明るいときに見えないものが暗闇では見える。

映画を消費モノにさせないための咀嚼用ブログ。自己満足風。
それと苦手な文章の練習用。

【オカルト】 ムー

2009年08月27日 | 映画



今回の「夏のひとりホラーまつりw」で見事一位に輝いた作品。観る人によってはボクのそんな趣味を疑いたくなること間違いないw

中田秀夫監督『リング』、清水崇監督『呪怨』、黒澤清監督『回路』など、日本独自のホラー手法を編み出すことで、世界的にも新たなカテゴリーとして定着した感があるJホラー。しかし最近においては"異形のものたちの魅せ方"のワンパターン化と安易な粗悪作品の乱発によりブームにもそろそろ陰りが見え始めていると言われる。しかしそんな中にもキラリと光る作品は輩出されており、個人的には「Jホラー2.0」と呼んでいる新しいムーブメントを生み出している。今回の『オカルト』はその中で一番の注目株である白石晃士監督の作品である。


ドキュメンタリ映像作家の白石が、ある通り魔殺人事件の取材を進めていく中でオカルティックな現象に巻き込まれていくフェイクドキュメンタリ。事件の被害にあったネットカフェ難民の江野。犯人は「次はお前の番だ」という言葉を江野に残すとともに背中に奇妙な図柄をナイフで切りつけて自殺した。江野は事件後に奇妙な事象を体験するようになり、それを白石に見せたいと言う。取材を続けていく中で、それがある恐ろしい計画へと繋がっていくが、白石も運命に引きずられるようにそれに巻き込まれていく。。

通り魔殺人、派遣切り、ネットカフェ難民と完全に今時の時事ネタを意識し、空虚な若者達の心情を綿密に描写。主人公の江野はネットカフェ難民で、ぐったりするようなその日暮らしの日常が描かれておりそれはそれで非常に興味深い。また江野役の宇野祥平が普通の人っぽいのに「生理的に無理!(by ヒッキー北風)」な異様なキャラをそれはもう笑えるくらい完璧に熱演。半開きの目に薄笑い、微妙なタメ口と、ものすごくおなかにグッと来るw。間違いなく現実では付き合いたくない人w

白石の取材が進むにつれオカルト的事象が少しずつ現出する。ハンバーガーの包み紙が動いたり、江野の背中の傷跡が古代文字に酷似し"ヒルコ"と読み解かれたり、女性の記憶が飛び自動書記をしたりなど、次から次へと『月刊ムー』でも読み進めている怪しさ。ただ本作がフェイクドキュメントであるがため、江野が撮影した不思議な映像達まで来ると現実感が薄まりちょっとやりすぎかも。個人的にはこれも白石監督の絶妙なサジ加減で行き過ぎないレベルで抑えられていると思うが、人によってはここで興醒めしてしまうかもね。

オカルト的なお楽しみは人それぞれ感じるところはあるだろうが、それ以上に本作では江野の言動が非常に興味深い。結果江野はとある恐ろしい計画へと駆り立てられるのであるが、ある種オウムの麻原のような犯罪者達の心理をそのまま表しているようであった。社会から差別され落ちこぼれ(たと勝手に思い込み)、劣等感と無気力に溢れた人たちが、とあることをキッカケに自分は選ばれたモノであり、社会に対して理不尽な力を行使することを当然の権利と考える。近年の異常犯罪の根本を恐ろしいくらい的確に描写していると思う。

江野のビデオに納められていた最後のシーン。これには思いきり賛否両論あるだろう。ボクも一瞬肩透かしを食らったが、これは白石監督が「『オカルト』なんて所詮こんなもんだよ~ん」というオチを付けたのだろうと思う。ただホラー好きとしては"あまりにも救われないまじめな別エンディング"もDVD特典としてつけてくれるとより一層ウレシイ。

前出の黒澤清監督が、古代文字研究家として本人役で特別出演w。やっぱりJホラー1.0を担ってきた人たちも白石監督には期待しているのだろうと思うことしかり。

『オカルト』という題名や、DVDパッケージに書かれた文字(あの世、予知夢、古代文字、幽霊、オーパーツ、UFO etc.)からも、かなりの胡散臭さが漂っている映画。こんなもの達に興味をかき立てられる人(me too)はぜひ観ておくれ。またかき立てられない人にもオススメ。次世代のJホラーを担う監督の意欲作です!!


評価:★★★★★

ところで白石監督って若いんだねぇ。『ノロイ』もオススメです。


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【いのちの食べかた】 いただきます

2009年08月22日 | 映画


私達が普段なにげなく口にしている食物(野菜・肉)が、実際にどのような過程を経て食卓に届いているかを描いたドキュメンタリー。効率を極めた大量生産の現場で何が行われているかを、ナレーションもBGMもなく定点カメラまたはレールカメラの映像で淡々と第三者目線で見せる。

農薬まみれで機械的に生産・収穫される野菜。既に生き物とは認められずただのモノとして処理されていく豚や牛。そしてその中で淡々と働く人々。その編集スタンスには批判も賞賛もなくただありのままを流し続ける。

この映画を観る人のほとんどは "かのシーン" を期待しているのだと思う。多分に漏れずボクもそのクチだった。そして鶏、豚、牛と普段は観られないものをこれでもかというほどじっくりと見せられた。ただそれを期待通りに見世物小屋的に楽しめたかというとそんなことはなく「食べ物が作られていく様」を純粋に学べたという感じ。また肉食をやめようと思うこともなく、その夜は何も考えず鶏のから揚げを食べた。

ところで今でこそマトモなものを食えるような身分になったが、学生の頃のボクの体の三分のニは「から揚げ弁当(340円)」で出来ていたと言っても過言ではない。お金のない身分においてそれは最も味と量で満足できる貴重な食だった。昼にから揚げ弁当を買って大学の研究室へ行き、夜のバイト後にから揚げ弁当を食いながらマージャンをする毎日。完全に生活ルーティンに組み込まれていた。そうなってくると別のものを食べよう/買おうとする時でも、から揚げ弁当より高いか安いかが基準となり、もはや "1から揚げ弁当" という通貨単位のようになっていたものだ。

閑話休題。付録の監督のインタビューにもあったが、ヨーロッパでは場で働く人たちに対する差別はないそうだ。欧米の肉食文化では一般家庭でも食用家畜の処理は行われており、大量生産の現代になってたまたま専門職が行うこととなっただけで日本のような "不浄のモノ" 的な感覚はないらしい。逆に皆のやりたくないそんな仕事を引き受けてくれている人たちには感謝しているぐらいとのこと。ボクが "かのシーン" を観たときに感じたのも、これと同じ感覚だった。日本人なのにね。

正直決して楽しい映画ではないと思う。かと言ってショッキングシーンを見せたいがためのモンド映画でもない。大量生産の食材を食べなければならないルーティンに組み込まれている現代人としては一度観ておくべき映画だとは思う。

この映画を観ることで三者三様な感情が湧き出てくることと思う。人の罪深さを感じる部分もあったが、かといってそれをどうこうしようというワケでもない。今後は単純に食べ物に感謝して「いただきます」と言おうと思う。

評価:特になし

牛の精子採るシーンにはワロタ。


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フェイクドキュメンタリー/P.O.V. という手法

2009年08月17日 | 映画
今回の「夏のひとりホラーまつりw」では【フェイクドキュメンタリーを観よう】という一つの主題を設けてます。最近また流行りはじめたこの手の映画。古くは『食人族』から、一世を風靡した『ブレアウィッチプロジェクト』、日本で一部物議をかもした『ノロイ』、最近では『クローバーフィールド/HAKAISHA』など、あたかも"たまたま撮れてしまった本物の映像を利用して作ったという建前のドキュメンタリ風映画"のことです。最近ではカメラ映像のみを中心に据えたものはP.O.V. [Point Of View:主観映像] 映画とも言われます。

なぜこんな主題を選んだかといいますと、今回ロメロ御大のデッドシリーズ5作目wである『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』を観るにあたり、本作がフェイク/P.O.V.映画であるとのことから、最近の同手法作品を見比べ、また過去のものとも比較してみたいと思い立ったからなんです。本当はもともとこの手の映像が好きなだけなんですけどw

で、今回見たフェイク/P.O.V.モノ。

①ダイアリー・オブ・ザ・デッド
 (アメリカ / 劇場公開 R-15:2008/11)

②REC
 (スペイン / 劇場公開 R-15:2008/06)

③ビハインド・ザ・マスク
 (アメリカ / 劇場未公開:2006)

④オカルト
 (日本 / 劇場公開:2009/03)

⑤放送禁止2~ある呪われた大家族~
 (日本 / TV:2003)
  ←『劇場版2 ニッポンの大家族』 ではありません。その前日談の方。


全体として感じられたのが「CG多用による作品のドキュメント性の低下」という点。デジタル技術の劇的な向上で"手ブレ映像"にさえもリアルな合成が可能となり映像的にはなんでもアリになりました。その逆、どの作品にもそれを見せたいがためのカットが頻繁に差し込まれることで、フェイクドキュメンタリーが持つ"ほんものさ(ドキュメンタリー性)"が大きく犠牲になってしまっています。これならCGなんか使わない方がいい。『ほんとうにあった怖いビデオ』的作品やYoutubeの恐怖フェイク映像ならそれでいい(というかそれが目的)んですが、ストーリー映画としてはそこは犠牲にしてはいかんと思うのですよ。まだまだこれらのデジタル技術利用には実験的な部分も多いと思います。さらなる向上を期待したいと思いますね。

次に「P.O.V.であるがゆえの功罪」も感じました。これは私の"慣れ"なのでしょうか、カメラを通した主観映像として観てしまったとたんどうしても第三者目線で作品を観てしまいリアルさを感じられない自分がいました。本来まさにその現場にいるという臨場感を生み出すべきものがP.O.V.の手法なのですが、それが逆に裏目に出てしまっている感じ。劇場でなくDVDで観てしまっていることも大きな原因の一つだと思います。しかしこれもデジタル多様によるフェイク作品として観始めてしまうという前提が、作品事態を「ただの見世物」として捉えてしまった結果だと思われます。それが目的の作品だと言われればそれまでなのですが、やはりアナログで安価な制作費の過去作(『食人族』『ブレアウィッチ』など)の方が、いかにそのものを見せないことで恐怖を演出するかに長けており面白かったと感じます。そういう意味では心霊やゾンビという架空のものを扱う必要のなかった『⑤放送禁止』は非常に興味深かったです。やはりバーチャルではなくリアルをどれだけ見せられるかが作品の面白さにつながっています。


各作品については気が向いたらレビューを書いていきます。
今回の5作品の順位は以下。おお、ロメロ御大が最下位に (;_;)。ただ全作品それぞれの面白さがあります。全作品新たなチャレンジがあり、また新たな面白さを創出できています。フェイクドキュメンタリーを観たことがない方にはすべてオススメです。

【1位】オカルト

【2位】放送禁止2~ある呪われた大家族~

【3位】ビハインド・ザ・マスク

【4位】REC

【5位】ダイアリー・オブ・ザ・デッド


ではでは。

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【スケルトン・キー】  VooじゃなくてHoo

2009年08月11日 | 映画


まだ「夏のひとりホラー祭り」継続中ですw
既に7本ほど観ましたが、取り急ぎその中からお気に入りを紹介。

ブードゥー(Voodoo)についてのホラー映画はよくある。そもそもホラーの主役みたいなゾンビ自体がブードゥーの魔術によって蘇った死体のことだ。この映画はそれとよく似たフードゥー(Hoodoo)についての映画。フードゥーとはアフリカ系アメリカ人の持つ呪術のことらしい。ブードゥーが宗教であるのに対し、フードゥーは呪術であると言える。ネイティブアメリカンの呪術とアフリカから持ち込まれた呪術が混じってできたもの、らしい。まああまり詳しくはどうでもよく、黒人が使うあやしげな魔術みたいなもんと思ってもらえばよい。

ルイジアナ州ニューオリンズ。古い南部のお屋敷に老婆ヴァイオレットと脳梗塞でほぼ全身不随となっている夫のベンが住んでいた。キャロラインはその屋敷に住み込み看護士として雇われるが、屋敷には鏡が一つもなく、赤い粉があちこちに撒かれているなど不審なところがたくさんあった。ある日彼女は呪いの魔術でも行なっているかのような気味の悪い部屋を見つける。ヴァイオレットを問い詰めると彼女はこの土地に伝わる古呪術"フードゥー"の存在と、昔この家で起こった惨劇、そしてその怨霊によりベンが病気にされたのだと語るのだが。。

実は正直途中で見るのやめようかと思ってしまった。「魔術」というホラーにはよくありげな平凡な題材、しかもホラーというよりかサスペンスであり恐怖におののくようなシーンもほぼなし。ストーリーやイベントの丁寧な積み上げと言えば聞こえがいいが、特に驚きも裏切られもなくありきたりな展開。その上、南部モノによくある偏見のカタマリ老人の登場と、黒人差別による虐殺などのぐったり感。また"フードゥー"自身にも全く興味がわかず、「信じないと呪術が効かない」といったなんとなく消化不良な設定の必然性のなさなど、終盤にはかなり飽き飽きしていたのは確かだ。

しかし最後の5分、いや3分で畳み掛けられるエンディングにより実はそれらすべてが緻密な計算の上で設定された伏線だったことに気づく。おお、これよこれ。こういうのを待っていた。よくよく考えてみれば決して予測できないほどのエンディングではない。登場人物も少ないし、そこかしこに散りばめられたエッセンスもあとから検証してみれば、ああそういうことじゃんって簡単に気づく。にもかかわらず、途中でネタバレせずここまで軽妙にどんでん返しを喰らってしまったのは脚本の妙としかいいようがないだろう。全体を通した退屈さまでもが、最後に”ヤラレル”ための演出であったというと言いすぎか。

ところでこの映画、実は相当キャストも豪華。老婆役はあの『グロリア』のジーナ・ローランズ。よく見れば面影がありなのだが、あのグロリアが完全におばあちゃまになってしまっていたことに相当驚き。ベンは名脇役ジョン・ハートだし、主役はケイト・ハドソン。『あの頃ペニー・レインと』の頃の美しさは薄れてませんぜ。日本では彼女のグラマラスな美しさってウケると思うんですが、これ劇場未公開作品なんす。確かに地味だとは思うがDVD直行にするには相当惜しい作品。ぜひぜひオススメ。


評価:★★★★★

ところで本作のお屋敷って『テキサスチェーンソー』のお屋敷ですよね?


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【MAY】 救済

2009年08月04日 | 映画


【ネタバレあり】

先日この本を読んだせいでホラー熱がひさびさに再燃してしまいました。ですので現在「夏のひとりホラー祭り」を開催中ですw。

さて、その中からまず一本。名作の誉れ高い『MAY』です。やっと見られましたよこれ。


斜視と弱視がキッカケで幼少の頃より他人とうまく接することができず、母にもらった人形のスージーだけが唯一の友達だった少女MAY。大人になり動物病院で働く彼女は手術に関心を示すとともに、裁縫を趣味としていた。ある日手首のきれいなアダムという男性に恋をし、首すじの美しい同僚のポリーとも関係を持つようになるが、結局人との接し方がわからずアダムには避けられ、ポリーにも捨てられてしまう。孤独に戻った彼女は"友達なんか自分で造ればいい"という結論に達する。。。

もう、このストーリーまんまです。予告編もまんまだし、「友だちができないなら 造ればいい」という劇場公開時のキャッチもまんまです。特に大きく裏切られることもなく最初から最後まで予定の範囲内。それにホラーやスプラッタと言うには残虐描写は少なめ、おどろおどろしさも少なめ、ホラーとして期待するとちょっと肩透かしがあるかもしれません。ただこの映画にはちょうど良いさじ加減だったと思います。

彼女が造り上げた友達AMY(MAYのアナグラム)。この時点ではただのMAYのエゴのカタマリでしかない。「どうして動かないのよっ!」と怒るMAYだが、最後に自分のコンプレックスである"アレ"を手放し与えることで、彼は真の友達となりました。ホラーとして想定通りの話をなぞってきただけの90分かと思っていましたが、最後にあのMAYの安堵の表情を見たときに「ああ、これってファンタジーだったんだ」と驚きました。MAYに感情移入するにはちょっとムリがあると思いますが、彼女の寂しさが救済されたことに涙が出ました。彼女は愛されたかっただけなのです。悲しい哀しいスプラッターファンタジーとでも呼ぶのでしょうか。軽く『シザーハンズ』の香りもします。

MAY役のアンジェラ・ベティスの演技がすばらしいです。また艶美なゴスな美術や色彩もステキです。牛乳と血のコントラストの美しさとかね。

万人にオススメはできませんし、ホラー好きにもちょっとどうかなといった感じ。中途半端さパンチの弱さはありますが、ラスト1分、ボクにはステキでした。興味のある人のみ自己責任で。

評価:★★☆☆☆


ところで猫ってドコに使った?

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