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爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
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メカニズム(13)

2016年08月13日 | メカニズム
メカニズム(13)

 二話が終わる。我が子に夕飯を用意する母の気持ちを理解する。麻婆豆腐ばかりが料理ではない。

 ゴーヤー・チャンプルー。ホウレン草のお浸し。手を替え、品を替えである。だが、昨夜は彼女の帰宅前に寝てしまっていた。彼女は冷蔵庫から食料を出して、食べてから眠った。ノートも開いている。まあまあ、という評価だった。努力が足りない。改善こそが愛だった。ぼくは、きょうのノルマの達成を考える。そして、職探しを疎かにしている。

 ネットでニュースを見る。死ぬ、という事実が最後のニュースになる方々がいる。跡をにごさないという名誉が与えられる。彼の遺産はいくらでした、という露骨な記事もなく、相続は修羅場と化しましたという追跡もない。死は安泰だ。

 死ぬ間際の最後のひとことという題で物語を捻出する。優しい人間の罵詈雑言か、憎まれた奴の最後の感謝か。ドラマティックという秘蔵のナイフをぼくは用意している。これも、うそだ。誰か、下請け業者を見つけたいところだった。

 ちなみに、ぼくの最後のセリフは決まっている。不二子ちゃんは、ルパンのことが好きだったのかしら、だけだ。永遠の謎。謎こそが美なのだ。

 外に出る。宅配業者のひとが汗をかきつつ働いている。それも、ノルマだ。きょうの分は、きょうに終わらす。無数の箱を、無数の四角い造りの家に運ぶ。中には何が入っているのだろう? ぼくに知る権利はない。開く権利もない。ぼくのノートを開く権利がひとみにはある。

 散歩されている犬がいる。自由そうでありながら、首輪につながれている。ぼくもなにかにつながれ、もう片端ではまたどこにも結ばれていない。多少の税金を払うぐらいが、ぼくの任務だった。

 ひとみがメモにのこした食材を仕入れる。おつりをもらう。「まいど」とハスキーな声で背中にあいさつを送られる。ポストにはひとみ宛ての手紙が入っている。これも、ぼくには開く権利がない。世の中が、ぼくに秘密を作ろうとしているとの被害妄想の種を見つけて、勝手に育てようとしている。最後のことばを考えながら横になると、そのまま昼寝につながった。美しい連鎖。

 夕方になる。休みで一日、どこかで過ごしていたひとみが戻ってきてしまう。男の子には言い訳が厳禁だ。ぼくはペンを握り、今夜の一話を書き込んだ。