明るいときに見えないものが暗闇では見える。

映画を消費モノにさせないための咀嚼用ブログ。自己満足風。
それと苦手な文章の練習用。

【トランセンデンス(2014)】

2014年06月30日 | 映画



【ネタバレあります】


「人類vsコンピューター」ものってSFではかなり手垢のついたジャンルといえますが、クリストファー・ノーランっていうことで新しいものが見られることを期待して行きました。

圧倒的回線速度の上昇や、Googleを始めとした分散仮想化コンピューティングをベースとし、既に完全に社会基盤となってしまった“現在のインターネット”。AIにアップロードした人の脳がこのネットにつながれたら……。一瞬にして世界中に分散しすべてを掌握、天文学的な計算速度を手に入れることにより、あらゆることを実現可能に。。。

これ、今のテクノロジーの延長線上にある“未来への警鐘もの”としてよく出来ていると感じました。テクノロジーの進化は人類に本当に幸福をもたらすのか、その自覚と道徳がないと、人々はテクノロジーに手痛いしっぺ返しをくらうことになる。それを通常のSFによくある現在を超越したテクノロジーや、デストピアの上に描くのでなく、あくまで現在とつながっている地続き感から来る恐怖と期待から描いています。「ナノマシン」もやり過ぎ感はありながらも、今作のキービジュアルとして斬新なものを観せてもらえた喜びがありました。


ただ…、なんかスケールが小さい。世界規模でなんにも起こらなくて、「世界の危機だ!」「ジョニデ暴走!ヤベェ」「ドーンだ、バーンだ」感の不足っていうか、SF映画的派手さに欠けるというか…。

そう、SFとしてはね…。

ところがこの話、実はSFの殻をかぶったラブストーリーだったのですよ。

だから世界の危機も起こらず、ただあの小さな田舎町で話は完結。「彼女の夢」をジョニデが魅せていただけだったのでした。彼は彼女と小さなユートピアを作りたかっただけかもしれない。なるほど、なるほど、だからか、と様々散りばめられた伏線的なものが頭をちらつきました。しかし、いかんせん 「大きなハデなものを期待」→「小さなものに落ち着く」 からか消化不良感が抜けませんです。


ボクが期待する方向を間違えていたのかもしれませんが、世間様はどうなんでしょうか。鑑賞後、反芻していくと確かにジワジワ面白く感じてきました。リアルとデジタルを超えて夫婦の愛を描く斬新でセンチメンタルな泣けるお話。新しい技術のブレークスルーがもたらす新たな未来と人類の希望。映像はさすがノーラン組でスタイリッシュ。もしかして編集で生まれ変わるかも。ディレクターズカットなど期待です。



P.S.
「ボクのノーラン、コレジャナイ」と鑑賞後調べてみれば監督でなく製作でした。監督・脚本は「ダークナイト」「インセプション」でカメラやってた人とのことで、ノーランスピリッツ継承者と思われます。が、テロの容認とか、「Y2K」のセリフの寒さとか、脚本だけはノーランが書くのが良かったかもです。


→ 映画レビュー満載の日本ブログ村ランキングへ

【スノーピアサー(2013)】

2014年06月27日 | 映画

 

予備知識ほぼなしで観る予定が、観賞直前に「クリス・エヴァンスなのに韓国映画らしいよ」→「え、マジか!?」という状況。ハリウッドの皮を被った韓流と言えば、かの迷作『D-WARS ディー・ウォーズ』を思い出し、一抹の不安を抱えて観賞開始。しかしオープニングクレジットで「ポン・ジュノ」って出たので少し安心しました。

で、第一声は「コレ、結構スゴいわ」。

開始当初、列車の中での階級社会という設定がかなり強引なため、よくある「SFなんだからそこは前提なので触れないし説明もされない」ということなのだろうと観始めました、ところが実はそこは作品のキモで、その不納得感を考えさせる余地のないスピード展開と、少しずつ布石が回収されていく感が絶妙。最終的に提示される“縮図”であったというオチは、力技でねじ伏せて納得させるのではなく、こんな強引な初期設定がここに落ちるのか!と、ありそうなオチながら見抜けなかった自分に「やられた!」という喜びを満喫させてくれました。

アクションに関しては、閉塞空間で素人が強引に前に進みながら戦うという設定なので、それ自体はウリではないのでしょうが、大きなカーフでの銃撃戦は映画史に残ってもいい名シーンです。さらに韓国映画にしてはゴア描写は控えめで、ストーリーの面白さの方に比重が置かれています。

あとちょっとヘンな空気感も魅力です。緊迫の場面のはずなのに、少しだけ「ズラ」す演出。それによりなんとも言えないただの作品ではない雰囲気を醸し出してます。ポン・ジュノ監督が『グエムル』でも魅せているあの雰囲気とはちょっと違くて、あえて言えばテリー・ギリアム感とかティム・バートン感をほんの少しだけ、という感じ。あえて力の抜けた演出が加えられることで、シリアスと空想のはざまに作品を置き続けます。真正面からとらえると重たすぎる状況を、痛快なエンターティンメントに魅せる演出っていうんでしょうか。こういうのって裏目に出る可能性もあって非常に難しいですが、本作ではみごと成功しています。

クリス・エヴァンス、エド・ハリス、ティルダ・スウィントン、ジョン・ハート、(もちろんソン・ガンホも)と豪華俳優陣にも驚きます。ポン・ジュノの名前でここまで集められるのですね。完全に世界監督です。それに彼は、ほんっとなんでも撮れる人なのだと関心します。こないだ『母なる証明』を見たばかりですので同じ監督とはとても思えない。


もし「韓国映画だから」と躊躇している方いたらぜひご覧あれ。ただのハリウッド模倣ではない、アジアの新しい風を感じられます。


→ 映画レビュー満載の日本ブログ村ランキングへ