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聖地巡礼-バイクライディングin北海道-
車体ホールド 直線③上半身とグリップ
(ヴァレンティーノ・ロッシ選手の直線フォーム。出典はMOTOGPオフィシャルサイト。写真はここです。)
車体のホールド、今日は上半身のホールドについてですが、
バイクに乗るときは下半身で体をホールドし、上半身は下半身で支えて完全にフリーにしておく…、というのが鉄則なのは、昨日お話したとおりです。
上半身をしなやかに突き上げや揺れをかわして頭の位置をガクガク動かないようにする…。これは全てのスポーツに通ずる動きの基本ですね。
もう一度おさらいしておきましょう。
ライダーの荷重は下半身で支えて、上半身をフリーに。
バイクのホールドは、靴底、くるぶし、ひざ、内腿、そしてシートと、バイクに接している全てで行いますが、この下半身のホールド、横から見ると三角形になっています。この左右対になった三角形で体をホールドします。
したがってどこか一箇所だけにその役割を担わせて後は遊んでいるのではなく、この三角形の全てを使って全体で体を保持するのが一番効率のいいホールドです。
この三角形ががっちりしているからこそ、上半身が揺さぶられても、前後左右に動いても、体全体をしっかりホールドできるのだということは、図からもイメージできるのではないかと思います。
さて、この下半身の上に乗っている上半身の保持ですが、図のように、背筋と腹筋で支えるのが原則です。
せっかく手につかむところがあるのですが、このハンドルにがちっとつかまってしまうと、なぜか膝がゆるみ、下半身のホールドが甘くなってしまいます。
また、がっちりグリップを摑むと肩までがちがちに力が入ってしまい、上体のしなやかさが失われて固い重りのようになってしまいます。
そうすると、車体のゆれをしなることで逃がすことができなくなり、ガクガクと上体もゆれ、危険なだけでなく、疲労も呼び込み、長時間のライディングではかえってつらくなってきます。
肩を下げ、腕を張らないようにし、いかに力まずに、上半身の力を入れずに乗るか、それが上半身の保持のテーマです。
そのために、グリップをどう持つか、これを考えてみましょう。
ハンドル、グリップは、先も述べたように力を入れないで持ちたい。
しかし、あらゆる場合に絶対に力を入れないわけではありません。
レバー操作の際には、腕をフリーにしたままで指だけでレバーを引く操作をしなくてはなりませんし、ハンドルが急に振られた時には人間ステアリングダンパーとして触れを押さえこまなければなりません。
しかも、ハンドルの触れでハンドルから手が振り払われるような握り方ではいけません。
穴ぼこだらけのダートをある程度のスピードで走ると、ハンドルが激しくロックトゥロックで振られることもあります。この、タンクスラッパー(=タンク打ち)とも言われるハンドルの触れは、オンロードでも高速走行時に避けられないギャップを通過したときや、高速ウォブルに見舞われたときなどに襲われることがあり、ハンドルを柔らかく、しかししっかり保持していないと手を振り払われたり、転倒しなくてもその激しい動きで捻挫や手首の骨折にいたる場合もあり、グリップの持ち方は非常に大切なポイントでもあるのです。
そうした「柔らかく強靭な」グリップの持ち方は、これも全てのスポーツや生活場面にも共通したものです。
上の図、何を持っているように見えますか?
指揮棒、極細い釣竿、はたき、打楽器のスティック…。どれでも当てはまりそうですね。
これを少し太くすればバドミントンのラケットの持ち方に、さらに太くすればテニスラケットの持ち方になります。
いずれも力まず、最小限の力で棒を保持し、手の中で遊ばせることもでき、それでいていざというとき間髪入れずにキュッと握り締めることができる、そういうグリップです。
この持ち方が一番手首や肩にも力がかからず、しかも手首を一番自由に使うことができ、指の力の入力、脱力も瞬時にできる、最も効率のよい持ち方なのです。
ポイントは二つ。小指で持つ、ということと、手のひらに対し、棒を斜めに持つ、ということです。
宮本武蔵は『五輪書』の中で、刀の持ち方について、以下のように書いています。
やってみればわかりますが、親指と人差し指でがっちり握ろうとすると、肩に力が入り、かつ、手首と握る棒の角度を固定してしまうため、柔軟な動きができません。
そのくせ、この握り方は棒を揺すられると、小指側で握った時に比べてぐらぐらと揺すられやすいのです。
グリップは小指側で握り、そのグリップが手のひらを斜めに横切るように持つ。
これは全てのグリップを使う道具・スポーツの基本なのです。
バイクのグリップも同じように、手のひらに対してグリップが斜めになるようにして小指側から握る、というのが、柔らかく、無駄な力をこめず、しかも肝心なときにはギュッと握れる、基本の握り方です。
このとき、グリップを指先でつまむようにしたり、手のひらとグリップの間に隙間を開けたりする握り方はあまりよくありません。
力を入れずとも手のひら全体がグリップをくるむように密着し、かつ小指、薬指でホールドできて人差し指親指には余裕がある、そんな風に握れる角度、場所が必ずあります。
どこに力を入れるでもなく、体重もかけず、やさしく包み込んでいる感じ。
私がバイクに乗り始めたときは先輩に「ひよこを握ってるつもりで優しく握れ」といわれました。
この握り方をすると、普通の位置のハンドルバーの場合、上の図の右側のような握り方になっているはずです。
これが、「ドアノブを握るように握れ」とか、「外側から握れ」と言われる握り方の意味です。
この握り方には副産物が二つあって、一つは、ハンドルをフルロックしたとき、内側のグリップを持ち替えなくても、自然にホールドできるようになること、もう一つは、この握り方は図の左の握り方に比べ手首がフリーなので、アクセルを回すときに持ち替えなくても全閉から全開まで回せることです。
バイクの手の操作、特に右手はスロットルをひねる動作と、Fブレーキのレバー操作という、非常にデリケートな操作を受け持っていますから、筋肉が固まってしまうようなわしづかみのグリップはご法度。
やさしく包みこむように持って、繊細な操作をスマートに。
それがグリップの要です。
このグリップの持ち方が決まれば、上半身の姿勢はおのずと決まってきます。
手首に無理な角度をつけず、肘を張って肩が上がって力まないように意識して肩を落として脱力し、上半身の質量がなくなったかのようにふわっと保持する。
上半身を保持する背筋と腹筋も局所的に力まないように、全体的に保持するようにします。
さあ、ここで冒頭のロッシ選手のフォームをもう一度見てみましょう。
ロッシの右手、ハンドルバーはロッシの手袋のカーボンプロテクターが示す指の付け根の線に対して斜めに横切っているのがわかるでしょうか。
コーナーの立ち上がり、アウト一杯にはらみながらも、マシンはまだかすかにバンクして向きを変えつつ脱出加速に移っています。
大きな加速度のため、フロントが浮きあがっていますがここでアクセルを戻してしまうと大事な加速が失われ、直線の速さに大差ができてしまいます。
ロッシの右手はこれ以上フロントを持ち上げず、しかし最大限の加速ができるよう、ミリ単位のデリケートなアクセル操作をしています。
肘が曲がっていますが、腕で上体を引寄せているのではありません。そんなことをしながら上述のデリケートな操作は不可能です。
ロッシの強靭な下半身の作る三角形に注目してください。ぴったりとマシンに添えられた下肢全体で体をホールドし、加速度のGに煽られず、かついたずらにリヤの荷重が抜けないように、上体を前傾させてバランスさせつつ、極力腕から余計な力を抜いています。
肩から腕にかけて、全く無駄な力がはいっていないことを確認してください。
レースでは暴れまくるマシンを腕力で押さえ込むような荒業も頻繁に行いながらタイムを削っていきます。だからこそ、余計なところ、余計な時に力を入れているようでは、とても走りきれるものではありません。
ヴァレンティーノ・ロッシ。卓越した技術と鍛え抜かれた強靭な肉体。
そしてどんなときでも自分とマシンのベストを引き出す超人的な精神力。
それら全てが一体となり、彫刻的な美しささえ醸し出している、迫力のショットです。
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車体のホールド、今日は上半身のホールドについてですが、
バイクに乗るときは下半身で体をホールドし、上半身は下半身で支えて完全にフリーにしておく…、というのが鉄則なのは、昨日お話したとおりです。
上半身をしなやかに突き上げや揺れをかわして頭の位置をガクガク動かないようにする…。これは全てのスポーツに通ずる動きの基本ですね。
もう一度おさらいしておきましょう。
ライダーの荷重は下半身で支えて、上半身をフリーに。
バイクのホールドは、靴底、くるぶし、ひざ、内腿、そしてシートと、バイクに接している全てで行いますが、この下半身のホールド、横から見ると三角形になっています。この左右対になった三角形で体をホールドします。
したがってどこか一箇所だけにその役割を担わせて後は遊んでいるのではなく、この三角形の全てを使って全体で体を保持するのが一番効率のいいホールドです。
この三角形ががっちりしているからこそ、上半身が揺さぶられても、前後左右に動いても、体全体をしっかりホールドできるのだということは、図からもイメージできるのではないかと思います。
さて、この下半身の上に乗っている上半身の保持ですが、図のように、背筋と腹筋で支えるのが原則です。
せっかく手につかむところがあるのですが、このハンドルにがちっとつかまってしまうと、なぜか膝がゆるみ、下半身のホールドが甘くなってしまいます。
また、がっちりグリップを摑むと肩までがちがちに力が入ってしまい、上体のしなやかさが失われて固い重りのようになってしまいます。
そうすると、車体のゆれをしなることで逃がすことができなくなり、ガクガクと上体もゆれ、危険なだけでなく、疲労も呼び込み、長時間のライディングではかえってつらくなってきます。
肩を下げ、腕を張らないようにし、いかに力まずに、上半身の力を入れずに乗るか、それが上半身の保持のテーマです。
そのために、グリップをどう持つか、これを考えてみましょう。
ハンドル、グリップは、先も述べたように力を入れないで持ちたい。
しかし、あらゆる場合に絶対に力を入れないわけではありません。
レバー操作の際には、腕をフリーにしたままで指だけでレバーを引く操作をしなくてはなりませんし、ハンドルが急に振られた時には人間ステアリングダンパーとして触れを押さえこまなければなりません。
しかも、ハンドルの触れでハンドルから手が振り払われるような握り方ではいけません。
穴ぼこだらけのダートをある程度のスピードで走ると、ハンドルが激しくロックトゥロックで振られることもあります。この、タンクスラッパー(=タンク打ち)とも言われるハンドルの触れは、オンロードでも高速走行時に避けられないギャップを通過したときや、高速ウォブルに見舞われたときなどに襲われることがあり、ハンドルを柔らかく、しかししっかり保持していないと手を振り払われたり、転倒しなくてもその激しい動きで捻挫や手首の骨折にいたる場合もあり、グリップの持ち方は非常に大切なポイントでもあるのです。
そうした「柔らかく強靭な」グリップの持ち方は、これも全てのスポーツや生活場面にも共通したものです。
上の図、何を持っているように見えますか?
指揮棒、極細い釣竿、はたき、打楽器のスティック…。どれでも当てはまりそうですね。
これを少し太くすればバドミントンのラケットの持ち方に、さらに太くすればテニスラケットの持ち方になります。
いずれも力まず、最小限の力で棒を保持し、手の中で遊ばせることもでき、それでいていざというとき間髪入れずにキュッと握り締めることができる、そういうグリップです。
この持ち方が一番手首や肩にも力がかからず、しかも手首を一番自由に使うことができ、指の力の入力、脱力も瞬時にできる、最も効率のよい持ち方なのです。
ポイントは二つ。小指で持つ、ということと、手のひらに対し、棒を斜めに持つ、ということです。
宮本武蔵は『五輪書』の中で、刀の持ち方について、以下のように書いています。
太刀のとりやうは、大指ひとさしを浮ける心にもち、たけ高指しめずゆるまず、くすしゆび・小指をしむる心にして持つ也。手の内にはくつろぎのある事悪しし。親指と人差し指をフリーにし、小指と薬指で持ち、手のひらに遊びを作るな、というのが武蔵のいう刀の持ち方です。
(太刀の持ち方は、親指と人差し指を少し浮かせるような感じで持ち、中指は握り締めず、かといって緩めず、薬指・小指を締めるような気持ちで持つのである。手のひらのなかに緩みがあるのは悪いことだ。)
*岩波文庫版『五輪書』宮本武蔵著 現代語訳は樹生による
やってみればわかりますが、親指と人差し指でがっちり握ろうとすると、肩に力が入り、かつ、手首と握る棒の角度を固定してしまうため、柔軟な動きができません。
そのくせ、この握り方は棒を揺すられると、小指側で握った時に比べてぐらぐらと揺すられやすいのです。
グリップは小指側で握り、そのグリップが手のひらを斜めに横切るように持つ。
これは全てのグリップを使う道具・スポーツの基本なのです。
バイクのグリップも同じように、手のひらに対してグリップが斜めになるようにして小指側から握る、というのが、柔らかく、無駄な力をこめず、しかも肝心なときにはギュッと握れる、基本の握り方です。
このとき、グリップを指先でつまむようにしたり、手のひらとグリップの間に隙間を開けたりする握り方はあまりよくありません。
力を入れずとも手のひら全体がグリップをくるむように密着し、かつ小指、薬指でホールドできて人差し指親指には余裕がある、そんな風に握れる角度、場所が必ずあります。
どこに力を入れるでもなく、体重もかけず、やさしく包み込んでいる感じ。
私がバイクに乗り始めたときは先輩に「ひよこを握ってるつもりで優しく握れ」といわれました。
この握り方をすると、普通の位置のハンドルバーの場合、上の図の右側のような握り方になっているはずです。
これが、「ドアノブを握るように握れ」とか、「外側から握れ」と言われる握り方の意味です。
この握り方には副産物が二つあって、一つは、ハンドルをフルロックしたとき、内側のグリップを持ち替えなくても、自然にホールドできるようになること、もう一つは、この握り方は図の左の握り方に比べ手首がフリーなので、アクセルを回すときに持ち替えなくても全閉から全開まで回せることです。
バイクの手の操作、特に右手はスロットルをひねる動作と、Fブレーキのレバー操作という、非常にデリケートな操作を受け持っていますから、筋肉が固まってしまうようなわしづかみのグリップはご法度。
やさしく包みこむように持って、繊細な操作をスマートに。
それがグリップの要です。
このグリップの持ち方が決まれば、上半身の姿勢はおのずと決まってきます。
手首に無理な角度をつけず、肘を張って肩が上がって力まないように意識して肩を落として脱力し、上半身の質量がなくなったかのようにふわっと保持する。
上半身を保持する背筋と腹筋も局所的に力まないように、全体的に保持するようにします。
さあ、ここで冒頭のロッシ選手のフォームをもう一度見てみましょう。
ロッシの右手、ハンドルバーはロッシの手袋のカーボンプロテクターが示す指の付け根の線に対して斜めに横切っているのがわかるでしょうか。
コーナーの立ち上がり、アウト一杯にはらみながらも、マシンはまだかすかにバンクして向きを変えつつ脱出加速に移っています。
大きな加速度のため、フロントが浮きあがっていますがここでアクセルを戻してしまうと大事な加速が失われ、直線の速さに大差ができてしまいます。
ロッシの右手はこれ以上フロントを持ち上げず、しかし最大限の加速ができるよう、ミリ単位のデリケートなアクセル操作をしています。
肘が曲がっていますが、腕で上体を引寄せているのではありません。そんなことをしながら上述のデリケートな操作は不可能です。
ロッシの強靭な下半身の作る三角形に注目してください。ぴったりとマシンに添えられた下肢全体で体をホールドし、加速度のGに煽られず、かついたずらにリヤの荷重が抜けないように、上体を前傾させてバランスさせつつ、極力腕から余計な力を抜いています。
肩から腕にかけて、全く無駄な力がはいっていないことを確認してください。
レースでは暴れまくるマシンを腕力で押さえ込むような荒業も頻繁に行いながらタイムを削っていきます。だからこそ、余計なところ、余計な時に力を入れているようでは、とても走りきれるものではありません。
ヴァレンティーノ・ロッシ。卓越した技術と鍛え抜かれた強靭な肉体。
そしてどんなときでも自分とマシンのベストを引き出す超人的な精神力。
それら全てが一体となり、彫刻的な美しささえ醸し出している、迫力のショットです。
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コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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ロッシさん、凄すぎますよ。
今は、ヤマハなんですよね。
前は、ホンダだったっけ?
カタチをまねするのは簡単なんですが、
その本質を見抜く樹生さんの観察力は鋭いですね。
いつも、樹生さんの記事に脱帽です。
でも、こちのブログを拝見して、上手になりたいと、思い続けば
きっと上手になれそうな気になります。
GPライダーたちのフィジカルトレーニングは半端ではありません。長身のロッシ選手の場合、軽量なライバルたちと戦うために体を絞りつつ筋トレをしてきていて、しかも最大出力だけでなく筋持久力の勝負でもあるので、ボクサーのような鍛え方です。
そうとう苦しいのではと思いますが、いつもひょうきんです。
バイクライドは極めれば芸術域に達すると思います。
また、命がかかっている中での行為ですので、武道に通ずるものも感じています。
最近和歌山氏も古武術の動きを取り入れた「常歩(なみあし)ライディング」を提唱していますしね。
古武術の研究が介護や日常の階段の上り下りなどにも役立つように、GPZライダーの走りの観察が、何でもない街乗りやツーリングに回りまわって役に立つ。
そんなこともあろうかと、ミーハーな気持ちに言い訳しつつ、ライテクを考えるオタクな私です。