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先輩の教え(その1)

僕がバイクに乗り始めたのは大学生の時。
当時はバイクブームが起こり始める頃。
僕の周りにもバイクに乗る友達や先輩が何人もいて、よく一緒に走りに行きました。

その中でも、僕に非常に大きな影響を与えた「バイクの先輩」が二人います。
一人は5つ年上の大学院生、Y先輩。
もう一人は同級のM。

僕は、毎月隅から隅まで何十回も読みふけった「ライダースクラブ」誌と、
この二人の先輩の教えと、そしてそれまでの僕の人生の生き方すべてで、
僕のライダーとしてのスタイルを徐々に培って行ったのだと思います。

僕の中に生きる先輩の教え。
少し思い出しながら、書いてみたいと思います。

1 「バイクで死んではならない。また、バイクで人を殺してはならない。」

バイクは当時から「危ない」と言われていました。車の死亡事故者数よりもバイクの事故者数の方がずっと少ないのに、です。
そのイメージは、時とともにだいぶ変わりましたが、今でも少し残っていますね。

Y先輩は言っていました。

「バイクに乗る以上、バイクで死ぬ可能性は常にある。安全運転に徹し、運転技術を磨き、いつでも集中力を切らさないことで、その確率はかなり下げることはできる。しかし、ゼロにはできない。統計上、バイク事故は起きる。それが自分である可能性は常に排除できない。
また、バイクで車とぶつかればたいていの場合はバイクの方が怪我がひどくなるが、バイクで歩行者を跳ねれば、歩行者を殺してしまうこともある。目の前にいきなり飛び込まれたら、どんなに運転が上手くても、事故は防げない場合がある。
バイクに乗る以上、バイクで死ぬ可能性、バイクで人を殺してしまう可能性は常に背中にある。それを覚悟して乗るべきだ。」

「だから言うのだ。≪バイクで死んではならない。また、バイクで人を殺してはならない。≫
これを一生続けるには、神の(彼は真剣に神を信じていました)加護すら必要となる。
どんなに気をつけていても、無事故でいられるのは、「運がいいから」に過ぎないことを忘れてはならない。俺は無事故だなどと天狗になるな。不幸はいつも足元にある。」

「生きること自体がリスキーじゃないのか?
バイクはそれがとても分かりやすい形で手の中にある。
安全に心を砕き、死なない、殺さない、と念じつつ、走り続けることが、ライダーのあかしなのだ。」

(先輩はバイクから降りないんですか?)

「樹生君、生きるのがつらいから、重いからと、生きることを降りるかい?
バイクで走ることは、みんなが考えているほど軽いことじゃない。でも、だからこそ、素晴らしい。世の中に楽しいだけ、明るいだけの話があったら、それは嘘だろう?夢によく似た嘘だろう?」

そう、Y先輩と走ると、Y先輩はいつでもすごく楽しそうに、幸せそうに走っていました。
そして彼は、街中ではすり抜けもしない、一人の歩行者のために停止して道を譲る人だったのですが、初めて早朝の峠に一緒に走りに行ったとき、そのとんでもない速さに僕は文字通り度肝を抜かれたのでした。
鬼神の走り。恐ろしく速い!当時のスズキの2気筒の400ccのバイクで、ナナハンをぶち抜き、コーナーの奥に消えてしまうその姿。
何度も僕を待っては引っ張り、やがてペースを上げてひゅっ!と視界から消えていく、その走り。

バイクマンガの「あいつとララバイ」で死神ライダー、赤木洸一が出てきたとき、僕はこれはまるでY先輩じゃないか!と驚いたのでした。もちろん、Y先輩は死神とも呼ばれなかったし、バイクチームにも入っていなかったし、何より普段はひょうきんで明るい先輩だったのですが、バイクの上でのそのオーラ、それは特別なものでした。

彼はバイクで一緒に走って帰ってきたとき、いつも「今日も無事に、走れたな」と言っていました。
その言葉には本当に無事故を感謝する、「生還」の実感がこもっていました。
いつしか僕も、仲間と走って帰り着き、解散の時に、「今日もみんな無事でここまでこれたね」と言うようになっていました。

そして先輩は、お決まりのように、家に着くまでがツーリングだ、とは言いませんでした。
Y先輩はいつも解散地点で別れるときは、「気をつけて」とだけ、言っていました。
                                   (「先輩の教え」 続く)
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コメント
 
 
 
Unknown (まーしー)
2008-09-28 17:18:58
Y先輩の教え、これから私も胸に刻んでおきます。
20代半ばにして、真理とも思えることを信念とされていたY先輩、素晴らしいですね。
 
 
 
同感です (ホタ)
2008-09-28 17:20:14
Y先輩の言葉にすごく共感します。
そして樹生さんもまたその教えを忠実に守り抜いていることが記事の中から感じ取れます。
ライダーのあかし…私も目指していきたいと思います。

 
 
 
ライダーとして。 (樹生和人)
2008-09-28 17:20:49
まーしーさん、こんにちは。
Y先輩は僕にライダーとは何かについて、実際の存在としてイメージを与えてくれた人でした。
今では音信不通になっていますが、あの頃のことは忘れたくないと思います。
 
 
 
問いかける言葉を (樹生和人)
2008-09-28 17:21:32
ほたさん、こんにちは。
私は信仰を持たない人間ですが、祈りの言葉やお経など、常に繰り返し、自分に言い聞かせ、問いかける言葉を持つことはとても大事なのかもしれないと思います。
先輩の教え、忘れないようにしていきたいと思います。
 
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