映画と本の『たんぽぽ館』

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僕とカミンスキーの旅

2018年09月05日 | 映画(は行)

芸術の価値基準は?

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青年美術評論家のゼバスティアン(ダニエル・ブリュール)ですが、
実のところ無名で今や崖っぷち。
なんとか巻き返しを図ろうと、著名な芸術家の伝記を書こうと思い付きます。
そこで目をつけたのが、画家、マヌエル・カミンスキー(イェスパー・クリステンセン)。
マティス最後の弟子でピカソの友人。
60年代ニューヨークで「盲目の画家」として脚光を浴びた人物。
ゼバスティアンはスイスの山奥で隠遁生活を送るカミンスキーを訪ねます。
しかしカミンスキーはゼバスティアンのインタビューにあまり乗り気のようではありません。
カミンスキーの「新事実」を探ろうとするゼバスティアンは、
カミンスキーが若き日に愛した女性に会わせようと、カミンスキーを連れ出し、
ベルギーまで旅をすることに・・・。

ゼバスティアンは、カミンスキーが盲目であることに若干疑いを持っているのです。
「彼が盲目でなければ彼の絵にはなんの価値もない」などとひどいことを言う人もいます。
そんなゼバスティアンは地下室で彼の未発表の絵を見つけて、心打たれるのです。
が、しかし同時にこの価値はどのくらいになるか・・・?
これを発表したときの自分の名声は・・・?
などという皮算用が浮かんだのも事実。



芸術に対する評価というのは難しいものですね。
その基準は、本当は自分の心の中にしかないのかもしれません。
でも、私達は周囲の評価とか評判につい頼ってしまいます。
そんなところをちょっぴり皮肉ってもいるのでしょう。



一方、カミンスキーの方も、一見少しボケているように見えながら、
実は結構したたかで老獪。
そう簡単にゼバスティアンの思いのままにはならないのです。
結局ゼバスティアンを振り回す。
若き日に別れたままの恋人にひと目逢いたくて・・・
情熱の残り火を掻き立てるようにして出た旅でしたが・・・。
思い出は思い出のままにしておくのが良かったかもしれませんね。



しかし憑き物が落ちたように、欲につかれて妄想を膨らますゼバスティアンのなにかが変わる。
心が通い合って、達成感があって・・・そういうロードムービーとは趣が異なりますが、
なかなか心に響く作品だったと思います。


冒頭、カミンスキーについて・・・という説明がドキュメンタリータッチで、
私はこの方は実在の人物?と、半ば信じながら見ていました。
でもやはりフィクションでした。



<WOWOW視聴にて>
「僕とカミンスキーの旅」
2015年/ベルギー・ドイツ/123分
監督:ボルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブリュール、イェスパー・クリステンセン、アミラ・カサール、ドニ・ラバン、ヨルディス・トリーベル
芸術を考える度★★★★☆
満足度★★★.5