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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「しびれる短歌」東直子 種村弘

2019年05月17日 | 本(解説)

実に興味深い、短歌の今

しびれる短歌 (ちくまプリマー新書)
東 直子,穂村 弘
筑摩書房

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恋、食べ物、家族、動物、時間、お金、固有名詞の歌、
そして、トリッキーな歌…。
さまざまな短歌について、その向こうの景色や思いを語る。
歌人の二人による楽しい短歌入門。

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この頃私、なんだか短歌に惹かれます。
かつて俵万智さんが「サラダ記念日」で短歌界になんとも新鮮な風を吹き込みました。
おや、それがもう30年以上も前のことなんですね、びっくり。
これじゃ若い方に「サラダ記念日」なんて言っても通じないのか。
でもこの頃私が気になるのが、蝶や花、自然を読み込んだものとか愛だの恋だのではなくて、
もっと生活に密着した、ほんの些細な心の驚きを表したもの。
本作は「しびれる短歌」というだけあって、かなり個性的かつ
これまでの「短歌」のイメージを突き破るような作品が紹介されています。


俳句では季語の必要上、ハメを外すのもなかなか難しいし、
さすがに17文字では言いたいことを言い尽くせないことも。
けれど短歌は季語という制約もないし、31文字になればかなり可能性も広がる。
俳句以上にその人の個性が出ますね。
本巻には多くのしびれてしまう短歌が紹介されています。
まえがきの一番始めに紹介されているのが

したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ   岡崎由美子

「したあと」って、やっぱりアレですよね。
それが「うれしはずかし朝帰り♪」などというノーテンキなものではなくて、
実体験がにじむようで、なんともリアル。
「放置された自転車と自分の姿が重なり、虚しくて寂しくて悲しい」とあります。
実に納得。

家族の誰かが「自首 減刑」で検索をしていたパソコンまだ温かい  小坂井大輔

一体家族の誰が・・・? 
よくわかっているはずの家族のことが、実は何もわかっていなかったと思わせ、
うそ寒い気持ちにさせられる。
けれどもありそうな・・・まさにしびれる短歌。

えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい  笹井宏之

ひと目ではよくわからずじっくり見直してしまいますよね。
「永遠解く力」を繰り返していっているだけなのですが。
この作者は若くして亡くなっていまして、
そう知ると余計になにか胸に迫るものがあります。
ちくま文庫で「えーえんとくちから」という文庫の歌集も出ています。

その他、お金の歌、固有名詞を使った歌、トリッキーな歌・・・、
ユニークな章立てで興味深い作品が多く紹介されていて、
短歌の「今」を知るのにうってつけとなっています。

「しびれる短歌」東直子 種村弘 ちくまプリマー新書
満足度★★★★☆