異色作。



孤児の少女・ブランカはマニラのスラム街で一人でスリなどをしながら生きています。
彼女は母親をお金で買うことを思いつき、せっせとお金を溜め込んでいるのです。
そんな彼女は公園でギターを弾いている盲目の老人・ピーターと知り合います。
ブランカは老人と親しくなり、歌を教わります。
そしてレストランで歌ってお金を稼ぐ事ができるようになります。
老人の優しく真っ直ぐな心と、自分で働いて稼ぐことを知ったことで、
もう盗みはやめようと思うブランカ。
けれど、彼女の身に大変なことが起こってしまいます・・・。

街で知り合った同じく孤児の少年が「どうしてお金持ちと貧乏人がいるの?」と尋ねるのですが、
ブランカは答えることができません。
そして答えることができないのは私達も同じ・・・。
お金はあればあるだけ増えていって、なければなにも残らない・・・
そういう今の世の中の仕組みだから・・・?



街を歩けばごく当たり前に母親と子供が連れ立って歩いています。
こんなに多くの母親がいるのなら、一人くらい自分の母親になってはくれないかな?
というブランカの発想もわかる気がする。
というのは実際に本作を見なければわからないことではありますが、
ブランカが母親と一緒に歩いている子どもたちを見つめるシーンが何度も何度もあるんですよ。
彼女にとっては「どうして母親のいる子といない子がいるの?」と尋ねたいくらいでしょう。
そして母親のいる子はみな、いい服を来て、いいものを食べていそうですし・・・。



でもそんな彼女は次第に、ピーターの元こそが我が家と感じるようになっていったのではないでしょうか。
本作はあくまでもブランカ目線ではありますが、
実はピーターの人生こそがもっと苦難に満ちていたに違いないのですよ。
盲目で持ち物はギターとアンプだけのホームレス。
そんな彼がどうしてこのような慈愛に満ちた人物でありえるのか。



たくましく生きようとする少女。
苦難を乗り越えて包み込むような愛の力を身につけた老人。
コントラストがバッチリ効いた素敵な作品でした。
この二人を見て、スリ稼業から足を洗おうとする少年もナイスでしたね!

ブランカとギター弾き [DVD]
サイデル・ガブテロ,ピーター・ミラリ,ジョマル・ビスヨ,レイモンド・カマチョ
トランスフォーマー



<WOWOW視聴にて>
「ブランカとギター弾き」
2015年/イタリア/77分
監督・脚本:長谷川宏紀
出演:サイデル・カブテロ、ピーター・ミラリ、ジョマル・ビスヨ、レイモンド・カマチョ
老人と少女の友情度★★★★★
少女のたくましさ★★★★☆
満足度★★★★.5


「サハラの薔薇」下村敦史

2018年09月11日 | 本(その他)

生死をかけた二者択一

サハラの薔薇
下村 敦史
KADOKAWA

* * * * * * * * * *

エジプト発掘調査のハイライト、王家の墓に埋葬されていた石棺の中にあったのは、
死後数ヵ月のミイラ状死体だった!
そして、考古学者の峰は何者かの襲撃を受ける。
危うく難を逃れたが講演先のパリへ向かう飛行機が砂漠に墜落し、
徒歩でオアシスを目指すことになった。
同行者は美貌のベリーダンサー・シャリファ、
粗暴で残酷なアフマド。
何かを思い詰めている技術者の永井、
飛行機オタクのエリック、
不気味な呪術師。
誰もが謎を抱え、次々と危険なカードを切ってくる
―やがて一行は分裂し、巻き込まれた戦闘の中で峰は、永井の過去と真実の使命を知る。
果たして「サハラの薔薇」とは何なのか。
それが未来にもたらすものは!?

* * * * * * * * * *

主人公は考古学者・峰。
エジプトの王家の墓で発掘調査をし、石棺を発見。
しかしそこにあったのは、死後数ヶ月のミイラの死体だった!!

私は始め密室殺人事件の謎の物語かと思ったのですが、そうではありませんでした。

そのミイラはさておいて、峰がエジプトからパリへ向かおうとする旅客機が砂漠に墜落してしまうのです。
かろうじて生き延びた人々は、
その場に留まり救助を待つものと、近くにあると思われるオアシスを目指すもの、
二手に分かれます。
峰は数人とともにオアシスを目指すことになりますが、
灼熱のサハラ砂漠、今にも行き倒れそうになりながら、
水不足や仲間割れとも戦う苦難の道のり・・・。
そんな中で、この旅客機の墜落の謎や、ミイラの死体の謎も解けてきます。
原子力利用の問題やゲリラとの銃撃戦など、読みどころ満載。
峰の運命やいかに!!

冒険エンタテイメント作品。
一気読みです。


本作の中で、峰が二者択一を迫られるシーンが多々出てきます。
墜落地点で待機するか、または苦難は承知だがオアシスまで行くか。
オアシスまでを先導する男の言う通りの方向を目指すか、または呪い師(?)の言う方角を目指すか。
・・・などなど、まるでRPGゲームのように選択肢が何度も登場します。
そこでの彼の判断基準は、あくまでも自分にとってどちらが有利なのか。
人道的か、皆のためかはさほど重要ではない。
彼は発掘品を横流し密売して多少稼ぐこともあったりして、若干せこいのです。
また、本心とは違うのだけれど同行の美女シャリファにいいところを見せようとする場面もあります。
公明正大、正義の味方では全然ない。
けれども彼自身、同行する同じ日本人・永井の熱い信念に感化され少しづつ変わっていくのです。
そんなところも楽しみつつ・・・。
原子力の問題が出てくるところが見せ所ですが、
まあ、これはエンタテイメントの小道具みたいなものですかね。
まさに「面白い」作品。

図書館蔵書にて
「サハラの薔薇」下村敦史 角川書店
満足度★★★★☆

 


亜人

2018年09月10日 | 映画(あ行)

「亜人」というお約束ごとの世界観がユニーク

* * * * * * * * * *

桜井画門さんのコミックが原作でアニメ化もされた人気作のようなのですが、
私は初めてです。
私、最近はこの手の作品はほとんど見なくなっているのですが、
本作は佐藤健さまが見たくて見たわけで・・・。
あ、綾野剛さまもです。

研修医の永井圭(佐藤健)は交通事故で死亡した直後に生き返ったことで、
絶対に死なない新人類「亜人」であることが発覚します。
圭は、亜人研究施設に監禁され、
「亜人」の生命の仕組みを探るために非人道的な実験のモルモットにされてしまいます。
そんな圭を救い出したのは同じく亜人である佐藤(綾野剛)。
彼もまた長期間この施設に監禁され、残虐な人体実験を受け続けていたのですが、
脱走に成功していたのです。
彼は人類への恨みに駆られ、国家転覆を狙い大量虐殺を繰り返すテロリストとなっていました。
しかし佐藤の思想に共感できない圭は、亜人と人類の壮絶な戦いに身を投じていきます。

冒頭から、亜人研究施設での身の毛のよだつ人体実験シーンでゾッとさせられます。
亜人は、身体を傷つけられると人と同じく痛みを感じます。
それをリセットするためには一度死ななければなりません。
手足を切断しては「リセット」してまた再生させるというような実験の繰り返し・・・
うわ~、非人道的。
つまり「亜人」は「人」ではないと解しているわけだ・・・。



そんなことで亜人の戦い方は、
例えば銃でどこかを撃たれて、でも致命傷ではないというような場合、
自分で銃口を自分の頭に向けて撃つ、つまり自殺するのです。
すると直後に体は傷ついていない元の状態で再生する。
そういう仕組です。
殺しても殺しても死なない相手とどのように戦うのか、それが問題。



また、例えば亜人の体がバラバラになって死んだとする。
そういうときは、そのバラバラになった一番大きなピースをもとにして再生するのです。
このことで、佐藤はアッと驚く作戦を実行してみせます。
けれどその手がまた、最後の最後に圭を救う方法でもあった・・・。



亜人という架空の「お約束ごと」ではありますが、
この世界観がなんともユニークで良くできていて、
しかしまた残酷で目を背けたくもなるという、不思議な心のゆすり方をするんですね。
つまり原作がよくできているということです。
機会があれば読んでみたい・・・。



原作のファンの方ならきっといろいろと物足りないところはあるのだろうと思いますが、私は楽しめました。
もちろん、佐藤健さんも綾野剛さんも役柄ピッタリ。
カッコいい!!
不気味に笑う佐藤の凄み、さすが綾野剛さんが上手く演じています。
律くんもいいけど、るろうに剣心的アクションの見せ場たっぷりの佐藤健さんもやっぱり良いわ~♡ 
あ、超ドS官僚・戸崎の玉山鉄二さんも良かったです・・・。

亜人 DVD通常版
佐藤 健,綾野 剛
東宝



<WOWOW視聴にて>
「亜人」
2017年/日本/109分
監督:本広克行
原作:桜井画門
出演:佐藤健、綾野剛、城田優、千葉雄大、玉山鉄二
SF世界観★★★★☆
満足度★★★★☆


地下鉄(メトロ)に乗って

2018年09月09日 | 映画(ま行)

ワケありタイムトラベル

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営業マンの長谷部真次(堤真一)は、
仕事帰りの地下鉄の駅で、父が倒れたとの連絡を受けます。
気難しく威圧的な父とは絶縁していて、長く顔を合わせることもありませんでした。
そんな彼の前を、若くして亡くなった兄・昭一に似た人影がよぎります。
思わず彼を追って地上へ出ると、そこは兄が亡くなった昭和39年の東京。
その後、真次は戦後まもない東京や終戦直後の満州にも行き、
若き日の、真次の知らなかった父と出会うことに・・・。


地下鉄の階段を登り外へ出ると、別の時空。
なるほど、こういうタイムトンネルもありか。
でもその後、特に地下鉄構内でなくても真次はタイムトラベルを経験するようになるのですけどね。
なんの予備知識もなく見ていて、これはもしかすると浅田次郎さんが原作?と思ったのですが、
やはりそうでした。
・・・なんとなく、わかりますよね。


真次の父、小沼佐吉(大沢たかお)というのが、実にユニークな人物なのですよ。
確かに息子からみれば、よそに女がいて母を泣かし、威張り散らして独善的。
しかしまた、戦後裸一貫から大企業の社長にまで上り詰めた人物で、
はたから見れば魅力的であることも確かなのです。
真次は何度かのタイムトラベルで父の別の側面を知るようになる・・・。


そして話はそれだけではなく、
なぜか真次の愛人・みち子(岡本綾)までもがともにタイムトラベルをするようになるのです。
父に愛人がいることをなじりながら、自分も妻子がありつつよそに女がいるなんて・・・、
なんなのこれ・・・と、若干私はムカつきましたけれど。
でも実はこの事自体が非常に大きなテーマへとつながることだったのです・・・。
ストーリーとしてはとても面白い。
でもあんまり好きではないかな・・・? 
全ては結局男の論理のような気がする。

地下鉄(メトロ)に乗って THXスタンダード・エディション [DVD]
堤真一,岡本綾,常盤貴子,大沢たかお
ジェネオン エンタテインメント



<WOWOW視聴にて>
「地下鉄(メトロ)に乗って」
2006年/日本/121分
監督:篠原哲雄
原作;浅田次郎
出演;堤真一、岡本綾、常盤貴子、大沢たかお、吉行和子
ストーリーの展開度★★★★☆
満足度★★★☆☆


「散り椿」葉室麟

2018年09月08日 | 本(その他)

お家騒動と人を愛する心

散り椿 (角川文庫)
葉室 麟
KADOKAWA/角川書店

* * * * * * * * * *

かつて一刀流道場の四天王の一人と謳われた瓜生新兵衛が、山間の小藩に帰ってきた。
一八年前、勘定方だった新兵衛は、上役の不正を訴えたが認められず、藩を追われた。
なぜ、今になって帰郷したのか?
新兵衛を居候として迎えることになった甥の若き藩士、坂下藤吾は、
迷惑なことと眉をひそめる。
藤吾もまた、一年前に、勘定方であった父・源之進を切腹により失っていた。
おりしも藩主代替わりをめぐり、側用人・榊原采女と家老・石田玄蕃の対立が先鋭化する中、
新兵衛の帰郷は、澱のように淀んだ藩内の秘密を、白日のもとに曝そうとしていた―。

* * * * * * * * * *

間もなく映画公開となる本作。
私、この本は読んだはずと思いこんでいましたが、実は読んでいないことに気づいて慌てて読みました。
映画の原作は読んでいないほうがいい・・・と、この頃思うようになっているのですが、
葉室麟作品となれば話は別。
この美しい武士の魂の物語を読まずになんとしましょう。
西島秀俊さんも出演なので、映画も必ず見ますけれども・・・。

舞台は扇野藩という小藩。
そこへ国を出て諸国を漂っていた瓜生新兵衛が18年ぶりに戻ってきます。
かつて一刀流道場の四天王の一人とまで言われた新兵衛でしたが、
藩内の不正を訴えたために逆にいられなくなり、藩を出ていたのです。
その彼が、苦労をともにした最愛の妻を亡くしたことがきっかけで、帰って来た。
折しも藩は藩主代替わりをめぐり、不穏な気配が立ち込めています。
18年前の出来事の真相、そして各々が抱える心の葛藤。
散り椿の美しさ、儚さが印象的。

通常の椿は、花ごとポトリと落ちますね。
でもこの散り椿というのは花びらが一枚一枚散っていく品種。
桜の散り際も美しいですが、鮮やかな椿の花びらがはらはらと散っていくのも、
なお一層凄みを感じるほどに美しそうです。
そこにあるのは日本人の魂を揺さぶる「滅びの美」かもしれません。
本作中でも、己の正義を守るために命を散らす人物が登場します・・・。

葉室作品は人物の配置が素晴らしいですよね。
ここではかつて四天王と呼ばれた新兵衛と榊原采女の友情と反目が描かれています。
そしてこの二人を見つめる若者、坂下藤吾。
彼は始め藩内での出世を第一に思っていました。
叔父・新兵衛が戻ってからは、勝手に藩を抜け出してなんで今頃戻ってきたのかと訝しく、
そして迷惑にも思っていたのです。
そんな彼が次第に変わっていく。


そしてかつて采女が心を寄せていた篠。
彼女は新兵衛の妻となり、ともに国を出て、そして病で亡くなっています。
ところが実は篠もまた采女に心を寄せ続けていたのではないか・・・。
そんな懸念が新兵衛を揺さぶるのです。


お家騒動と恋心。
この配合の絶妙さ!
そしてやはり、凛として美しい武士の魂。
この原作を映画にすれば嫌でもいい作品になりますよ・・・。


図書館蔵書にて(単行本)
「散り椿」葉室麟 角川書店
満足度★★★★.5


大停電の夜

2018年09月07日 | インターバル

地震も怖いけど、停電も・・・

皆様ニュースでとっくにご存知と思いますが、

9月6日、北海道に大地震がありました。

幸い私の家の地域は地盤がよくて、それほど大きな揺れではありませんでした。

でも大変だったのは、停電。

いくらなんでも、北海道全域が停電というのはひどすぎるとは思います・・・

我が家ではまだいいほうなのですが、ほぼ丸一日で電気が復旧しました。

停電の夕暮れ・・・

次第に薄暗くなっていくのがなんとも心細く不安を感じました。

うちは二人暮らしですが、一人だったらさぞかし・・・と思いました。

写真は停電の夜のお供、ろうそくとラジオ。

スマホもはかばかしく通じなくなり、情報を得られるのはラジオだけ。

私は普段からラジオをよく聞くので、すぐに使うことができて重宝しました。

他になにができるでもなく、非常に早寝をしました。

10ヶ月後には、北海道でベビーラッシュが起こるのでは・・・?

などと馬鹿なことを想像しつつ・・・

さて、電気は通じたものの、ネットが繋がらない!!というアクシデントもありつつ、

先程ようやくネットも繋がって、通常の生活環境が戻りました。

多分いろいろな方がいろいろなところで一生懸命努力していただいたおかげだと思います。

感謝!感謝!

普段当たり前のことのありがたさを、改めて感じた2日間でした。

(ネットは通じていなかったけれど予約投稿があったので、ブログにアナは空いていなかったという奇跡・・・)


オーケストラ・クラス

2018年09月06日 | 映画(あ行)

子どもたちにいろいろな体験の機会を

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喧嘩ばかりでまとまらないクラスが、ある指導者のおかげで音楽に取り組むことになり、
紆余曲折を経ながらも、次第にまとまって美しい音楽を奏でるようになる・・・と、
似たような話はいくつも見たような気がするのですが、
さて、本作の特色は何処にありや、と若干「お手並み拝見」みたいな気分で見ました。

パリ19区。
ここもよく使われる舞台ですね。
移民が多く住み、人種も入り乱れた貧困層の地域。
そんなところにある学校で、あるプロジェクトが取り入れられるのです。
音楽に触れる機会の少ない子どもたちに無料で楽器を貸し出して、
プロの演奏家が音楽を教えるという、フランスの実在の教育プログラム。


新学期のある日、音楽教室に、多少なりとも音楽に興味のある子どもたちと、
教師と、ヴァイオリン演奏家のダウドが集まりました。
ダウドは演奏家として行き詰まっており、
この講師も仕方なく、という感じで引き受けたのです。
さて、子どもたちはさっそく喧嘩を始めたりして大騒ぎ。
子どもが苦手のダウドの言うことなどとても聞きそうにありません。
しかしそこはさすがにブラヒミ先生が上手く誘導しながら授業が決まります。
そしてブラヒミ先生も子どもたちと一緒にはじめてのヴァイオリンを習うことに。
年度末にはこのプロジェクトに参加する子どもたち合同のコンサートが予定されていて、
それまでに曲を完成させなければなりません。
さて、どうなりますやら・・・。



このクラスのはじめての授業を窓の外から熱心に眺めている少年がいます。
まだヴァイオリンが余っているからと、その子・アーノルドもクラスに加えることにするのですが、
彼こそが素晴らしい才能の持ち主でした。

彼の一生懸命さにダウドも気を良くして、やる気を起こし始めます。
ところで、出演している子どもたちも実際にクラシック音楽などに縁遠いドシロウトの子どもたちで、
もちろん演技経験もなかったとのことです。
撮影の苦労が忍ばれますが、
だからこそ、その練習の大変さや上達のほどが非常にリアルに感じられます。

このクラスは全員ヴァイオリンなのですが、
他の学校ではまた他の楽器を練習しているわけですね。
それが皆集まって初めてオーケストラが完成する。
なかなかおもしろい取り組みです。
曲は「シェヘラザード」。
アーノルドのヴァイオリンのソロパートがなかなかうまく弾けないシーンをたくさん入れて、
最後の本番にはじめて、美しい調べが流れます。
思わず、涙・涙・・・。
にくい演出です。



全く、どこにどんな才能が眠っているかわからないものだから、
子どもたちにはできるだけいろいろなことに触れる機会があるといいですよね、貧富にかかわらず。
子どもたちの日常的な会話シーン(みな愉快そうに笑っている)が結構長く入っていて、
これがまたいい雰囲気だし、リアルなのです。
子どもたちだけでなく、親たちも次第に一致団結していく様、たのしく見ました。
ありきたりのテーマでも丁寧に描けば、やはり感動の物語になるものですね。

<ディノスシネマズにて>
「オーケストラ・クラス」
2017年/フランス/102分
監督:ラシド・ハミ
出演:カド・メラッド、アルフレッド・ルネリー、ザカリア・タイエビ・ラザン、シレル・ナタフ、ユースフ・ゲイエ、サミール・グスミ

成長度★★★★★
満足度★★★★☆


僕とカミンスキーの旅

2018年09月05日 | 映画(は行)

芸術の価値基準は?

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青年美術評論家のゼバスティアン(ダニエル・ブリュール)ですが、
実のところ無名で今や崖っぷち。
なんとか巻き返しを図ろうと、著名な芸術家の伝記を書こうと思い付きます。
そこで目をつけたのが、画家、マヌエル・カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)。
マティス最後の弟子でピカソの友人。
60年代ニューヨークで「盲目の画家」として脚光を浴びた人物。
ゼバスティアンはスイスの山奥で隠遁生活を送るカミンスキーを訪ねます。
しかしカミンスキーはゼバスティアンのインタビューにあまり乗り気のようではありません。
カミンスキーの「新事実」を探ろうとするゼバスティアンは、
カミンスキーが若き日に愛した女性に会わせようと、カミンスキーを連れ出し、
ベルギーまで旅をすることに・・・。

ゼバスティアンは、カミンスキーが盲目であることに若干疑いを持っているのです。
「彼が盲目でなければ彼の絵にはなんの価値もない」などとひどいことを言う人もいます。
そんなゼバスティアンは地下室で彼の未発表の絵を見つけて、心打たれるのです。
が、しかし同時にこの価値はどのくらいになるか・・・?
これを発表したときの自分の名声は・・・?
などという皮算用が浮かんだのも事実。



芸術に対する評価というのは難しいものですね。
その基準は、本当は自分の心の中にしかないのかもしれません。
でも、私達は周囲の評価とか評判につい頼ってしまいます。
そんなところをちょっぴり皮肉ってもいるのでしょう。



一方、カミンスキーの方も、一見少しボケているように見えながら、
実は結構したたかで老獪。
そう簡単にゼバスティアンの思いのままにはならないのです。
結局ゼバスティアンを振り回す。
若き日に別れたままの恋人にひと目逢いたくて・・・
情熱の残り火を掻き立てるようにして出た旅でしたが・・・。
思い出は思い出のままにしておくのが良かったかもしれませんね。



しかし憑き物が落ちたように、欲につかれて妄想を膨らますゼバスティアンのなにかが変わる。
心が通い合って、達成感があって・・・そういうロードムービーとは趣が異なりますが、
なかなか心に響く作品だったと思います。


冒頭、カミンスキーについて・・・という説明がドキュメンタリータッチで、
私はこの方は実在の人物?と、半ば信じながら見ていました。
でもやはりフィクションでした。



<WOWOW視聴にて>
「僕とカミンスキーの旅」
2015年/ベルギー・ドイツ/123分
監督:ボルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブリュール、イェスパー・クリステンセン、アミラ・カサール、ドニ・ラバン、ヨルディス・トリーベル
芸術を考える度★★★★☆
満足度★★★.5


IT “それ”が見えたら、終わり。

2018年09月04日 | 映画(あ行)

有るか無きかの気配、それが一番怖い

* * * * * * * * * *


ある田舎町。
児童失踪事件が相次いで起こります。
ビル(ジェイデン・リーベラー)の弟は、
ある雨の日に外出し、多量の血痕を残して失踪。
弟を一人で外出させてしまったことを悔やむビルは、弟を探し続けます。
そんな彼は、家の地下室で“それ”を目撃し、恐怖にとりつかれるのでした・・・。
また不良少年たちからいじめの標的とされる他の子どもたちもまた、
それぞれに“それ”を目撃します。
“それ”の秘密を共有する子どもたちは、勇気を振り絞り“それ”と対決する覚悟を決めますが・・・。



昨年大人気を博したホラー作品。
私が一番ゾッとしたのは冒頭、ビルの弟が覗き込んだ下水溝からのぞいているピエルの顔。
そんなところに人がいられるはずがない、そこに浮かぶ顔、
というのはなんとも恐ろしい・・・。
有るか無きか、定かにはわからないのだけれど気配だけが濃厚にある
・・・というのが一番怖いような気がします。
だから“それ”がピエロの姿を頻繁に現すようになってからは、
確かに不気味ではあるけれど「怖い」という感覚はあまりないですね・・・。

さて、他の行方不明者が大勢いるというのに、
この子どもたち7人は皆なんとか頑張り抜くのですよ・・・。
特に勇気があるとか力が強いわけではない。
むしろ弱々しいからこそいじめの標的になり、「負け組」だなんて言われている。
そんな子どもたちなのですが、それぞれみな大きな心のひずみを背負っているわけです。
ビルは弟を行方不明にしてしまったことに。
あるいは他の子供たちでは母親の過干渉であったり、父親の性的虐待であったり・・・。
心の奥底での葛藤が、知らず“それ”のような邪悪なものを打ち負かす力になっていたのでは・・・
などと私は邪推するわけです。



ともあれ子どもたちが「スタンド・バイ・ミー」を思わせるような、
勇気と友情をもって冒険を繰り広げる様子が、とてもいい感じで、
単なるホラー作品を凌駕していると思いました。



“それ”は27年周期でこの町に現れ、町の人々、特に子供を狙うというのです。
それで本作は「第一章」ということになっていて、
子どもたちは最後に「いつかまたなにか起こったら、必ず戻ってきて一緒に戦う」と誓い合います。
ということで、皆が大人になった第二章がそのうちできるはず・・・。
“それ”の起源について、今回は語られていないので、
多分それについても明かされることでしょう。
子どもたちがどんな職業についているのか、ちょっとそれが楽しみですね。

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ビル・スカルスガルド,ジェイデン・リーバハー,ソフィア・リリス,ジェレミー・レイ・テイラー,フィン・ウォルフハード
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント



<WOWOW視聴にて>
「IT “それ”が見えたら、終わり。」
2017年/アメリカ/135分
監督:アンディ・ムスキエティ
出演:ジェイデン・リーベラー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ジャック・ディラン・グレイザー、ソフィア・リリス
不気味度★★★★☆
満足度★★★.5

 


タリーと私の秘密の時間

2018年09月03日 | 映画(た行)

そんなに頑張らなくても・・・

* * * * * * * * * *


なんでも完璧にやる主義のマーロ(シャーリーズ・セロン)。
しかし、娘と息子、二人の子供はまだやんちゃで、
仕事と家事・育児で疲れ果てています。
そこに3人目を身ごもり、大きなお腹を抱えていかにも大変そうです。

仕事は産休に入り、いよいよ3人目を出産。
赤ん坊は夜中に何度も起きるので母乳を飲ませなければならないし、
長男は情緒不安定で学校を変わるようにと校長から言われてしまう。
夫は出張も多くて全くあてにならない・・・。
そんな中でマーロは、やむなく夜だけのベビーシッターを受け入れることにします。
意外に若いタリー(マッケンジー・デイビス)という女性が毎夜通ってくることになり、
マーロは夜間ぐっすりと眠ることができるようになります。
タリーは仕事が完璧なばかりでなく、マーロのグチや悩みを聞いてくれるように。
そのおかげでマーロはすっかり元気を取り戻し、前向きな意欲も湧いてきます。

しかし、何故かタリーは自分のことは語ろうとしません。
実はある秘密があって・・・。

美しい女優スタイルをかなぐり捨てて18キロの増量をしたというシャーリーズ・セロン。
その効果あって、いかにもくたびれて意欲を喪失した主婦感にあふれています。
夜間のベビーシッターというのはいいかもしれません。
しかもこんなスーパーシッターならうちにも来てほしいくらい。
が、しかし、真相を知るとこれは壮絶ではありませんか!!
なんでこんなに女ばっかり大変な思いをしなければならないのか・・・。
先端を行くはずのアメリカにして、やはりまだこういう実態なんでしょうね・・・。

でもまあ、2時間おきの授乳期間って、そんなに長い間ではないですけどね・・・。
掃除が行き届かなくたって目をつぶり、
赤ん坊が寝ているうちは一緒に寝てしまうとかでいいのではないでしょうか? 
あんまり完璧を目指そうとするとこんな事になってしまうわけです。
もちろん、夫の助けも必要。
遠慮なく「手伝って」と言えばいいのですよ。
まあ今さら私がそんなことを悟っても、かなり手遅れなんですけどねえ・・・。


<ディノスシネマズにて>
「タリーと私の秘密の時間」
2018年/アメリカ/95分
監督:ジェイソン・ライトマン
出演:シャーリーズ・セロン、マッケンジー・デイビス、マーク・デュプラス、ロン・リビングストン、アッシャー・マイルズ・フォーリカ

意外な展開度★★★★☆
満足度★★★.5

 


「身代わり忠臣蔵」土橋章宏

2018年09月02日 | 本(その他)

誰が誰の身代わりに・・・!?

身代わり忠臣蔵
土橋 章宏
幻冬舎

* * * * * * * * * *

江戸城松の廊下で、高家・吉良上野介が播磨赤穂藩藩主・浅野内匠頭に斬りつけられた。
浅野は即日切腹の上お家は断絶、
吉良は額と背中を斬られただけで一命を取り留めたはずだった。
しかし…。
衣食住に女にと、何不自由ない暮らしを謳歌する"吉良上野介"だったが、
赤穂浪士の仇討ち話を耳にして―。
替え玉人生の極楽と地獄を描く"異聞"忠臣蔵!!

* * * * * * * * * *

本作の著者も私にははじめての方だなあ・・、と思ったら、
あの「超高速参勤交代」の原作を書いた方だったのですね。
それならば、面白いこと間違いなし!
ということで、手にとってみました。


おなじみの忠臣蔵。
身代わりというのは誰のこと・・・?
というのは、実は吉良上野介だったのです!!


松の廊下で浅野内匠頭に斬りつけられてしまうのは、本物の吉良上野介。
傷はさほどのことではなかったのですが、頭に食らった一撃がもとの脳内出血で
あっけなく亡くなってしまった。
そこで見目形がよく似ている吉良の弟、孝証(たかあき)が
身代わりとして、上野介に成り代わることになったのです。
ところで、本作のホンモノの吉良上野介はとんでもないパワハラ親父で、
誰をも見下し、尊大で意地悪で短気。
配下の者も、いつも怒鳴りつけられるのが嫌で嫌でしょうがないという感じ・・・。
そんなだから、お役目の教えを請う立場の浅野内匠頭が、ほとんどいじめのような目に会うわけです。
それでも通常の良識ある大名なら、ひたすら耐えるのみ。
けれども、これまた浅野内匠頭も、女癖が悪く忍耐強くもないという、しょうもない人物。
だから、キレちゃったのですね。
松の廊下で・・・。
おかげで赤穂藩は取り潰し。
一族郎党が路頭に迷う。
そこで大石内蔵助が苦労を重ねることとなる・・・。


一方、身代わりとなった孝証は、実はとんでもない破戒僧で、
女や博打でお金を使い果たしては兄・上野介にお金をせびりに来ていたという、そんな人物。
しかし、兄の身代わりとして何不自由ない生活をするうちに、
いろいろなことがよく見えてきて、考えてしまうのです。
なぜかここで初めて「僧侶」としての自分を取り戻していく・・・。


ね、人物設定だけを見ても面白いでしょう。
で、ある時、身分を隠した大石内蔵助と孝証があるところで出会うのですよ・・・。
架空のお話ではありますが、もちろん知っている忠臣蔵の結末に結びついていく。
この発想がなんとも面白くて、ぐいぐい読み進んでしまいました。
このへんてこな忠臣蔵も、映画にならないかなあ・・・。

図書館蔵書にて
「身代わり忠臣蔵」土橋章宏 幻冬舎
満足度★★★★☆