バイクライフ・バイクツーリングの魅力を北海道から。
聖地巡礼-バイクライディングin北海道-
北へ。(2)道道106号線
(8:04AM 道道106 サロベツ原野天塩町 オトンルイ風力発電所)
天塩の町には8時前に着いた。
ガソリンはまだあり、休憩のタイミングも逃して、そのまま通過する。
国道232号線と別れ、海沿いの道道106号線へ。
札幌から日本海側を稚内まで。
R231→R232→道道106。
このラインを通称日本海オロロンラインと呼ぶ。
(ちなみに函館→札幌間の日本海側は、「ソーランライン」。)
(どちらも始点、終点は厳密には違うし、諸説あるが、まあここは大まかにそうしておこう)
そのオロロンラインのハイライトが、天塩→稚内間の道道106だ。
昔はこの道道、999号線だった。
この号数がまた、ハイライト気分を盛り上げてくれたものだったが(しかもダートだった!のである)、今、106号になったとて、その地位は揺らぎはしない。
天塩の街を出て、天塩川の河口大橋を渡ると、やがてサロベツ原野の中をどこまでもまっすぐな道が北へ伸びていく。
北上すると、右にサロベツ原野、左に日本海。道以外の人工物がなくなり、そのうち、街灯も電線もガードレールもなくなり、ひたすら道だけが北へ、北へ伸びる道となるのだ。
写真にあったのは、天塩市街を抜けて河口大橋を渡ると、しばらくして現れる、オトンルイ風力発電所の林立する風車である。
(同上)
しかし今日は濃霧の中。
晴れていれば、風車も一列にずらーっと並んでいるのが見えるのだが、
今日は目を凝らしても3基、見えるかどうかだ。
風はなく、風車は止まっている。
実は僕はこの風車の風景は好きではない。
いつ見ても、どこの風力発電の風車を見ても、
なんだか感覚的に、気持ち悪いと思ってしまう。
しかも丘の上に林立した様は、かなり異様に思ってしまうのだ。
これが自然の力を利用した発電設備だ、と知っていても、頭では肯定しようとしても、
どうも感覚が拒否してしまう。
この地球上ではないかのような風景になってしまうものではなく、もっと違った発電設備、もっと景観をも破壊しないような風力発電はないのだろうか。
身勝手な素人は、そんなことを考えるのだった。
それをいうなら、化石燃料を燃やして、用事もないのにバイクで走り回る自分の存在はどうなのか。
僕はきっと、へそ曲がりなのだ。
霧は晴れそうもない。
GPZは、静かに止まっていた。
やはり疲れたのか、止まると、ろくなことを考えない。
今日は走りに来たのだ。
何であれ、走るのだ。
再びGPZに火をいれ、視界のない中、慎重に道道に出て、さらに北に走った。
このあたりは晴れていたら海の向こうに利尻山(1721m)が見えるのだ。
日本最北のサロベツ原野と、海と、利尻富士が、今、僕の周りにある。
僕はそのさなかを走っている。
しかし、霧がすべてを隠し、路面を残して白い闇の中に風景を消している。
シールドに溜まっていく水滴をぬぐいながら、白い闇の中を走っていく。
北へ。
どこを走っているのか、感覚が麻痺してくるような、時間感覚まで徐々に消えていくような、
それはわずか数分のことなのに、霧の中のライドは、不思議な感覚を僕に覚えさせた。
…と、
………。
(8:16AM 道道106 サロベツ原野 豊富町 )
予兆もなく、突然、霧の外へ、GPZは飛び出した。
世界が白い闇と足元の路面だけの世界から、
あざやかな色彩と光の舞にあふれた美しい風景の中に突然変わった。
思わずめまいを覚えてしまいそうだ。
海が予想以上に近い。
そして海の向こうには…、
利尻富士が、山の裾野に濃霧の帯をまとったまま、その美しい山塊に雪を残して、
聳え立っていた。
なんということだ。
この道は、もう何回も通っている。
この風景はもう何回も見ているはずだ。
しかし、全然違う。
いや、思い出せば、この道では、毎回、見たことのあるはずの風景が、
全く違う風景であるかのように、僕の前に現れるのだった。
…これか、これを見に来たのか。
GPZを路肩に止める。
バイクから降り、ヘルメットを脱ぐ。
さっきオトンルイでまったく止まっていた風が、ここでは吹いている。
海から、陸へ。
斜めに、海岸線をスライスするように、南西から北東へ、風が吹いていた。
(同上)
目を北に転ずれば、広い平原と、広大な海原を左右に控えさせ、
一本の道が、北へ、すらっと伸びている。
地平線のかなたへ、道が消えていく。
ここでは、道こそが主役なのだ。
僕も、バイクも、ちょっとお邪魔しているだけの、小さな存在に過ぎない。
道と、海と、草原と、空と。
そしてわたる、風。
体の中まで、心の中まで、風が吹き抜けていくようだ。
(8:21AM 道道106号 サロベツ原野 豊富町)
北緯45度を過ぎ、太陽の光は、日本の南の地方に比べれば、かなり低い。
気温は20度を少し下回るくらい。いや、15度を切っているか?
それでも、道の向こうに逃げ水が走る。
追いかけても、追いかけても、逃げ水は逃げていく。
北へ。
北へ。
(8:27AM 道道106号 サロベツ原野 稚内市)
道道106号はほぼまっ平らな原野と海の間を走るが、時々現れる、数メートルの高さのクレスト(丘)をいくつも乗り越えていく。
ここはその中でも一番高いところ。
といってもどうだろう、海抜20mくらいだろうか。
南を振り返れば、道と平原と海がまたどこまでも広がり、
道の向こうにさっき飛び出してきた霧が、もやのようにかかっているのが見える。
ヘルメットを取り、丘の上でしばらく風に吹かれていると、遠くから一台のバイクが走ってきた。
時間をかけて、小さな点だったバイクとライダーは、次第に近くへ、次第に大きく、
こっちへ走ってくる。
やがて、僕を追い抜いていく。
小柄な女性のライダーだった。
ここに来るまでの道のりも、ここを走ることの意味も、
ここを走る気持ちも。
一人ひとり、ライダーは違う。
一瞬すれ違うだけで、おそらく二度と出会うこともない。
でも、今、二人のライダーは、この風景の中にいる。確かに、同時に、存在している。
すれ違いざま、お互いが大きく手を振る。
一度きりの出会いに、万感の挨拶を。
道道106号は、そういう道だ。
(同上)
彼女が走り去った北の方角。
僕もこれから走っていく、その道が、眼下に続いている。
GPZのシートに手を置き、目を閉じて風の音とそれに混じる波の音に耳を澄ます。
それでも、道はまぶたの裏に、焼きついて見える。
北へ。
もう折り返しは近い。
そして折り返し点が旅の目的地でもない。
風の音が体の中を走りぬける感じがする。
目を開けると、まぶたの裏側の道がそのまま、やはり目の前に広がっていた。
北へ。
走ろう、GPZ。
僕たちは、走りに来たんだ。
走るために生まれたお前と、走らずには生きられない僕のために、
今、ここに道がある。
道は、走るためにある、GPZ。
(同上)
裾野に消え止まぬ朝霧漂う利尻富士。
海原を、いっそうの漁船が、まっすぐな線(ライン)で海を切り取るように、
北へ、走っていった。
僕はGPZに跨り、再びエンジンをかけた。
(つづく)
天塩の町には8時前に着いた。
ガソリンはまだあり、休憩のタイミングも逃して、そのまま通過する。
国道232号線と別れ、海沿いの道道106号線へ。
札幌から日本海側を稚内まで。
R231→R232→道道106。
このラインを通称日本海オロロンラインと呼ぶ。
(ちなみに函館→札幌間の日本海側は、「ソーランライン」。)
(どちらも始点、終点は厳密には違うし、諸説あるが、まあここは大まかにそうしておこう)
そのオロロンラインのハイライトが、天塩→稚内間の道道106だ。
昔はこの道道、999号線だった。
この号数がまた、ハイライト気分を盛り上げてくれたものだったが(しかもダートだった!のである)、今、106号になったとて、その地位は揺らぎはしない。
天塩の街を出て、天塩川の河口大橋を渡ると、やがてサロベツ原野の中をどこまでもまっすぐな道が北へ伸びていく。
北上すると、右にサロベツ原野、左に日本海。道以外の人工物がなくなり、そのうち、街灯も電線もガードレールもなくなり、ひたすら道だけが北へ、北へ伸びる道となるのだ。
写真にあったのは、天塩市街を抜けて河口大橋を渡ると、しばらくして現れる、オトンルイ風力発電所の林立する風車である。
(同上)
しかし今日は濃霧の中。
晴れていれば、風車も一列にずらーっと並んでいるのが見えるのだが、
今日は目を凝らしても3基、見えるかどうかだ。
風はなく、風車は止まっている。
実は僕はこの風車の風景は好きではない。
いつ見ても、どこの風力発電の風車を見ても、
なんだか感覚的に、気持ち悪いと思ってしまう。
しかも丘の上に林立した様は、かなり異様に思ってしまうのだ。
これが自然の力を利用した発電設備だ、と知っていても、頭では肯定しようとしても、
どうも感覚が拒否してしまう。
この地球上ではないかのような風景になってしまうものではなく、もっと違った発電設備、もっと景観をも破壊しないような風力発電はないのだろうか。
身勝手な素人は、そんなことを考えるのだった。
それをいうなら、化石燃料を燃やして、用事もないのにバイクで走り回る自分の存在はどうなのか。
僕はきっと、へそ曲がりなのだ。
霧は晴れそうもない。
GPZは、静かに止まっていた。
やはり疲れたのか、止まると、ろくなことを考えない。
今日は走りに来たのだ。
何であれ、走るのだ。
再びGPZに火をいれ、視界のない中、慎重に道道に出て、さらに北に走った。
このあたりは晴れていたら海の向こうに利尻山(1721m)が見えるのだ。
日本最北のサロベツ原野と、海と、利尻富士が、今、僕の周りにある。
僕はそのさなかを走っている。
しかし、霧がすべてを隠し、路面を残して白い闇の中に風景を消している。
シールドに溜まっていく水滴をぬぐいながら、白い闇の中を走っていく。
北へ。
どこを走っているのか、感覚が麻痺してくるような、時間感覚まで徐々に消えていくような、
それはわずか数分のことなのに、霧の中のライドは、不思議な感覚を僕に覚えさせた。
…と、
………。
(8:16AM 道道106 サロベツ原野 豊富町 )
予兆もなく、突然、霧の外へ、GPZは飛び出した。
世界が白い闇と足元の路面だけの世界から、
あざやかな色彩と光の舞にあふれた美しい風景の中に突然変わった。
思わずめまいを覚えてしまいそうだ。
海が予想以上に近い。
そして海の向こうには…、
利尻富士が、山の裾野に濃霧の帯をまとったまま、その美しい山塊に雪を残して、
聳え立っていた。
なんということだ。
この道は、もう何回も通っている。
この風景はもう何回も見ているはずだ。
しかし、全然違う。
いや、思い出せば、この道では、毎回、見たことのあるはずの風景が、
全く違う風景であるかのように、僕の前に現れるのだった。
…これか、これを見に来たのか。
GPZを路肩に止める。
バイクから降り、ヘルメットを脱ぐ。
さっきオトンルイでまったく止まっていた風が、ここでは吹いている。
海から、陸へ。
斜めに、海岸線をスライスするように、南西から北東へ、風が吹いていた。
(同上)
目を北に転ずれば、広い平原と、広大な海原を左右に控えさせ、
一本の道が、北へ、すらっと伸びている。
地平線のかなたへ、道が消えていく。
ここでは、道こそが主役なのだ。
僕も、バイクも、ちょっとお邪魔しているだけの、小さな存在に過ぎない。
道と、海と、草原と、空と。
そしてわたる、風。
体の中まで、心の中まで、風が吹き抜けていくようだ。
(8:21AM 道道106号 サロベツ原野 豊富町)
北緯45度を過ぎ、太陽の光は、日本の南の地方に比べれば、かなり低い。
気温は20度を少し下回るくらい。いや、15度を切っているか?
それでも、道の向こうに逃げ水が走る。
追いかけても、追いかけても、逃げ水は逃げていく。
北へ。
北へ。
(8:27AM 道道106号 サロベツ原野 稚内市)
道道106号はほぼまっ平らな原野と海の間を走るが、時々現れる、数メートルの高さのクレスト(丘)をいくつも乗り越えていく。
ここはその中でも一番高いところ。
といってもどうだろう、海抜20mくらいだろうか。
南を振り返れば、道と平原と海がまたどこまでも広がり、
道の向こうにさっき飛び出してきた霧が、もやのようにかかっているのが見える。
ヘルメットを取り、丘の上でしばらく風に吹かれていると、遠くから一台のバイクが走ってきた。
時間をかけて、小さな点だったバイクとライダーは、次第に近くへ、次第に大きく、
こっちへ走ってくる。
やがて、僕を追い抜いていく。
小柄な女性のライダーだった。
ここに来るまでの道のりも、ここを走ることの意味も、
ここを走る気持ちも。
一人ひとり、ライダーは違う。
一瞬すれ違うだけで、おそらく二度と出会うこともない。
でも、今、二人のライダーは、この風景の中にいる。確かに、同時に、存在している。
すれ違いざま、お互いが大きく手を振る。
一度きりの出会いに、万感の挨拶を。
道道106号は、そういう道だ。
(同上)
彼女が走り去った北の方角。
僕もこれから走っていく、その道が、眼下に続いている。
GPZのシートに手を置き、目を閉じて風の音とそれに混じる波の音に耳を澄ます。
それでも、道はまぶたの裏に、焼きついて見える。
北へ。
もう折り返しは近い。
そして折り返し点が旅の目的地でもない。
風の音が体の中を走りぬける感じがする。
目を開けると、まぶたの裏側の道がそのまま、やはり目の前に広がっていた。
北へ。
走ろう、GPZ。
僕たちは、走りに来たんだ。
走るために生まれたお前と、走らずには生きられない僕のために、
今、ここに道がある。
道は、走るためにある、GPZ。
(同上)
裾野に消え止まぬ朝霧漂う利尻富士。
海原を、いっそうの漁船が、まっすぐな線(ライン)で海を切り取るように、
北へ、走っていった。
僕はGPZに跨り、再びエンジンをかけた。
(つづく)
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
« 北へ。(1)R... | 北へ。(3)... » |
風力発電が沢山出来ているのは私もちょっと・・・ですけれど、
バイク、それもガソリンを多く喰う大排気量車に乗っている身分としてはなんとも・・・ですね・・・
しかしまぁ、素晴らしい青空ですね!
この空こそ北海道らしい空だと思います。
稚内って札幌からだとかなり遠いですよね。
そこを日帰りかぁ・・・
久しぶりの好天の日曜日となりました。
ワタシも久しぶりにZ2走らせて、美瑛往復
360キロ、北へのツーリングの半分を走ってきました。
往復とも高速を利用で、風圧疲労と往路は気温も低く
身体の冷えでまいりました。
お昼前から気温もぐんぐんあがり、夏ツーリングそのもの。
パーキングの屋内で涼み、ドーナツとコーヒーで補給、
しっかり休憩とって走りました。
右手の握力と二の腕筋肉痛以外は問題なし。
自宅についてもぼーっとなることもないでした。
虫対策も含めて、次回はフェアリングを装着してみようかなと
そしてさらに遠くを目指してみたいなと
思っています。
自然エネルギーを生かした発電は、絶対必要だと思いますし、風力発電自体も、賛成なんです。でも、あの風車、大きすぎる気がするんです。
大きくないと発電量がまかなえないんでしょうが、
どうも気持ち悪い気がしてしまって…。
例えば、風力や水力を電気以外の力として使う(オランダの風車などのように)ことを、もっと増やしていくとか、電気一辺倒からも脱していくほうがいいような気もしています。
まあでも、それも何も知らない素人の戯言。
稚内は今回ほぼ最短距離を行ったと思います。
それで350キロくらいです。
これが根室だと500キロを越えます。
北海道の広さ、恐るべしです…(^^;)
美瑛、350キロ。
復帰後最長距離でしょうか。
丘の風景はどうだったでしょう。
超人気のスポットになってしまいましたが、やはりあの丘と、丘のはるか向こうの大雪山系の山々は、美しいですね。
私は昨日も、今日も、フルに仕事でした。
明日も、明後日もです…(^^;)
しかし、kaoriさん、徐々に覚醒、感覚も戻りつつありますか?
次回はもっと長く。
とても楽しみですね。
感動しました。
空間失調になりそうな霧から抜けたあとの青空。
GPZクンも頼もしいです。
次回の記事もすぐに拝見させて頂きます。
ありがとうございます。
このときは、霧の中から一気に飛び出すと左に利尻富士が見えて、あまりに劇的な景色の変貌に驚きました。
ツーリングに出るたび、毎回何らかの感動的なシーンに出あうのは、私はよっぽど運がいいのでしょうか。
それとも、ツーリングとは、そういうものなのでしょうか。
そのときの自分に必要なものに出会えているような気が、いつもします。
だから、やめられないのかもしれません。