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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

唱歌「ふるさと」の生態学

2018-07-01 08:45:58 | 私の著書
『唱歌「ふるさと」の生態学』2014、山と渓谷社


読後感想
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in medio tutissimus ibis. 2018/04/12
頗る面白い本である。抑も兎はなぜいたのか。それはそもそも戦中の過剰伐採により禿山が広がっていた状況による。丁度唱歌「故郷」の生まれた、日露戦争後も似た様であろう。恰も昔々からの風景と思われた兎の存在は、その実時代の産物であったのだ。都市化した今の日本には里山の必要が乏しく、兎の棲み処もない。それに伴う問題を解決するヒントを過去に求めるのは結構だが、解決策は飽く迄も今日の知恵であるべき。他所から思想を仕入れればそれで足れりとするのは、批判する所の安易な近代化と同様。これ喜劇也。面白く、以て青山の石とすべし。

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ヨハネス・フェーリクス 2017/11/23
ウサギがいなくなったのは人間が自然を破壊したからでしょうか? 本書では唱歌「ふるさと」の歌詞を1フレーズずつ取り出し、それに沿って日本の自然環境の変化とその背景を記述していく、という面白いスタイルが取られています。筆者自身は「あの時代はよかったと懐古的に言うつもりはない」とおっしゃってるもののやや懐古的な印象を受けますが、冒頭に書いたような「一般常識」への疑問の提示とデータや文献に基づく環境変化についての考察は興味深いものでした。

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リュウジ 2017/10/05
この歌が生まれた頃、この歌詞が当たり前の光景で誰もが共感する人生観だった。それが今どう変わったのか。なぜ変わったのか。「兎追いし(里山の状況)」「小鮒釣りし(川の状況)」「山は青き(林業の状況)」と歌詞を読み解きながら、自然、社会、経済環境、家族制度、幸福の価値など歴史的な変化と衰退を明らかにしていく。特に農村の変化と今のあり様は心の一部が痛くなった。豊かになるとはどういうことか。自然と生きるとはどういうことか。本の内容を丸のみするつもりはないが、考えるための引出しがいくつもできた。

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MOKIZAN 2016/09/15
前に読んだ著者本のあとがきが気に入ったので、他著も読んでみる。ちと、一般受けし辛いかな。私らの世代なら皆、「ふるさと」の歌詞イメージは己なりに持てるでしょうが、現代(いま)や川はいたる箇所で構造物が囲う水路の体となり、山は碧いけど常緑樹の人工林、景観の変容は痛々しく思う程である。だけど、世間様を見渡せば、それらに負けることなく人々の気質も変容したね。「♪いつの日にか帰らん...」この想いを前向きに抱き続けて、郷を離れている方々はどれ程おいでなのだろうか「お盆には」「リタイヤ後には」ばかりでは淋しいわな。

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イグアナの会 事務局長 2015/10/12
「うさぎ追ひしかの山。こぶな釣りしかの川。」里山から茅場がなくなり、そこに棲む野生動物が減る。化学肥料により家畜はいなくなった。人の減少、森林伐採で里山にはいなかったサルとシカが増えた。コンクリートの川になり、農薬が川に流れ、メダカが絶滅。化学肥料でミミズが棲めない枯れた畑。守り繋げていく家が無くなり、家の恥が問われなくなる。里山は、昔から変わらない風景、、、、ではない事がわかります。昔から、人は自然の風景を変え続けてきたようです。自然環境破壊への反対運動も、所詮、人間のえごなのかも、、、

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のぶ 2015/09/02
英語の諺で言えばアウトオブサイト、アウトオブマインド。ビフォアとアフターの図を横に並べて「何がなくなったでしょうか」という問題でも結構難しいのに、私達にはそのビフォアの図が手元にありません。この50年ぐらいの間に日本の国土や社会から人知れず姿を消してしまったもの、それをウサギやコブナという生物の種の話に限定せずに、人間の暮らしや社会のありようから再考するための、鍵となる情報がこの唱歌の歌詞(1~3番)に一通り収められている、という主旨です。喪失感をたっぷり味あわせてくれる哀しい本ですが、でも読んでよかった。

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えくりぷす 2015/05/23
本書が昔を懐かしむという主旨でないことは重々承知していますが、いなか育ちのアラ還世代の私には昔の記憶が蘇りました。川でハヤを手掴みした時の感触、カブトムシをとるために木を蹴りまくったこと等々。ただ、確かに当時でも野ウサギを見たことはなかった。以前、NHKの「ダーウィンが来た!」でウサギ(アナウサギ)が跳ねまわる英国の野原を紹介していましたが、日本にそのような光景が戻ることはあり得ないのでしょうか。

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たけちゃん〜自然体験エンタティナー〜
P204-206 (要約)日本の自然は豊かで美しいが、同時にまことに恐ろしい。日本列島が火山帯のただなかにあり、山は火山で、国中に温泉があらは、地震は日常茶飯事、夏の豪雨山は台風は洪水をもたらす。農業は自然との戦いでもあった。私たちの祖先はそれを知り尽くし、自然に立ち向かうのではなく、自分を自然の中の小さな存在と感じ、かわしてきた。自然に寄りそい、生き物を敬愛し、物やエネルギーを大切にしてきた。我々祖先の素晴らしい生きる知の深さにそろそろ氣付きたい。

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