映画と本の『たんぽぽ館』

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「坂の上の雲 二」司馬遼太郎

2019年05月22日 | 本(その他)

日露戦争前夜

新装版 坂の上の雲 (2) (文春文庫)
司馬 遼太郎
文藝春秋

* * * * * * * * * *

この十九世紀末というのは、地球は列強の陰謀と戦争の舞台でしかない。
―日清戦争の勝利にわく日本。
しかし、思惑が複雑にからみながら列強の干渉は強まる。
秋山好古は対コサック騎兵作戦を、秋山真之は対バルチック艦隊戦略を着々とたてはじめる。
そして正岡子規はその最後の情熱をかきたて、文学にむかう。

* * * * * * * * * *

本巻は、日露戦争前夜とも言うべき時代背景で、
当時のロシアの状況なども詳しく描かれています。
ロシアという土地の民族的変遷とでもいいますか、
そういう視点でロシアの国を見たことがなかったので、
なんだか目から鱗が落ちるような感じがしました。
ともあれ、西欧諸国の産業革命と植民地政策に遅れをとっていたロシアが、
ここに来て急に焦って南下を始めたわけです。
満州、朝鮮を射程圏内に収め、このままでは日本まで手を伸ばしそうだ・・・。
だからこそ、対ロシアとの戦争をすべきだという声が上がってきたのですが、
意外にもそれは庶民の側からの声。
政府上層部は、とにかく予算がないし、
いくらなんでも大国ロシアと戦って勝てるわけがないという思いが強く、
なんとか戦争を避ける道を模索していたようです。


明治30年度の軍事費は国家予算の55%というのには全く驚かされます。
奇跡的に勝利した日清戦争後、軍艦など装備の薄さを痛感した日本は、
なりふり構わず最新鋭の軍艦を増やしたり、軍人を留学させて海外の技術を取り入れたり・・・、
結果、国内はかなり貧しい状況だったのでしょうねえ。


そんな中で、秋山兄弟は着々と己の技量を高めていく。
好古は、ロシアの軍事施設を見学する機会を得たり、
真之は、アメリカの艦船で実際の戦闘を目の当たりにする機会を得たりします。
当時の日本人の海外からの知識や技術の吸収力、ものすごいです!


そうそう、本巻には新札の肖像画として今話題の渋沢栄一氏も登場しました。
すでに日本財界の大御所となっていて、やはり財政上から非戦論者として。


さて、一方正岡子規ですが・・・。
なんと本巻にて病没してしまいます。
まだ2巻なのに・・・。
残念。
しかし、死の間際まで俳句にかける彼の情熱には、鬼気迫るものがあります。
この辺のくだりは、伊集院静「ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石 上・下」のほうが
むしろ詳しく描かれていますので、興味のある方はそちらを読んでみてもいいかも知れません。


図書館蔵書にて
「坂の上の雲 二」司馬遼太郎 文藝春秋
満足度★★★★☆