竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉 夏目漱石

2018-10-06 | 



叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉 夏目漱石


【蚊】 か
◇「藪蚊」 ◇「縞蚊」 ◇「赤家蚊」(あかいえか) ◇「蚊柱」(かばしら) ◇「昼の蚊」 ◇「蚊の声」
カ科の昆虫の総称。雌はプーンと鳴いて刺し、蝿同様嫌われている。藪蚊、縞蚊、シママダラカ、マラリアを媒介するハマダラカなどがいる。交尾のために一団になって飛んで、柱のようにみえるのを「蚊柱」という。
例句 作者
蚊柱や力抜けたるひとところ 朝倉和江
妻が手を拱いてをる蚊との距離 島田牙城
蚊が鳴いて夜明けの片々たる悲しみ 田沼文雄
蚊を打つて偽念仏を唱へけり 沢木欣一
越後路の蚊と侮りて喰はれけり 篠田悌二郎
白髪殖ゆうすうすと蚊の水に死し 秋元不二男


目高飼ふもう孑孑は蚊になれず たけし
来し方の概ねたいら蚊遣香   たけし


叩かれて昼の蚊を吐く木魚哉 夏目漱石

法要。僧侶が木魚をポンポンと叩いたら、中で昼寝を決め込んでいた蚊が、飛んで出てきた。それがまた、あたかも木魚が自分で吐いたかのように出てきたというのだから、少なくとも数匹はいたのだろう。「いやあ、驚いたのなんの」と、飛んで出た蚊が言ったかどうかは知らないが、落語好きな漱石ならではの軽妙な句だ。実はこの句ができる四年前に、もう一句「木魚」を詠んだ句「こうろげの飛ぶや木魚の声の下」がある。「こうろげ」は虫の蟋蟀(こおろぎ)。先の蚊の句は、おそらくこの句が下敷きになっていると思われるが、「こうろげ」句よりは洒脱でずっと良い。ところで「こうろげ」句は、二十五歳で早逝した兄の妻・登世の通夜での思いを詠んでいる。登世は漱石が唯一「美人」と言い切った女性であり、死なれた悲しみは深かったようだ。つまり、洒脱に俳句を作る心境になどなくて、こういう句になったということだが、そんな事情を知ると、かなり読む意識が変わってくる。予備知識なしに読んだときとは、句の味も違ってくる。でも、これが俳句というものだろう。予備知識の有無による観賞の差異の問題は、長く俳句の読者を悩ませつづけてきた。『漱石俳句集』(岩波文庫)所収。(清水哲男)

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