爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
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作品(2)-5

2006年05月27日 | 作品2
フー・ノウズ フー・ケアーズ

Chapter 5


 優二は、真相を知る。逆に、真相の持つエネルギー自体が、彼を追い抜こうとする。
 彼は、友人に呼び出され、酒を飲んでいる。ウオッカ・ベース。透明な色。
 
 その薄暗い店内にたたずむ2人。お互いの表情も、いくらか読み取れなくしている。
「この前、どうだった? 会ったんだろう」動物園での一件。
「ああ、楽しかったよ」
「いいこだろう? 気さくだし、話しやすいし」
「そうだね。気楽な感じで、いられたよ」

 酒がすすむ。隠れている真実、臆病気味の真実が表に出ようとしている。
 その優二のためを思っていてくれる友人には、本命の恋人がいた。本命ではないのもいたらしい。それが、優二と、この前に会った女性であったのだ。彼女も、その前にすすまない関係を解消したく、優二と会ったのだ。

 優二の表情は、その店内にいる所為で、うまく誤魔化せたかもしれない。目の前で、扉が閉じられる瞬間。彼は、希望を持ち始めていたのだろうか。その店内に聴こえてくれる優しい、マーヴィン・ゲイ。
「また会いたいとか言ってなかった?」
「そんなことも言ってたような」
「なんだ、はっきりしないな」
 問い詰めたいのは、優二だった。こうした感情は、潔癖すぎるのか。みな、普通にやり過ごせるのか? と彼の酔い始めた頭脳は、問答する。
「どうする?」
「彼女に、その気はないんだろう」優二に、なかったのだ。

 外に出ると灰色の雲。黒ずんだ板塀。女性の気持ち。
 優二の電話が鳴った。その当人の女性からだった。
「この前は、楽しかったです」
「ごめん、ぼくの都合に合わせてもらっただけだよね」
「今度の週末、車が空いているので、あの言っていた場所に行きません?」

 彼は、断ってしまった。彼女は、友人の存在を打ち消そうとしているだけなのだ。彼に、興味はないはずなのだ。電話が終わる。また、空虚さが残る。

 彼は、地下鉄に乗り、文庫を開いた。明治時代。そこに自由な選択は、あったのだろうか。迷える気持ち。服の内ポケットに潜んでいる電話。さっきは、悪かった、とあやまろうか。いや、それには遅すぎるような気がする。
 
 家に着き、水を大量に飲む優二。幸福を掴みたくないのは、自分なのだろうか、と自問する。服をたたまずに、適当に脱ぎ捨て、ベッドに横になった。
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