明るいときに見えないものが暗闇では見える。

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【告白(2010)】 偉業

2010年07月13日 | 映画
■『告白』公式サイト


【ネタバレあり】


原作本を図書館で予約しておいたら思いのほか早くに入手できた。普通は活字のが面白いだろうからスクリーンで観賞後に読むのがよかろうもんと思ったのだが、映画は中島監督なだけに原型をとどめてないだろうし、どう調理するのかという観点から観るのも面白かろうと思い、先に活字で読むことにした。

で、原作は確かに面白かった。ただ第一章で語られるショッキングな復讐劇がやっぱりこの話のすべてかと。群像劇として巧みではあるのだけど、悲しいかな残りの章の後付け感は拭えない(実際後付けのようですが)。また結局は少年達の社会への甘えから来る中二病的な犯罪であり、我々オトナには感情移入しづらいのと、そもそも既読感もあるなあと。

そんな腹持ちで劇場に足を運んだのだが、映画はとてつもなく面白くて度肝を抜かれた。原作に忠実でありながら要らない物を極限まで削り、最低限必要な改変と構造変更だけを加えることで驚くほど深みを増している。言いすぎでなく正直ここまで映像化が成功した作品を観たことがないという出来。


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まず冒頭の森口先生の告白シーンからしてスゴイ。終業式の日だというのに先生の話を全く聞かない生徒たち。携帯の画面、おしゃべりの口元、次々と映し出される中坊たちの落ち着かない様により描かれる学級崩壊の様子。しかもその騒音により"ワザと"森口先生の重大な告白はよく聞こえない。映像だからこそできるこの悪意に満ちた表現。もうこの時点で観客は生徒達に敵意を向けざるを得ない。開始5分にして見事に中島マジックにハマり、そのままラストまで見続けてしまった。

各人の「告白」として綴られていく物語もそれぞれが魅力的。主観撮影を入れることで"オレって熱血"なウェルテルの映像。"引き"で撮ることで客観視点で自分を見つめようと努力をするも脆くも失敗していく直樹ママの映像。文字通り狂ったように明るくポップな直樹の映像。それぞれが自身の「告白」でありながら、全く自分のことが見えていない様を映像手法に変化を加えることでその心情をいとも明確に描き分ける。

また随所に散りばめられた改変は微小で最低限でありながら、本作の意味を大きく作りかえる。

映画は原作と違い森口は犯行を実行してはいない。牛乳は熱血やんちゃ先生(笑)に入れ替えられるのではなく実行前に止められている。つまり彼女は一度正常な精神に戻っているにもかかわらず、生徒達に恐怖の告白を行っている。明らかに自ら冷静に鬼となることを選んでいるのだ。衝動的な復讐ではない完全なる確信犯なのである。ここに本作の圧倒的な深みがある。人は本来悪なのか善なのか、そんな二元論で人間を図ることなんて所詮ムリであり、善であろうとしたものが悪を選ぶ必然。誰だってこんな恐ろしい心情に成り得る、他人事ではない恐怖を示唆する。そのためファミレス後の嗚咽も反省や後悔などという安易な感情ではなく善悪混濁した計り知れないものとなっている。

さらに最後のあのセリフも、実際に犯行に及んだかどうかなどという点は全く問題にせず、彼女の中に宿る悪意と善意の双方を我々観客の心の鏡に映し出す。

一方、原作においては愛情への飢えに同情の余地はあまり感じられず、最後まで血の通わない少年に見えた修哉であったが、"逆回りの時計" のエピソードを最後の最後まで引っ張ることで、物語全体として一本筋が通るとともに、彼の後悔と苦悶の念までをもスクリーンに映しだす。「パチン」と何かがはじけ、自身がすがっていた何かとの断絶感。彼さえも「けっ、中坊の甘えが。」と切り捨てられない位置に連れ戻すことに成功している。



と、圧倒的に面白いと思った映像化だが、ここまで書いてふと逆のことを思う。多数の登場人物、多数のイベントの入れ子状態であるこの話は、原作読んでいない人には結構観るのは大変かもしれない。確かに最大限まで削ぎ落として磨き上げた作品ではあるのだが、一瞬でも腑に落ちない点などあればそこから現実に戻されてしまいおいてけぼりとなる可能性はあろう。

また美月の告白による「お前ら何様!?」という愚民達の魔女狩りへの邁進や、直樹ママが息子の行動言動を理解出来ず「あなたを守るのは私だけ」的にのめりこんでいく必然性が本では詳細に語られており、それらの点はやはり原作に軍配が上がる。やはり本作は原作と映画、双方観ることで2倍いや4倍の面白さに広がる作品だったと思う。


ところであちこちのブログで「CM畑出身の監督のあいかわらず意味のない映像の羅列」と書いてあるものを多数読んだ。中島監督ゆえのお決まりの批判であるが、おまえらその偏見フィルターかぶりまくりの目をかっぽじっても一度見なおせと小一時間説教したい。

本作は映像の持つチカラを完全に把握している中島監督だから成し得た偉業と言ってもいい。そしてコワーな((( ;゜Д゜)))松たか子にも脱帽。

今のところ今年の頂点、決定です。


ただ今どきの中学校が本当にこんな状況でないことを祈りたい。


評価:★★★★★+

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観た後まったく救われない。人によっては怒り出すかも。そんな"どっしりどよーん系"の映画がOKなら観るべき。


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2 コメント

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トラックバック、ありがとうございました♪ (冨田弘嗣)
2010-07-24 01:09:20

トラックバック、ありがとうございます。
本当に面白い映画でした。ン十年前なら、なにを絵空事を・・・だけど、現代では真剣に観てしまうんですね。先進国に生きる人たちの脳内はどんどんおかしくなっていっていて、また加速している。私たちは滅びるのだろうとも思わせる映画でした。
 かなり辛辣な台詞が交わされるのですが、いつもは他人事で観ている私がどういうわけか恥ずかしかった。つまんない大人になったのかなあと思います。
 社会派でありながら、娯楽色の濃いエンターテイメントに仕上がっているのに驚きでした。監督の手腕ですね。

 読ませてもらい、ありがとうございました。
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Re:トラックバック、ありがとうございました♪ (takakuss)
2010-07-30 22:37:50
コメントありがとうございます。

本当に面白い映画だったと思います。
このネガティブ映画がランキング1位をとりつづけた事に驚いていますが、やはりそれだけのチカラがこの映画にはあったのだろうと思っています。

また冨田さんのブログ寄らせてもらいますね。
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