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「晴行雨筆」の日々から生まれるもの

高槻の考え 2015.5.10

2015-04-02 18:57:38 | 『唱歌「ふるさと」の生態学』
5月6日にいただいた崎山様のコメントに対する高槻の考えを書いておきます。

 高野作詞岡野作曲が通説というのは事実ですが、その通説が楽譜など物的証拠によって裏付けられているのかといえば、まったくそれがありません。ただ伝聞によってのみ形づくられた説ですから、通説であっても俗説なのです。吉丸先生はこうおっしゃっています。尋常小学唱歌は合議である以上、特定の作詞者作曲者を云々すること自体が大きな誤りである。歌詞担当委員5人のうち学校唱歌を本格的につくった経験者は自分だけであること、そしてベテランの武島羽衣さんと鳥居忱さんを委員から外した湯原校長の意図を汲み取ってほしい、とのことです。一連の証拠については『編纂日誌』と『歌詞評釈』を総合的に読み解くようにとのことです。

「通説」ではあるが事実とは違う可能性があるという意味と理解します。「定説」がさらなる検討と見直しが必要であることはよくわかりました。これから勉強と考察をしなければいけません。

「故郷」という唱歌は、旋律は秀作なのに歌詞は凡作だと私は思います。印象としてほとばしるものがありません。

歌詞の評価は私のように自然科学を研究するものからすれば、一人一人の感じ方によるもので、秀作とも凡作とも判断がつきません。私自身はすぐれた歌詞だと思うし、これまで国民に愛されたという事実がなによりも作品を語っていると思います。

それと訓育的な要素が強すぎて小学6年生に教えるにはまだ早いと当初から教育現場に異論があるからです。「志を果たしていつの日にか帰らん」。人生に志をもつことはとても大切なので、それを歌詞にするのはいい。ですが、本当に人生の教育者であるなら、その志が実現できようができまいが、帰るべき故郷はなおそこにあると書いてもらいたかったです。それだと最初からあきらめてもいいよと教えているようで矛盾が生じるのでしょうか。

唱歌は教科書と連動して教えられたということです。そうであれば、訓育的であることは唱歌の宿命であったでしょう。昭和の初期になって現れたみじめなほど「愛国的」な歌がありますが、それに比べればはるかにまともだと思います。小著にも書いたように、人は自分の生まれ育った土地に自然に愛を感じるものだと思います。大きくいえば「故郷」のテーマはそこにあると思います。
 この歌詞は志を実現しない者には帰るべき故郷がないという言っているでしょうか。「いつの日にか帰らむ」は「できたら帰りたいものだ」でもあるでしょう。「わが胸の 燃ゆる思いに くらべれば 煙はうすし 桜島山 」を「お前は馬鹿か」というのは勝手ですが、詩とはそういうものであるはずです。「そうありたい」を「そうだ」と断定する表現は普通にあります。
 これも小著に書いたことですが、ほとんどの人は夢は果たせず、故郷に錦を飾ることもなかったはずです。にもかかわらずこの歌が人気があるということは、そのように望郷の念を持ちながら、夢が果たせなかったことを、自分はダメな人間だったと否定するのではなく、自分なりに夢を抱きながら精一杯生きたという思いをこの歌詞の中に見出したからではないでしょうか。
 私は「故郷」に訓育的な匂いは十分にあるとは思いますが、成功者を讃え、非成功者を否定して苦しめる意図はなかったと思うし、結果としてもこの歌を教えられたから苦しんだということはなかったと思います。
2015.5/10
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いまこそもっと議論を (崎山言世)
2015-05-11 21:10:01
たいへん丁寧に真摯におこたえいただき有難く思いました。この「故郷」という歌は、いろんな方面からもっともっと議論をしてもよい歌だと感じました。作者がだれかれというだけではなくて。たまたまきょう酒井惇一「ノウサギ、因幡の白兎」というページを見つけました。http://j1sakai.blog129.fc2.com/blog-entry-488.html
いまこの歌をめぐって、足りていないのは兎狩や小鮒釣りをもっと民俗学的な観点で深く読み解く研究かもしれないと感じていますが、私には到底手が届きません。
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