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「あれっ、曲がらない」(1)原因

(走っているバイクは、前輪、後輪、エンジンクランクの3つの回転重量物(マス)が強大なジャイロ効果となって安定性を与えている。)

前回お話した、いつもは曲がれているのに、急に曲がらなく感じたり、倒し込みが重く感じたりする…。その症状は、たいていの場合、やや速めに流しているときに現れます。

バイクは、ある程度のスピードが出ると、自転車とは比較にならないくらい、安定性が高まり、安心して高速で走れるようになります。

進行方向への直進の慣性が付くだけでなく、車体を安定させるさまざまな作用が働くからです。
まず、前後のホイール。タイヤ、ブレーキディスク、ホイール込みの重量物が、速度が高くなるほどに回転を速めていきます。
独楽(コマ)が回転するとしっかり立つように、高速に回転するものはその軸をまっすぐに保持しようとする力が働きます。
その力は、重く、そして速いほど、大きくなります。(少々乱暴な言い方ですが、大まかにはそうです。)
ホイール以外にもうひとつ、もっと高速に回転するものがあります。
エンジンのクランクです。
特に大排気量のマルチエンジンのクランクは重く、長く、高速で回転するので、車体をどしっと安定させる力が大きく、バイクが走行しながら左右にバンクしていくときの動的なロール軸は、後輪の接地点と、エンジンのクランク軸とを結ぶ線上にほぼ近い形で現れるのです。
むろん、ギヤボックスもクランク同様高速回転しており、それらの生み出すジャイロ効果も無視できない大きさです。

このように、前後ホイール、そしてエンジンの3つの回転体の生み出すジャイロ効果が、走行中のバイクを安定させ、ライダーは不安なくバイクに体を預けられるようになっています。

この安定させる力、ジャイロ効果は、バイクが高速になるほど大きくなり、低速になるほど小さくなります。

コーナリングで平気で膝スリする人が、Uターンで車体を大きく倒すことに自信がもてないのは、この安定成分が非常に小さくなるからです。
極低速、微速域では、ライダーがバイクのバランスを「保つ」仕事をしなければならないのでした。

速度がある程度乗ってくると、バランスを保つ仕事はバイクもかなり受け持ってくれるようになります。
時速60㎞から100㎞くらいまでは、原付などを除いてたいていどんなバイクでも安定感が強まり、バイク任せにクルージングやコーナリングできるようにできています。

この安定成分は、直進時には直進し続けるように、傾いた状態では、基本的にはそのまま円を描き続けるように働きます。

この速度域でのライダーの仕事は、バランスを「保つ」ことの他に、直進時から旋回に入るときや、旋回中に回転半径を変えたいとき、右旋回から左旋回に切り替えるときなどは、今ある安定したバランスをいったん「崩す」ことも必要になります。
一般的に言って極低速時以外のバイクライディングはこのバランス状態を保ったり、一度崩して別のバランス状態に移行させることで、バイクの運動性を引き出していると言っても、あながち間違いではないでしょう。

このバランス移行、ワインディングを攻めているときは、かなり意識して、方法論的に行っていることが多いです。そうと意識していなくても、早く走るためのメリハリのある操作は、ブレーキング、倒し込み、旋回、立ち上がり、脱出加速と、バランスを速く大きく強く移行させながら、バイクを走らせています。
ワインディングでのライテクは、ほぼ、このメリハリを利かせたスポーツライディングのノウハウを述べています。
気合を入れてコーナリングしているとき、はっきりメリハリをつけて運転しているときには、「あれ?曲がらない」という事態は、実はあまり起きにくいのです。

では、街中、交差点の右左折や、市街地での車線変更などはどうか。
この速度域では、安定成分は働いていてふらつくことも少なく、かといって速度域がそんなに高くないので、安定成分がバイクの挙動を頑固に感じさせてしまうほど大きくなることもありません。
日常的に、ある程度バイクの慣性に身をゆだねつつ、交差点や車線変更をこなしていきます。急にバイクが重く感じるということはあまり起きません。

そう。郊外の空いた快走ワインデングを、激しく攻めるでもなく、かといってゆるゆると走るでもなく、やや速めに流しているような速度域、そして走り方が、何かの拍子に突然バイクが重く感じたり、傾けてるのに曲がらないと感じたりすることが最も起こりやすい状態なのです。



そうした郊外の快走路を、快適に、速いペースで流しているとき、ライダーは操作にそれほど注意を払っていません。
しかし、道の先を見通しながら、道に沿って自分の進むべき進路をイメージすることで、意識せずともそんなに力むことなくバイクをバンクさせ、それに応じてアクセルも操作して、割と浅いバンク角から30度くらいのバンク角くらいまで、平和に走っていけます。
道がカーブすれば自然とバンクしてコーナリングし、カーブが終わるとアクセルをやや開けつつ、自然にバイクも起き上がってコーナーを立ち上がっていく…。
走っているバイクの持つジャイロ効果、安定性に身を委ねつつ、無理なく穏やかにバイクを操作しての、快適な走りです。

ところが、今まで同じような曲率で緩やかに続いていた浅いカーブの連続が、急にややきつめの回り込んだカーブになった。しかも、そのカーブの入り口は、今までの緩いカーブと見た目はそんなに変わらない…。
こんな状況に差し掛かったら、どうなるでしょうか。
同じようなリズムで、また同じようにカーブを抜けられるだろうと思ってバイクを倒しこもうとしたら、視線の先、目に入ったのは、今までよりも少し曲率がきつく、しかも回り込んでいてどこまで続くか分からないカーブ。
このとき、さまざまな曲率に合わせてコーナーを一つひとつ攻めてきたライダーなら、そのままキュッとブレーキングを強めてコーナーの奥まで直線的に進み、その間に減速しておいて、奥からメリハリの効いた倒し込みで回転半径の小さな旋回に移行し、特に胆を冷やすこともなく通過します。
しかし、今までやや速めの、同じような速度で流してきたライダーは、瞬間的に今までのリズムを打ち切ってこのコーナーのためのリズムに乗ることができず、今までの速度、リズムのまま、意識的にバンク角を深くして回転半径を小さくし、旋回しようとします。
このとき、すでにアクセルが開いて、または閉じていたとしてもアクセルオフのままコーナーに入ってしまっていたバイクは、その速度相応の安定さを発揮し、ライダーの入力に素直に反応しないかのように感じられるのです。

前回の記事のコメントでいただいた場面。
1台の車を追い越そうと、加速して追い越し、元の車線に戻ろうとしたとき、バイクが急に重く感じるのも、実は似た現象です。
追い越しに向けてアクセルを開けると同時に右に車体を傾け、右車線に出ながら加速して行きます。
このとき、バイクはもともとの走行速度分の慣性が働いているだけで且つ、定速巡航からアクセルを開けると同時のバンク動作ですと、今までの走行バランスが崩れるのと同調してバンクの入力がされるので、ことさら軽く、バイクは右に曲がっていきます。
そのまま右車線を加速しながら車の横を通過。元の車線に戻ろうと左にバンクさせようとしたその時、突然バイクは重くなり、進路変更が難しくなったように感じるのです。

その原因はまず、速度の違いです。追い越しを開始したときと、加速し続けてもとの車線に戻ろうとしたときとでは、速度はかなり違っているのが大概です。
40㎞/hと60㎞/hでもバイクの重さは大分違いますし、60㎞/hと80㎞/hでは、同じ20㎞/h差でも、感じるバイクの重さの増加は段違いに大きく感じます。
それだけの慣性がついてしまった物を進路変更するには、追い越し開始時より大きな力が要るのですが、ライダーは、追い越しを一連の右バンク、左バンクで元に戻る…とイメージしてしまうため、思いの外の重さにあわててしまうのです。
あわてると、バイクに対する入力が効率のよいものでなくなり、ますます重く感じることになります。

もうひとつは、その時出ている速度だけではなくて、「加速し続けている」という同じ状態のまま、切り返してバンクさせようとするので、バイクが重くなるということです。

以前にもお話しましたが、バイクは加速状態にあるとき、非常に安定しています。
ヘヤピンカーブなどで、コーナー前半、心許ない旋回が続いても、余裕をもってコーナー立ち上がりを迎え、アクセルを大きめに開けてトラクション旋回していくときは、たとえバンク角が深くとも、非常に安定して、安心できる状態になっていることは、ご経験のある方も多いと思います。

アクセルが開けられ、後輪荷重が増え、アンチスクワットが適正に働いて踏ん張り感が感じられる時というのは、バイクが直進しているならばそのまま直進しようとして、バンクして旋回しているならそのままの旋回状態を保とうとして、バイクが最も安定して自信を与えてくれる状態になっています。
そのときに、安全のため、早く自分の車線に戻ろうと、加速を続けたままでバイクを左にバンクさせ、進路変更をしようとすると、ライダーは普段のバイクのバンキングのときとは比較にならないような重さを感じることになります。

これが、バイクが突然重くなる、「あれ、曲がらない!」と感じる原因の主なものです。

S字の切り返しで、今までは軽く来てたのに、あるとき急に重く感じるのも、同じペース、リズムでアクセルを開いたままで立ち上がり、切り返そうとして、実は自分が思っていたより速度が上がっていたり、次のS字が今までのよりきついとわかって、急に切り返そうとしたりして、自分のイメージと今、この瞬間の実際の慣性の大きさとがずれてしまったときに起こる現象です。



さて、前回記事で上げたシチュエーション、
「ハードブレーキングもなしで、アクセルを開けたまま、やや速いペースで右へ左へ。丘を越え、ゆるい上りから下り坂へ。左コーナーを立ち上がって次は右、切り返して…、と思ったら…」

これは、実際の慣性とライダーの感じる慣性とのずれが非常におきやすい状況だとおわかりいただけると思います。
やや緩い上りは、アクセルONで、気持ちよく走れ、しかも速度も上がりすぎず、トラクション旋回を気持ちよく味わえる一番いい状況です。それに慣れたまま、丘を過ぎ、緩い下りに入ると、意識はしたつもりでも、今までの快走のイメージが残り、実はペースは少し速めになっています。
また、緊張感のない走りは、いつの間にか、ハンドルで上体を支えるような、ちょっとした荷重をしてしまいがちです。(意外なことに、ネイキッドモデルでもそれは起きます。)下り坂で前下がりになっていればなおさらです。
その意識していないほどの腕の突っ張りが、バイクのセルフステアのレスポンスを妨げ、バンクしてもハンドルが切れないまま、前輪の負担がただ増したような嫌な感じのままずるずると旋回半径を大きくしていく感覚にライダーを導いてしまうのです。
まして下りの加速しながらのS字の切り返し…とくれば、難しい状況がかなり揃ってしまったようなものです。

もし、これが全力で攻めていたら、緊張感から状況把握に甘さは入り込まないでしょう。
もし、これが急坂や、きついヘヤピンだったら、ライダーは警戒し、今までのリズムをいったん切って、走りを組み立て直すでしょう。

この快適な、快走ロードのなかの、ほんの少しずつのネガな条件の重なり…。
これこそが、「あれ!曲がらない!」を誘発し、場合によっては路外への飛び出しや転倒につながってしまうこともある、危険な落とし穴だったのです。

対策編は次回に。

(「ライテク記事 インデックスⅡ」へ。
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明快ですね (ゴロ)
2009-01-27 21:39:53
こんばんは
今回は力作ですね。とてもわかりやすく、また目から鱗のことが多かったです。

XT250Tではコーナリングでは感じなかったのに、GPZで感じることがあります。

GPZはギアを落として回転を上げるとコーナリングが安定します。
一方XTの場合は、車重に比べてトルクが強いこともありオンロードでトラクションを必要以上に上げげるのはデメリットの方が多かったと思います。

これも今回の説明で納得です。
 
 
 
Unknown (義太夫)
2009-01-27 22:51:04
すごく内容が良く分かりました(笑)
これだけ細かく説明出来るなんて流石ですね!
対策編も期待します!


ちょっと話がずれてしまい、質問になってしまいますが、
「ジャイロ効果」は、高速で回転するものはその軸を真っ直ぐに保持しようとする力が働く。

これを読んで思ったのですが、
・オンロードでコーナー中に後輪が不意にテールスライドしてしまった時はアクセルを戻さず、逆に開けてないと転んでしまう!
・オフロードでコーナー中に後輪を空転させテールスライドしている時は、アクセルをガンガン開けなきゃいけない!
と教わったのですが、これもジャイロ効果を狙った物なんでしょうか?


 
 
 
シングルとマルチは。 (樹生和人)
2009-01-28 20:08:17
ゴロさん、こんにちは。
もうひとつ振動の問題もあるかもしれません。
マルチエンジンは回転を上げていっても大きな振動は少なく、いきなり全開になたりしなければ滑らかで力強いパワーの出方である程度までなら安定感が増します。
一方シングルは、回転を上げると振動が収斂する場合もありますが、XTやそのエンジンを元に作られたSRは振動が増えてきますので、扱いが難しく、それに対して力んでしまうと、とたんに頑固なパワーアンダーに感じたりして、なかなか手ごわいですね。
シングルがスパルタンと言われるのは、実は気持ちよく曲がれる回転域が本気で攻めだすと意外と狭いという事情からも言えると思います。

ここらへんはそれぞれのライディング中に感じる感覚の問題ですので、客観的にすべてをカバーした表現はかなり難しいですね。

今回の私の記事が少しでもお役に立てるならば幸いです。
 
 
 
テールスライドの時は…(^^;) (樹生和人)
2009-01-28 20:48:29
義太夫さん、こんにちは。
御質問の場合は、ジャイロ効果による安定成分の増加というより、遠心力とスライドによるリヤのアウト側に流れていくモーメント(慣性力)とのバランスコントロールの話だと思います。

オンロードで滑ったとき…の件は、これも場合によりますが、パワースライドしたときに急に全閉すると、滑った状態からとたんにグリップが回復、で、いきなり滑ったことにより外側に流れる慣性が着いた車体は、グリップしたタイヤの接地点を支点として、そのまま反対側に跳ね飛ばされる…、いわゆる「ハイサイド」を食らってしまう可能性が高いです。
しかし、そのまま強引に開け続けても、バランスを上手く取れないとスリップダウンの可能性もあります。
正解は、意図的なスライドでないなら、ハイサイドを起こさないよう慎重に少しだけアクセルを戻しつつ、ハンドルを押さえ込まないようにして旋回していく…というところでしょうか。
実際には反射的にぴくっとアクセルは少し戻してしまい、体もスライドに追随して、ブルっと震えながらもグリップ旋回に復帰することが多いのではないかと思います。
これも、小さな安定したスライドなら、そのまま荷重を適切にかけつつ、スライドした分だけリヤエンドがアウト側に流れるのに下半身で追随しつつ、アクセルを開け続ける…でしょう。バイクはリヤエンドを緩やかに外に流しながら加速しながら立ち上げって行き、路面にはきれいな弧を描くブラックマークが残ります。
しかし、これは、高等テクニックで、誰にでもできるわけではありません。(私は今できません)

オフロードの場合は、ダートラ、モトクロスとも、すでにリヤタイヤの軌跡がフロントタイヤよりも外側に来てカウンターステアの状態になっていますので(ステアとしてはオーバーステアですね)、4輪でのドリフトと同様、ここでアクセルを戻してリヤがグリップすると、とっ散らかってしまいます。空転させながらのリヤの大きなスリップアングルとトラクション(むろん、空転しててもトラクションはありますから)で旋回していくのですから、アクセルの開け方で曲がり方やスピードの微調整をしていくことになります。
これもジャイロ効果は無視できませんが、むしろ、ドリフト旋回のコントロール上の問題と言った方が実際的だと思います。

なんつって、どっちも私にはあまり縁がないほうですので、詳しい人から見たら、ちゃんちゃらおかしいかもしれませんけれど…(^^;)
 
 
 
有り難う御座います (義太夫)
2009-01-28 21:44:36
この様な質問にきちんとした回答を頂き、有り難う御座います。
この場合はバイクコントロール(バランス)の問題なんですね。

オンロードでリアが軽く滑った!なら何度もありますが、意図的にリアを滑らせブラックマークを路面に付けて走る事は私には到底出来ません(笑)

オフロードでの場合、初め怖くてシェルパでは出来なかったテールスライドが、レーサーのKX85Ⅱを借りた時には簡単に出来ました。
その感覚を覚えてシェルパでも同じように(似たように?)出来るようになりました。
レーサーは元々バランスがいいですから、やっぱり体験して体が覚えるとシェルパのようなトレッキングバイクでもコントロールし易いんですね。
もちろんリスクの少ないクローズドコースでしかやりませんが・・・(笑)

 
 
 
実は自信が…。 (樹生和人)
2009-01-28 23:51:50
義太夫さん、こんにちは。
え~、もっとも、私はそう思う…ということでして、客観的に正しい保証はありません。(急に自信なさげですみません。)

加速時、減速時、スライドを自在にコントロールできたなら、ライディングの世界はすごく広がるだろうなぁ…、と思うのですが、全然できそうもない私でした。
きれいなブラックマークを残しての安定したコーナーからの脱出…。憧れますが、なかなか…。
 
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