爪の先まで神経細やか

物語の連鎖
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作品(2)-4

2006年05月24日 | 作品2
フー・ノウズ フー・ケアーズ

Chapter 4


 数日、経ってしまった。その分、彼の持ち時間が、ちょっとだけ、何日か分だけ減ってしまった。

 その間も、彼は仕事をしている。というよりこなしているという方が正解かもしれない。
 ある頼まれ仕事。ホームページのキャラクターの原案を、イラストを描くソフトを用いて描いている。こうした、力の入らない仕事に、彼の性分が合っているのかもしれないが、本人はいささかも認めようとしない。需要と供給。

 さらに数日が過ぎ、この前いっしょに飲んだ女性を誘うように、友人から再三、強要される。彼は、仕方なしに電話をかける。この辺が、明確な意思を欠いている結果かもしれない。

 彼は、自分の都合を含め、動物園に行こうとする。スケッチブックを手にして。

 それでも、描きながらでも、会話は出来るもので、彼女の、その明るい社交性にいくらか、自分の暗部に日が当たり、救われる気分がするのを、正直にこころに向き合うと感じてしまう。

 彼女は、通信会社で働いている。年齢は、28歳。妹がいて、その家庭内でのやりとりを聞くと、彼のこころは自然とほころぶ。10代の頃は、ダンスに励んでいる生活を送ったそうだ。
 でも、このデートに乗り気かどうかは、彼には分からない。彼そのものが、女性の本質をつかめない性分なのかもしれない。

 彼は、自分の指で構成した象を見せる。やはり、そのタッチに彼女は、驚きその絵を欲しいと言う。彼は、気軽にきれいに破って、その絵を渡す。その程度ならいつでも性能の良いコピー機のように、複製できる自信があるので。

 日も陰ってきて、彼らは終了の音楽とともに、門に向かう。その暗くなった木陰を歩いているときに、自然に指が触れた。それから手を握った。

 ある店に入る。いくらか賑やかな話し声がする。そして、タバコとアルコールの匂いも混じり合う。

 彼女は、やはり気を使っているのだろう、空白を埋めるように、また家族や妹との話で彼を笑わせてくれる。また、会社内で起こった、さまざまなエピソードも。彼女の唇には、天性の話術の能力があるのかもしれない。彼は、再び笑う。そして、鬱々とした気持ちが溶解するような錯覚に陥るが、それは、やはり錯覚だった。

 すこし酔った足取りで、2人は店をあとにする。

「また、会ってくれますか?」と彼女は、勇気を振り絞った感じの声を吐く。
「いいよ」と彼は、応じた。
 そこで、地下鉄に乗るため、階段をおりる二人。数滴、雨が彼女の肩に、きらりと光ったように見えた。そして、彼女の眼の中にも、それに劣らないきれいな光が宿っている。
コメント
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