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転倒の仕方考<3>

          (写真はモトGPオフィシャルサイトより。)

転倒の仕方を考える。
今回は、スピードが出ている時の転倒についてです。

スピードが出ている場合の事故としては、転倒と衝突があります。
単純な転倒よりも、衝突の方がずっと深刻です。

衝突の場合、相手が停止している場合、自分の出した速度で、相手が動いている場合は、自分の速度と相手の速度の合わさった分が衝突の衝撃として体に襲ってきます。
剥き身で走っているバイクの場合、いくらヘルメット、プロテクターなどを装着していても、ある程度以上のスピードで衝突事故に遭ってしまうと、死亡する可能性が高くなります。
衝突事故は避けたいものです。
無理のない、安全運転が大事ですね。

今回考えるのは、衝突を伴わない転倒の場合です。
この転倒にもいくつかのパターンがあります。

ブレーキをかけたとたんに前輪からすくわれるように転ぶ、「握りゴケ」。
傾いた状態から前後いずれか、または両方のタイヤが滑って転ぶ「スリップダウン」。
傾いた状態で一度滑ってその後グリップが回復しその反動で急激に反対側に飛ばされる「ハイサイド」。
高速走行中、激しくハンドルが振られ、やがて車体すべてがぶるぶる震えて振り落とされてしまう場合。「振り落とされ」。
オンロードバイクでは滅多にないですが、ウィリーしたままひっくりかえって転ぶ場合もあります。

どの場合も「離せ!見ろ!」が転倒時の心がけの鉄則になると、私は考えています。
衝突でない、単独の転倒の場合、ライダーの負う怪我は大きく3つのパターンがあると思います。

1 バイク上で激しく振られるハンドルに手首をやられる。または振り落とされるときにバイクに体をぶつける。

2 バイクから路面に落ちるとき、路面に当たる衝撃。

3 路面上を体が滑る時の擦過傷。または路面上で体が回転したときの様々な怪我。

もっと深刻なのは、その後後続車に引かれるとか、崖下に転落するとか(経験あり^^;)、転倒後に滑る、または転がっていって何かに衝突するとかなのですが、それはまた別としましょう。

次にココの例について考えてみます。


1 バイク上で激しく振られるハンドルに手首をやられる。または振り落とされるときにバイクに体をぶつける。

これは高速で走っている時に起こることが多いです。
原因は様々あれど、車体がぶるぶる震えてハンドルがロックtoロックで振られます。
この症状が出たら振り落とされないように、しっかり下半身で体をホールドし、徐々に速度を落としていくしかないのですが、その間もなく、振り落とされることもあります。
例えば高速で走行中に路面の穴や落下物に気づかずに落ちたり、踏んだりしてしまった場合、いきなり揺れに見舞われるので、気づいていたときと違って気持ちと体に用意ができていません。
すると、いきなり振られたハンドルで手首を骨折したり、筋を痛めてしまったりします。
これは特に不用意にハンドルに体重を掛けていたり、変に力が入った握り方をしていたりすると、怪我になりやすいです。
ハンドルは、正しく握っておきたいものです。
(ハンドルの握り方について、以前に書いた記事はこちらです。)

ハイサイドで転倒するときも、激しく振られます。
ハイサイドとは、傾いて旋回中、いったんタイヤ(リヤが多い)が外側に滑ってスリップダウンしそうになり、次に急にグリップが回復して、そのタイヤの接地点を支点にバイク、ライダーともども裏返るように反対側(アウト側)に跳ね飛ばされるという転倒で、レースでは時折見ることができます。
公道ではハイサイドを起こすほど攻めない方が賢明です。
この場合、いきなり滑ってバイクがなくなったかのように体が路面に落下するかと思うと、まるでカウンターパンチのように車体が体を打ち、反対側へバイク越しに跳ね飛ばされます。
ハンドルを持つ手首の骨折、衝撃によるムチウチ、バイクに当たっての打撲などが、路面にたたきつけられる前にライダーを襲います。
ジェットヘルですと、バイクで顔面を強打する場合もあります。

これらの怪我は、こうしたタイプの転倒を避けることが何より大事で、無理をして飛ばさなければ、そんなに遭遇するタイプの転倒パターンではありません。
ただ、疲れて集中力が落ちた高速道路で、落下物を見落として…などということはありますので、やはり油断は大敵。休憩をちゃんと取る事の大切さも忘れてはなりません。


2 バイクから路面に落ちるとき、路面に当たる衝撃。

これは、ハイサイドで跳ね上げられ、叩きつけられる場合を除けば、実はそれほど大きな衝撃ではありません。
衝突した場合を除けば、バイクの高さから路面に落下した、その分の衝撃しかないからです。
実際には、高速になればなるほど、路面には上からではなく、斜めから落ちることになり、落下の衝撃よりもその後の、慣性の方が怪我の原因となるのですが、それは次項で述べます。

大した衝撃ではないとはいうものの、人は落ちるときに無意識に手をついたり、ひじをついたり、膝をついたりして、つまり、頭や胴体を守ろうとして落ちるものです。
転倒で路面に落ちる時は、全身をうまく使って落下エネルギーを分散…などと言ってられずに、手、肘、肩、膝、などのどこかに衝撃が集まることになり、その部分の怪我が大きくなります。
グローブは必須。できれば膝、肘、にも何らかの衝撃吸収材があったほうがいいでしょう。
背中から落ちることも結構あります。
バックプロテクターもあるほうが望ましいです。
脊椎には神経の束が通っているので、ココを痛めると、下半身不随とかになる可能性があります。脊髄は数ミリずれただけでも深刻な結果をもたらすので、何らかのバックプロテクターは是非付けたいところです。

さて、このとき、ハイサイドならもうバイクから飛ばされていますが、スリップダウンの場合、まれに転んでもハンドルを離さない人がいます。
これは、意識してハンドルを離さないようにしている人と、無意識にハンドルにしがみついてしまい、離せない人とに分かれます。

倒れるとき、ハンドルをつかんだままだと、手を突いて体を守ることができません。
しかもバイクにつかまると脇が開いていることが多く、最悪の場合、わき腹から路面に落ちていくことになります。これは、相当にリスクが高い転倒です。
また、転倒時にバイクを離さないと、体が先に落ちてバイクがまだ走っている(!)ということも意外な事に起こり得て、その場合、バイクに引きずられることになります。しかも、伸びきった手でハンドルをつかんでいるので、アクセルが開いた上体で固定されてしまいます。
また、後輪で轢かれる、ホイールやチェーンに巻き込まれる、ステップやオイルパンの下の突起など、車体が体に刺さるなど、非常に危険な状態に陥りやすいのです。
転ぶと分かったとき、転ぶことが避けられないと決まった時は、路面に落ちる前にバイクから手を離す!これがとても大事です。



3 路面上を体が滑る時の擦過傷。または路面上で体が回転したときの様々な怪我。

路面に落下してから、止まるまで、ライダーにできることはほとんどありません。
そのままどこかにぶつかる、対向車や後続車に轢かれる、そんなことがないように、祈ることくらいです。

もし、ハンドルをまだつかんでいたなら、すぐに離します。
「離せ!」です。
転んでしまうと、後は路面を滑って、または転がっていくだけですが、人間よりずっと重いバイクはそれだけ大きな運動エネルギーを持っているので、なかなか速度が落ちず、遠くまで滑っていきます。
もしハンドルを離していれば、人の方が自然に手前に止まるようになり、バイクは次第に先に行って離れていきます。
これが大事なのです。
倒れた後のバイクも、ライダーに襲い掛かる凶器になるからです。
ただ滑って行くのならいいのですが、何かに引っ掛かって回転しだすと、舞い上がっては路面に叩きつけられることを繰り返しながら吹っ飛んでいきます。
これに万一当たったら、ひとたまりもありません。
また、回転し、大破したバイクは、ガソリンがもれて火災になりやすくもなっています。
転倒の怪我だけでなく、ガソリンで火ダルマになることすら、ありえますから、とにかくバイクを離すことです。

バイクを蹴ったりする必要はありません。離すだけで、バイクは離れて行きます。
バイクを蹴って離れようと動くときに、自分が何かに引っ掛かって回転してしまう危険の方が大きいので、バイクには何もしない、と決めて置いた方がいいと思います。
ただ「見ろ!」です。

やってはいけないのは、転んで路面に落下して、まだ体が止まっていないのに、すぐ起き上がろうとすることです。
もしも服装がちゃんとしていれば、何もしないでただ滑っていれば、やがて体は止まります。
しかし、まだ止まる前に起き上がろうと肘をついたり、手をついたりすると、ついたところが路面に食いついてしまうとそこを支点に体が跳ね飛ばされ、ハイサイドを食らったバイクが舞うように、体が回転をはじめてしまいます。
まず、ついた部分に無理な力がかかって骨折、回転した体が路面にたたきつけられて、転倒時よりも大きな衝撃を受けます。回転の加速がついているからです。
しかも、いったん回転を始めると、体はその都度どこかを激しく打ちつけ、そこをまた支点に無理な力を受けつつ、回転を続けてしまいます。
各部の骨折、内臓を痛めることすらあり、超高速域だと、死につながります。
連続で衝突し続けるようなものだからです。

いったん落下したら、止まるまで何もせずにそのまま滑る。
それが鉄則です。
滑り方をあえて言うなら、どこかが引っ掛からないように、仰向けなら手足を軽く浮かせ、あごを引いて頭を打たないようにし、そのまま止まるまで待ちます。
できることはその間、よく「見て」おくことです。
滑っていく先になにがあるか、後続車は来ているか、など。
見ても何もできないかもしれませんが、万に一つ、見ていたためによけられることもあるかもしれません。パニックになって滑っているのにすぐ立ち上がろうとして大怪我するより、ずっと「現実的」な選択です。

さて、完全に止まったら、自分の体のダメージを素早く把握。まずは体を見て、手足が変なほうを向いてないかなどをチェック、四肢が動くか確認します。
これには1秒もあれば充分。
後はまずは安全なところに、バイクは放って置いていったん逃げます。
逃げたらもう一度体をチェック。
2次災害を防ぐために、バイクを移動します。このときにも撥ねられないよう気をつけて。
以下は省略します。

つまり、バイクで走行中に転倒したら、バイクを「離し」、そのまま何もしないで止まるまで路面を滑るままにすること。そしてその間も周囲をよく見ておくこと。
これが、走行中に転倒した時の心得です。
やはり、「離せ!見ろ!」につきるのです。

でも、路面を滑って行ったら、服が擦り切れて皮膚や肉が削れ、ひどいことにならないでしょうか。

なります。
ただ、もんどりうって回転しながら行くよりも多くの場合、かなりましだというだけです。


しかし、乗車時の服装でかなり擦過傷は軽くすることができます。
大変恥ずかしい話ですが、私、濡れたつるつるの路面で時速100キロ以上から転倒したことがあります。
ブレーキをかけた瞬間、フロントから足払いをかけられたように、一気に転びました。
一瞬の出来事でした。
右側に転倒し、路面を滑っていきました。
バイク(GPZ1100)が火花を散らしながら前方を滑って行くのが見えました。
幸い、直線路だったこと、対向車も後続車も近くにいなかったことなどが幸いして、停止するまで、バイクも私もどこにも当たらずに滑っていくことができました。
もし、衝突していたら即死するような速度での転倒です。
気づかなかったのですが路面はぬるぬるするくらい滑りやすく、転んだ本人の感覚では飛んでもなく長い距離を滑っていったように感じました。

バイクは右のクランクケースカバーが削られてオイルが漏れるくらい。
カウルの損傷、ウィンカーの割れ、ブレーキレバーの曲がり等ありましたが、他はダメージなしで、オイル漏れのところにテープを貼って応急措置をしたら自走できました。ハンドルも曲がらず、軽症で済んだのは運がよかったのでした。

体はどうかというと、何と無傷でした。
夏のツーリングでしたので、メッシュのジャケットを着ていたのですが、
そのジャケットの背中が破れたくらい。

これはフェニックス製のワインガードナーブランドのメッシュジャケットで、非常に強い引き裂き強度を持つ繊維で作られています。
もし普通の生地だったら、たとえデニムでも、ずだずだに裂けていたことでしょう。
転倒した瞬間のことは一瞬で覚えていないのですが、どうやら右の肘から落ちて右半身を路面に打ち、その後仰向けで滑ったようです。
ジャケットの右ひじの部分が破れています。
このジャケットはごらんのようにソフトパッドが標準装備なのですが、私はその時、別売の肘プロテクターを内側に装着していました。それは肘関節から手首方向に20センチほど長さがあり、そこを着地時に打ったようで、私に怪我は全くありませんでした。

そうは言っても、背中で滑る間に背中がべろべろになる可能性もありました。
私がその時つけていたのが、ダイネーゼの脊椎パッドです。
この硬質樹脂が私の背中を守ってくれたと同時に、引っ掛かりにくく、すべりやすくもしてくれていたのでした。
ジャケットがわずかにめくれた部分はプロテクターが直接路面に擦って傷ができています。
(下部の傷がそれです。)

その時履いていた革パンです。
右側腰、青い部分、シャーリングの部分も白くなっていますが、これが路面と擦れた部分です。
ちょうど腰骨の辺りは革が厚く、パッドも入っていて、転倒時の打撲から体を守ってくれました。
あとは滑って行った擦過傷ですが、いかに革製品が優れているか、身を以って知りました。

あの転倒で、どこも怪我しなかったのは、正に奇跡的とも言える幸運でした。
同時に、バイク乗車時の服装、装備がいかに重要かを改めて思った出来事でもありました。

私は通勤にもバイク(GPZ)を使っています(夏季だけですが)。
そのとき、私はここまでの装備はしていません。
また、Gパンに登山靴でツーリングに行くことも多くあります。
その時はGパンの下に膝と脛のプロテクターをつけていますが、革パンまでの防護性はありません。

安全装備はバランス感覚を磨いて、自分でその都度判断しなくてはなりません。
正解はなく、自分の意識、技量、覚悟で装備は選択すべきです。(法定のヘルメットなどは除いて)

ただ、覚えておかねばならないのは、いくら完全防護したつもりでも、時速100キロで対向車と衝突したら死にますし、転倒して車に轢かれたら、やはり死ぬ確率が高い。防護は万一の時に少し危険を軽減してくれるものであって、身を守るのはやはりライダーの安全意識だということです。

プロテクターを着けているから飛ばしても大丈夫ということは、全くない。特に公道ではその感覚はナンセンスです。
ただ、万一の時、その装備が命を分けたり、乗って帰れるか、一生車椅子になるかを分けたり、腕が1本もげるか、もげないかを分けること<も>ある、ということです。

その認識をしっかり持った上で、どこまで装備するかは各自が自分の責任で決めることでしょう。
私自身は決してしませんが、夏の短時間、短距離なら、本人がしっかり自覚しているのならば、短パン、Tシャツで走るのも「あり」だと思っています。万一の時の覚悟があるならば。

もし、「絶対に」事故に遭いたくなく、その保証が欲しいのなら、バイクに乗らないしかありません。
バイクに乗る以上、バイクで死ぬ可能性も、バイクで人を殺してしまう可能性も否定できません。

それでも走る事を選び、そのことに生きる喜びを見出すライダーは、決しておごってはならないのだと、私は思います。
しかし、そのリスク(危険)と覚悟と引き換えに、ライダーは地上1メートルの滑空の自由を、手にしたのです。これは、他のどんなものでも得られない、バイクだけの感覚です。

私たちがライディングで楽しむのはリスクそのものではありません。
それと引き換えに手にした自由の方です。
だから、リスクをもてあそぶような未熟な走りは、いくら速くても「ライダー」に値しない行為だと思います。

さて、転倒の仕方についてお話ししている間にずいぶん脱線してしまいましたが、
安全であるために、危険について考える。そして、危険を賢く回避していく。
そういう方法論も大切だと思いました。
今日も長々とした記事になってしまいました。
最後までお読みくださってありがとうございました。

◇◆注意!◆◇***********************************
このブログのライテク記事はすべて、管理人(樹生和人)が、自分のバイクの経験や、先達の教えなどを、本、雑誌などで読み、学び、また仲間と討議し、考えてきたものです。
所詮は素人であり、バイクに関して個人的な考えを述べているに過ぎません。
このブログの記事の正しさは保証されていません。ご注意下さい。
特に、この転倒シリーズは、間違った考えを身につけると、かえって危険になる場合があり、場合によっては、怪我の程度がひどくなったり、さらに深刻な事態に陥ったりすることも無いとは言い切れません。
当ブログは、このブログを読んだ方の実際のライディングで起こったあらゆる事態について、一切責任を負えません。
決して本ブログを鵜呑みにせず、必ずご自分で調べ、考え、判断し、ご自分でベストの方法を選び、実践してください。
あくまで自分の責任で、自分を人とを守るべく、最大限の努力をする。
それがライダーだと、私は考えています。
なお、明らかな間違いがある場合には、ぜひご指摘ください。よろしくお願いいたします。
                                                     (樹生和人)

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (まーしー)
2010-02-01 21:17:30
リスクをリスクとして認識して、しっかりと受けいれることは、大事なことですね。
私は、頭でわかっていても、なかなか身体がついていきません。
自由の裏側にあるもの、自由にだけ目を奪われないよう、
忘れずに胸にとめておきます。

 
 
 
大人 (樹生和人)
2010-02-01 23:21:34
まーしーさん、こんにちは。
バイクってやっぱり大人の遊びだと思います。
リスクをきちんと理解して楽しまなければならないからです。
でも、大人でいることって、大人にとってもなかなか難しいことですね。
バイクを通して、楽しみながら、少しでも本当の「大人」に近づけたらいいなと思います。

 
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