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丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例 −

2019-10-15 14:17:22 | イベント
丹沢山地のシカの食性 − 長期的に強い採食圧を受けた生息地の事例 −

保全生態学研究, 24: 209-220.(日本生態学会、2019年8月27日受理)こちら

高槻成紀・梶谷敏夫


ここには要点だけ示します。

要 約:丹沢山地は1970年代からシカが増加し、その後シカの強い採食圧によって植生が強い影響を受けて貧弱化し、表土流失も見られる。このような状況にあるシカの食性を2018年の2月から12月まで、東丹沢(塔が岳とその南)と西丹沢(檜洞丸(ひのきぼらまる)とその南の中川)、西部の切通峠においてそれぞれ高地と中腹(ただし西では高地のみ)において糞を採集し、ポイント枠法で分析し、次のような結果を得た。1)全体に双子葉植物の葉が少なく、繊維、稈が多かった。2)季節的には繊維が冬を中心に多いが、場所によっては夏にも多かった。3)標高比較では高地でイネ科が多かった。4)場所比較では東丹沢ではササが多い傾向があった。5)シカが落葉を食べている状況証拠はあるが、糞中には微量しか検出されず、その理由は不明である。これらの結果はほかのシカ生息地と比較して、シカの食物中に葉が少なく、繊維が多く、当地のシカが劣悪な食糧事情にあることを示唆する。このことから、丹沢山地の森林生態系のより良い管理のためには、シカ集団の栄養状態、妊娠率、また植生、とくにササの推移などをモニタリングすることが重要であることを指摘した。

キーワード:過密度、貧栄養、糞分析、有蹄類


シカの糞採取地点5カ所


主要植物の占有率の季節変化。

場所ごとに4季節あるので複雑だが、要点は以下の通り。
1)ササは東部に限定的
2)イネ科は高い場所に多い
3)繊維が夏でも非常に多く、このような報告はこれまでにない。
4)稈(イネ科の茎)も多く、しかも夏にも多い。


他のシカとの比較。A:緑葉、B:繊維

この結果を他の場所と比較した
1)岩手県五葉山は植物の葉が極めて多く、その他の場所は多いと60%、少ないと30%程度であることが多い。その中で金華山の春は20%未満になり、丹沢は夏に30%以下の少なかった。
2)五葉山や乙女高原では繊維は微量だが、金華山は秋以外は多かった。丹沢は夏には60%以上になった。

これらのことから、丹沢のシカの食性は夏でも緑陽の利用が少なく、繊維が多かった。これはシカが木本植物の枝などを食べていることを示唆する。丹沢山地では長年のシカの影響で植物が乏しくなっており、そのことがシカの食物事情を劣悪にしていることがわかった。


A:丹沢山地上部の柵。中ではササが伸びているが、外では小型化している。B:丹沢山地上部のブナ林の様子。下生えに大型草本や低木がなく、芝生のように低くなっている。

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