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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

モンゴル

2008年04月13日 | 映画(ま行)

これは1年ほど前に見た「蒼き狼/地果て海尽きるまで」とつい、引き比べてしまいます。
モンゴル帝国を打ち立てたチンギス・ハーンのまだ若いテムジン時代の物語。
彼の少年時代からモンゴルの部族をほぼ一つにまとめる部分まで、という設定も同じ。
でも、相当手触りは異なっています。
何しろ、その日本作品は私はあまり好きではありませんでした。
まず、セリフは無論日本語で、しかも時代劇がかった仰々しい台詞回しにひどく違和感を覚えてしまったのです。
こちらは、全編モンゴル語。
広大なモンゴルの大地に吹くモンゴルの風を感じる。

彼の妻、ボルテはメルキト族に略奪されてしまうのですが、彼女を取り戻しに行ったときには、身ごもっている。
日本版では、その血を信じられないところが、テムジンの内面の苦しみにつながるのですが、こちらのテムジンは、そんなことはつゆとも気にしない。
豪快にこれは俺の息子だ、といって放つ。
そうですよね、世界征服までしようという人が、そんなことにこだわってどうする!
あの広大な大地では、それは気にすべきことではない。

彼と兄弟の誓いを結ぶ、ジャムカ。
いやはや、彼は良かったですね。すごい迫力がありました。
ちょっと、浅野忠信が、食われてたかも・・・。
いやいや、彼は彼で、また、別の強さがあるわけです。
なんというか、ここでのテムジンは、とらわれては逃げ、またとらわれては逃げ、苦難の連続。
そのような中で、体力と深い精神力を身につけたようです。
牢にとらわれた彼は、ほとんど禅僧のよう。
最後にそこから妻のボルテが彼を救出するくだりは、
とって付けたような感じで、違和感がありますが、
全体ではかなりのリアリティーと迫力で、
反町対浅野とすれば、私は浅野テムジンに軍配を上げたいと思います。

チンギス・ハーンの物語はここまでも面白いですが、私はこの先、モンゴル帝国が、中国・ヨーロッパへ進出していくくだりにも興味があります。
島田荘司の作品に、そのことに触れたものがありまして、
「溺れる人魚」という本ですが、
いかにしてモンゴルが、ヨーロッパを手中にしていったか、
また、その後のことなどにも若干触れていて、なかなか楽しめました。
・・・歴史は浪漫ですねえ・・・。

2007年/ドイツ=カザフスタン=ロシア=モンゴル/125分
監督:セルゲイ・ボドロフ
出演:浅野忠信、スン・ホンレイ、アマジュ・ママダコフ、クーラン・チュラン


サイドカーに犬

2008年04月12日 | 映画(さ行)

(DVD)
芥川賞受賞の長嶋有、デビュー作が原作となっています。
30歳独身、会社勤めの薫が、ふと会社をさぼってしまい、自分の小学生の時のある夏休みの出来事を回想します。
母が家出をした夏。
そこへ父の愛人ヨーコさんが現れる。
ヨーコさんは男勝りで破天荒。
薫の母はとにかくきちんとした「母」であったので、このような女性を見るのは始めて。
薫自身も、まじめできちんとした子なんですね。
夏休みの夜、父たちはマージャン、弟はゲーム、という騒然とした中で、一人宿題をやっていたりする。
そんな彼女ですが、すこしずつヨーコさんに引かれていく。
ヨーコのほうも、適当なことに妥協しない、思慮深さを秘めた薫を好きになっていきます。
2人の「夏休み」は、海辺の町への一泊旅行。
普通ならほとんど交わらない、正妻の娘と、父の愛人。
この奇妙で、微妙な交友が、夏の冒険とマッチして、余韻の深いものになっています。

あるとき、ヨーコはいうのです。
「犬を飼う側、つまり支配する側と、犬として飼われる側、支配されておとなしく言うことを聞くだけの側と、とちらがいいか?と。」
その時の薫の答え。
「良くわからないけど・・・、いつかサイドカーに犬が乗っているのを見たことがあって、あんな風なら、犬もいいなあ・・・。」
それは、支配・被支配というよりは、まだ大人の庇護のもとで楽しく安心に暮らしたいのだという子供としての願いなのかもしれません。
突然の母の家出でもさして動揺していなかったかに見える、薫の、やはり本心。
自分の感情を人にぶつけるということがほとんどない、薫ですが、最後に父にぶつけた思い。
うーん、文学ですね!

さて、それにしても、最大の謎がなぜあの父ちゃんに、あんなきれいな奥さんなのか。そして、あんなきれいな愛人なのか。人生は謎だ。

2007/日本/94分
監督:根岸吉太郎
出演:竹内結子、古田新太、松本花奈、ミムラ、


クィーン

2008年04月10日 | 映画(か行)

(DVD)
1997年、ダイアナア元皇太子妃が交通事故で急逝した直後のイギリス王室の混乱を描いたもの。
マスコミはこの事件をほとんどダイアナ妃サイドから見ており、イギリス王室は悪者扱いでしたね、ほとんど。
この作品は、王室側に視点を据え、ダイアナへ熱狂的な愛着を見せるマスコミ・民衆に対するエリザベス女王の戸惑い・苦悩を描いています。
いつも規定外の行動で問題を起こす嫁、ダイアナ。
それに対して、戸惑い、頭を抱えてしまう姑。
図式にすれば単純なことなんですよね。
しかし、いまやマスコミは、普通なら家庭内で処理されるべきいざこざをすべて外に引っ張り出してしまう。
あおられ、動かされる人々。
王室の古い考え・・・というよりは、私はむしろこのマスコミのあり方が問題なように思いました。

国民と王室の仲をとりもつブレア首相。
実際はどうなのかよく分かりませんが、
ここでは、女王の心中を察し、なかなか王室には好意的でした。
彼の妻は、それをマザコンと評していましたが。

さてさて、実際に、この映画を当のクィーンはどのように見るのでしょうね。
誰か感想は聞いてみたのでしょうか???

私的においしかったのは、イギリスの自然の風景と、女王の飼っているコーギー犬。
我が家にも、コーギーの端くれがいまして。
やっぱり、なごみますよ。コーギーって。

2006年/イギリス・フランス・イタリア/104分

監督:スティーブン・フリアーズ
出演:ヘレン・ミレン、マイケル・シーン、ジェームズ・フロムウェル、シルビア・シムズ


「木野塚探偵事務所だ」 樋口有介

2008年04月09日 | 本(ミステリ)

「木野塚探偵事務所だ」 樋口有介 創元推理文庫

私には始めての作家です。
表紙の絵も渋いのだけれど、中身もなかなか渋い。
何しろ、ここに登場する探偵は、警視庁を定年退職した木野塚氏。
しかし、なんと警視庁とはいっても、経理課。
警視総監賞を受賞もしたけど、コンピューター導入の功績。
しかし、彼は長年夢みてきたのです。
フィリップ・マーロウのようなハードボイルド探偵になりたいと。
(実は、私は読んでないので、フィリップ・マーロウは知らない・・・。)
へそくりをはたいて、事務所を借り、電話を引き、念願の事務所開設。
そして、ハードボイルドの探偵事務所にはグラマーな美人秘書がいなくては・・・。
しかし、新聞に求人広告を出し、待てど暮らせど応募者は来ない。
そんな時、たまたま別の用事で来たやせっぽちの少年みたいな女性。
仕方ない、まずはこれで我慢するか・・・と、スカウト。

木野塚氏の「探偵」への思い込みがあまりにもひどいので、この辺まで読んだところでは実は失敗かなあ・・・と思ったのです。
ところが、木野塚氏が気に入らないこの女性秘書、桃世が出てきたあたりから、
ようやく、モノトーンの中に、鮮やかなカラーがつき始める。
彼女は、思いのほか優秀で、はっきりいって木野塚氏よりよほど切れる。
彼女の存在で、一気にストーリーは活き活きとしてきます。

ただし、待てど暮らせど、探偵依頼はこず、
やっと来た話が、金魚の誘拐、犬の恋の仲立ち、菊の花を切った犯人探し、行方不明の猫探し・・・。
夢見た、殺人事件とは程遠い・・・。

結局これは意外にも、人間心理を軸とした「日常の謎」のための探偵なんですよ。
桃世君に、助けられながらも、しかしきちんと、話は収束していくので面白いです。
そして、だんだん、この木野塚氏が好きになってきました。
まあ、探偵への思い込みは別として、このおじさま、すごく全うで人が良くて、依頼人に対する話し方などが、さすが年の功というか、いい味出すんですよ~。

これまで手を付けなかった作家の作品も、こういう出会いがあるのでいいですね。

★★★★


クローバーフィールド/HAKAISHA

2008年04月07日 | 映画(か行)
とにかく強烈でした。
CG駆使のパニックものなど、もうさほど驚かなくなっている作今ですが、
これは本当に、怖くてドキドキしてしまいました。

この作品はハンディカムで撮影した映像記録、という設定になっています。
もと、「セントラルパーク」と呼ばれた場所で発見された映像、とのことで・・・。
それで、「手振れがあったりして酔うかもしれないので注意」などという警告もあったりする。(幸い私は無事でした)
それは、ロブという青年が日本へ配属になるお別れパーティーの記録として始まります。
ニューヨークはマンハッタン。
そんなにぎやかな日常の中で、突然大きな音と震動。
ドキッとしますね。

そう、この映画は、映像はハンディカムなんていう触れ込みですが、音響効果が半端じゃないです。
ズズズンとお腹に響く重低音。
これはやはり、劇場で見るべきですよ。

なんだろうと外に出てみれば、突然空から大きな物体が吹き飛んできて、
なんとそれが自由の女神の頭部。
まあ、予告編などで散々見たシーンではありますが、
これはアメリカの自由と平等のシンボルなんで、さすがにインパクトがあります。
さて、一般の人には、これでは何がなんだかわからない。
ほとんどの人は、9.11のようなテロを思い浮かべるでしょう。
ただひたすら混乱の中を逃げ惑う。

ここがこれまでの映画とは決定的に違うところなんですね。
観客は、何の情報も与えられないまま、事件の渦中の人物と一体化して、恐怖に駆られてしまう。
そして、映像の中にちらりと見える、何か巨大な生き物のような影。

しかし、この登場人物たちはけなげです。
友人が家具にはさまれ動けない、と聞いて、わざわざ一番危険な地域へ向かっていく。
このビデオを撮り続けた彼もすごいですよね!
普通なら、とっくに投げ出している・・・。
なんて、感心してるんだか、突っ込んでいるのだか、・・・
それはともかく、映画の可能性って、やっぱり無限だ・・・と、つくづく思ったのでした。

この話が正攻法で、この怪生物の誕生からニューヨーク出没までを追うような撮り方をしたとしたら、すごくありきたりで陳腐なものになっていたと思います。
見えないから怖い。
そこがポイントですね。

それにしても、一体これは何だったのでしょう。
なにやら日本の企業が裏で関連している、などという噂ではありますね・・・。

2008年/アメリカ/85分
J・J・エイブラムス製作
監督:マット・リーブス
出演:マイケル・スタール=デビッド、マイク・ボーゲル、オデット・ユーストマン、リジー・キャプラン
「クローバーフィールド/HAKAISHA」公式サイト

「夢のような幸福」 三浦しをん 

2008年04月06日 | 本(エッセイ)

「夢のような幸福」 三浦しをん 新潮文庫

いつもながら楽しい三浦しをんエッセイ。
このたび、つくづく、通勤バス・電車の読書には適さないと思いました。
つい、ニヤニヤ一人で笑っていたり、
また、時には声を出して笑いたくなってしまうのが、ちょっと、はたから見ると怪しすぎですよね・・・。

この本では、特に、彼女のお気に入りのコミックや本について書かれているところが多くありまして、そのラインナップを見ると・・・
「愛と誠」
「ガラスの仮面」
「残酷な神が支配する」
「サイボーグ009」
ほほ~、私も大好きですぞ。

「愛と誠」ですか・・・。
私は雑誌連載時リアルタイムで読んでいましたが・・・、今、彼女が文章で解説したのを読むと、ものすごく笑える!
中学生の岩清水君が「君のためなら死ねる!」だもんね。
これを笑い飛ばさずしてどうしましょう・・・。
これを「ステキ」と思っていた読んでいた当時の自分が恥ずかしい・・・。

エーと、三浦さんは1975年生まれ・・・?
私とはほぼ20もトシが離れているのに、妙に好きなものが同じだったりする・・・。
こんなオバサンと趣味が一緒では彼女が気を悪くしそうだけれど。
・・・つまり彼女は「古典」のコミックも読みこなす、オールラウンドのヒトなんですね。
そもそも、私は彼女の小説を読むなり、「少女マンガの世界だ」と感じ、ファンになったのですから・・・。

かと思えば、「ロード・オブ・ザ・リング」を見れば、
アラゴルン=ヴィゴ・モーテンセンが、とにかく好きだという。
わかりますよ、それ。
うっすらと伸びた無精ひげ、そこはかとなく漂う無頼の男っぽさ。
・・・実は私もしばらくはデスクトップの壁紙が、彼だったので・・・。

ただ、ちょっと方向が合わないのは、「BOYS LOVE」部門でしょうか。
私の世代では「風と木の詩」あたりが走りなのだけれど、
幸か不幸か特にそれにはハマらなかった。

いやいやさすがプロといいますか、これくらいのレビューを書ければ、いいなあ・・・と思います。

満足度★★★★


スルース

2008年04月05日 | 映画(さ行)
ジュード・ロウですが、先日見た「マイ・ブルーベリー・ナイツ」とは別人ですね・・・。
あのような甘さも、魅力だけれど、多分、こちらの方が、本領なのだろうと思う。
この作品は、72年作「探偵スルース」のリメイク。
その時の出演が、ローレンス・オリビエとマイケル・ケイン。
そして、今回、また、マイケル・ケインとジュード・ロウ、
ということは前作では、マイケル・ケインが若手俳優の役だったのでしょう。
見てみたくなりましたが、残念ながら、このDVDは出ていないようです・・・。

さて、この作品には、登場人物がこの2人こっきり。
舞台も、ロンドン郊外のベストセラー作家のハイテク豪邸のみ。
もともとは、舞台で上演されたものであることが想像つきますね。

老作家アンドリュー・ワイクの元に、売れない若い俳優マイロ・ティンドルが尋ねてくる。
実は、彼は作家の妻の愛人。
はじめから、2人の間に流れる微妙で不穏な空気。
お互いが相手を何とか陥れてやろうと、心理的な戦闘が繰り広げられるのです。
くるくると有利な立場が入れ替わっていく。
一言一言に緊張感が走り、泥沼化していく2人の関係・・・、
しかし、なぜか終盤付近では、お互いにそれを楽しんでいるかのように思える。
もはや肝心の、妻=恋人の存在などどうでもいいかのように。
この辺が妙に、女には理解しがたい男の世界を感じてしまうのですね。
もし、ここにその妻=恋人がいて、一部始終を見ていたら、
「あほらしい」といって逃げ出すのではないかな。
メンツとか、意地とか・・・、そういうものより、女性はもっと現実的だと思う。

あの、ハイテク駆使の無機的な屋敷が、心理的緊張感を盛り上げていたと思います。
ジュード・ロウの七変化も面白かった!!

2007年/アメリカ/89分
監督:ケネス・ブラナー
出演:マイケル・ケイン、ジュード・ロウ
「スルース」公式サイト

かもめ食堂

2008年04月03日 | 映画(か行)

(DVD)
日本作品でありながら、舞台はすべてフィンランド。
ヘルシンキで一人の日本女性サチエが開いた食堂が、かもめ食堂。
彼女はここの看板料理を「おにぎり」とし、
ごく庶民的な日本の料理を提供しようとするのですが、全くお客が入らず閑古鳥。
始めてきたお客がフィンランド青年トンミ。
なんと彼は日本かぶれ。
ガッチャマンの歌の歌詞を教えてほしいとサチエにせがむ。
ヨーロッパではすっかり日本アニメが蔓延し、
”オタク”まで出没しているということか。
でも、自慢じゃないけど、私、ガッチャマンの歌はかなりおぼえてますねえ・・・。
TV放映時リアルタイムでは20歳前後のいい年だったですが、
”コンドルのジョー”に結構入れ込んでましたので・・・。

さて、話はもどりまして、初めてのお客なので、彼へのコーヒーは無料と決める。
そして日本からふらりとやってきて、店のお手伝いを始めた女性二人。
小林聡美・片桐はいり・もたいまさこ、この個性的な三人がそれぞれいい味を出し、ゆっくりした時間の流れの中での変化を共にしてゆきます。

こんな人の入らない店に、お手伝いが2人もいてどうするの~!
・・・と思ったのですが、徐々にお客は増え始め、
次第に、サチエの夢見たとおりの、あったかい感じの小さなお店が実現していく。

豚肉のしょうが焼き、鮭の塩焼き、鳥のから揚げ・・・ライスを添え、
フィンランドの人々はお箸を使ったり、ナイフ・フォークを使ったり、
思い思いに食事を楽しんでいる。
その調理シーン、食事シーンを見るにつけ、すごくこちらの食欲が刺激されてしまいました。
わ~ん、おいしそうだったよ~。
でもそんな人たちも、おにぎりは警戒気味。
ちょっと、不気味な食べ物に見えるようですね。
さすがムーミンの国、ちょっぴりの不思議を混ぜ込みながら、
淡々と、そしてほんのり温かく、何よりも、おいしそうな香りに包まれた、
大事にしまっておきたい気にさせられる作品です。
フィンランドの風景と、もたいまさこさんのおっとり味は絶品!

2005年/日本/102分
監督:荻上直子
出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ、マルック・ペルトラ

 


バンテージ・ポイント

2008年04月02日 | 映画(は行)

異なる8つの視点から見た大統領狙撃事件の顛末。
ということで、これがなかなかスリルに富んでいまして、
同じ時点から何度も話が巻き戻され、
しかも、少しずつ新しい事実が見えてきたりするのが大変面白くて、息を呑む90分。

スペインで開催されるテロ撲滅のための国際サミット、というのが舞台です。
欧米と中東が始めて結ばれるための話し合い・・・という、実際にあって欲しいようなサミット。
これは日本なんて、蚊帳の外かい?と思ったら、ちゃんと日の丸の旗も私は見ました!・・ひそかに、安堵。

さまざまな人の視点が入れ替わるのですが、中心になるのは、米大統領のシークレットサービス、バーンズ。
彼は以前大統領に向けられた銃弾を受けてしまったことがあり、
そのトラウマでやや、精神が不安定。
この人で大丈夫なのかい?と、はじめ思わせられるのですが、
事件の渦中では、そんなことも忘れ、本来の彼の力量を発揮し始めます。
スペイン街中でのカーチェイスもなかなかの迫力でした。

米大統領の狙撃。
ここにまた、一つの大きな秘密があるのですが、これは言ってしまうとネタばらしになっちゃうので、やめておきましょう。
しかし、闘う大統領。
これもいいですね!

私が感じたのは、ただ単に、視点が切り替わるのではなくて、場面の切り替え方がうまい。
たとえば、バーンズがTVの中継車で、VTRのとあるシーンを見る。
「そんな、ばかな」と走り去る。
そのシーンは、観客には見せない。

道路の真ん中で、泣いて立ちすくむ女の子。
猛スピードの車が迫る。
危ない、どうなる!
そこで、カット。

安全なはずのホテルの一室。
意外にも、そこに銃を持った男が侵入。
片端から撃ち殺され、最後に残った重要な一人にも銃が向けられて・・・
そこでカット。

この監督は、TVで活躍している方なんですね。
だから、これは、CMのためのカット、もしくは、次回へ「つづく」ためのカット、
そういう手法が思い切り使われているような気がしました。

そしてまた、それが別の人の視点でちゃんとつながっていくというあたりが、実に計算づくしで心地よいです。

2008年/アメリカ/90分
監督:ピート・トラビス
出演:デニス・クエイド、マシュー・フォックス、フォレスト・ウィテカー

「バンテージ・ポイント」公式サイト


「犯罪ホロスコープⅠ/六人の女王の問題」法月綸太郎

2008年04月01日 | 本(ミステリ)

「犯罪ホロスコープⅠ/六人の女王の問題」法月綸太郎 光文社カッパノベルス

牡羊座から乙女座まで、6つの星座に題材をとった6つのストーリー。
まさに、法月綸太郎らしい美しく端正な本格推理。
著者が「あとがき」で自ら次のように言っています。

「どの話も殺人事件が起こって警察が捜査に乗り出し、
それが行き詰ったところで名探偵が解決するという、ベタな本格ばかりです。
今の時代、こういう小説がどれくらいもとめられているのか、
正直言って心許ないのですが、
とにかくできるだけ飽きられないよう、一話ごとに最新の工夫を凝らしました。
見かけほど薄い内容の本ではないと思っております・・・」

おなじみの法月警視とその息子綸太郎が活躍します。
上記パターンが同じなのはこれはもう、推理小説の王道パターンですし、
確かに、この6話は、それぞれに異なる趣向が凝らされており、どれも楽しめます。
ベタな本格、結構。
むしろ最近の拡散しすぎた方向性から見ると、
故郷に帰ったような、ほっとした感じがしてしまいます。

中でも私が気に入ったのは、「双子座/ゼウスの息子たち」
ここには双子どうしで結婚した二組の夫婦が登場。
達也と和也なんて言う名前が使われたりして、
これが、かの大ヒットコミックの主人公の名前だったりするのが、興味深い。
しかし、これは実に巧妙な著者の罠なのであります。
だまされます。
わかってしまえばなんということはないのに、思い込みというのは怖ろしいものです。
こういうところで、虚を付かれるのが本格の面白さ。

私の天秤座から始まるでありましょう、この続きが待ち遠しいところです。

満足度★★★★★