垣根涼介著 新潮文庫刊 平成19年10月1日初版刊行 590円(税別)
かつて、本屋さんでバイトをした経験があるものとして、そして何より
活字大好き人間として、Mixiでも本屋さんに関するコミュに幾つか
在籍させていただいている。
そこで、自作の店内POPを紹介し合うトピックが有り、どれどれと
見ていた中で目に付いたのが、本書である。
もうかなり古い書き込みだったので、古書で難なく発見し、購入に至る…。
まず、表紙の絵に、結構惹かれた。
男がネクタイを緩めている。
それだけの絵なのだが、実はこのネクタイを緩める瞬間というのが、
僕は大好きなのである。
一日の仕事を終えて、ようやく家に辿り着き、やれやれと首に手を
入れて、シュッとネクタイの結び目を解く。
その瞬間、体に纏わりついた澱のようなものも、一緒に解けて落ちて
いくような気がして、たまらないのだ。
以前この話を知人にしたら、よっぽど会社が嫌やねんな?と笑われた
が、会社が嫌、というよりも、一日の区切りが着いて、別の世界へ
スイッチ出来る瞬間を自覚できる、といった方が的確かも知れない。
#昔、何かの洋モクのCMで、スーツに身を包んだ男女が、リゾート
を描いた看板に飛び込めば一転、その中の世界へ飛び込める。
勿論、服はカジュアルに変身!というものがあった。
要は、その銘柄のタバコを吸えば、誰でもこんなにいい気分転換が
出来ますよ!というものだが、それを僕はネクタイ外しで実感
出来るのである。安上がりなのである(笑)。
ともあれ。
そうした感覚を持つ、僕の気持にぴったりフィットしてくれた、
この表紙。
それだけで、本書を買おうという気になるというものである。
さて、中身だが…。
本書の主人公は、リストラ請負会社の社員。
様々な社内の柵(しがらみ)から、社内の人間では上手く捌くこと
が出来ない人事(=リストラ)を請負い、遂行するという設定で
ある。
そして本書は、のっけから主人公がそうした面接を行うシーンから
幕を開ける。
婉曲であろうがなんであろうが、会社からクビを言い渡されている
に等しいこの面接の意図に気がついた人たちは、皆うろたえ、その
理不尽さを叫び、自分が如何にこれまで会社に貢献してきた人材で
あるかを訴える。
が。
当然、クビにする会社にすれば、それに倍する理由があって、その
人をリストラしようとしている訳で。
かくして、両者の間で、熾烈な言葉と感情のバトルが繰り広げられ
ることとなる。
この本は、大きく5章で構成されており、主人公と五人の被面接者が
主に登場する。
その都度、業界も会社も異なる様々な人物。唯一つ共通しているのは、
誰もが会社から不要の烙印を押されたこと。
その人たちと主人公が、どのように接していくのか?を横軸に。
縦軸を、主人公の恋愛にして、物語は進んでいく。
一人の面接を終える都度、そこにある様々な人生に触れることで、
主人公は成長していく。
そしてそれにより、主人公は恋人をより理解し、理解されることで
恋人は主人公を更に思い、そうして二人の距離は章を追うごとに
近づいていく。
物語の最初では、恋人どころか敵対していた(こう書くと、恋人が
どのような設定か、判ってしまうだろうが…(笑))存在であった
のに、最終章のラストでは実に切ない愛情を、恋人が主人公に抱く
までになる。
そのラストの描写は、少々著者の狙いが見え過ぎてあざといものの、
それでも美しく、そして物悲しい。
この街で、人は出会い、そして別れていく。
今、こうして出会え、愛し合うことが出来たことは、正に奇跡。
いつまで続くかは誰にも判らない奇跡だけれど、今は目の前に
貴方がいる、そのことに素直に感謝しよう。
読み終えた後、そんな思いに浸ることが出来る、良作である。
正直、リストラ請負人という主人公の職業を見たときには、
もう少し殺伐とした内容も想像していたが、その思いは
見事に裏切られた。
が。
それも、又よし。
人事権を持ち、時には辛い宣告をしなければならない世の
中堅管理職すべてに捧げる寓話であるとすれば。
まだまだ寒い、冬の日々。
読み終えた後、暖かい気持に満たされたいような気分である
ならば、お勧めの書である。
(この稿、了)
付記×1
この本の中で、度々出てくる主人公のスタンスが気に入った。
自分が会社にどれだけ貢献できているのかを、ラフでもいいから
計算してみよう、というもの。
要は、人件費、諸経費等の会社がその人個人に支払う費用に対し、
自分がそれを上回る利益をもたらしているのか?ということを、
きちんと考えてみる、ということ。
いつの間にか、会社にいることが当たり前。そして、毎月決まった
日には、口座に給料が振り込まれるのが当たり前と思っている
ような人には、耳の痛い描写であろう。
#って、人ごとか? 違うだろう~!? > 自分(笑)
付記×2
AMAZONの書評でもあったが、妙に露骨なセックスシーンは、
僕も不要かと。
トーンというものがあるだろう?
#いや、そりゃ男として楽しくない訳じゃ無いけどさ(笑)。
かつて、本屋さんでバイトをした経験があるものとして、そして何より
活字大好き人間として、Mixiでも本屋さんに関するコミュに幾つか
在籍させていただいている。
そこで、自作の店内POPを紹介し合うトピックが有り、どれどれと
見ていた中で目に付いたのが、本書である。
もうかなり古い書き込みだったので、古書で難なく発見し、購入に至る…。
まず、表紙の絵に、結構惹かれた。
男がネクタイを緩めている。
それだけの絵なのだが、実はこのネクタイを緩める瞬間というのが、
僕は大好きなのである。
一日の仕事を終えて、ようやく家に辿り着き、やれやれと首に手を
入れて、シュッとネクタイの結び目を解く。
その瞬間、体に纏わりついた澱のようなものも、一緒に解けて落ちて
いくような気がして、たまらないのだ。
以前この話を知人にしたら、よっぽど会社が嫌やねんな?と笑われた
が、会社が嫌、というよりも、一日の区切りが着いて、別の世界へ
スイッチ出来る瞬間を自覚できる、といった方が的確かも知れない。
#昔、何かの洋モクのCMで、スーツに身を包んだ男女が、リゾート
を描いた看板に飛び込めば一転、その中の世界へ飛び込める。
勿論、服はカジュアルに変身!というものがあった。
要は、その銘柄のタバコを吸えば、誰でもこんなにいい気分転換が
出来ますよ!というものだが、それを僕はネクタイ外しで実感
出来るのである。安上がりなのである(笑)。
ともあれ。
そうした感覚を持つ、僕の気持にぴったりフィットしてくれた、
この表紙。
それだけで、本書を買おうという気になるというものである。
さて、中身だが…。
本書の主人公は、リストラ請負会社の社員。
様々な社内の柵(しがらみ)から、社内の人間では上手く捌くこと
が出来ない人事(=リストラ)を請負い、遂行するという設定で
ある。
そして本書は、のっけから主人公がそうした面接を行うシーンから
幕を開ける。
婉曲であろうがなんであろうが、会社からクビを言い渡されている
に等しいこの面接の意図に気がついた人たちは、皆うろたえ、その
理不尽さを叫び、自分が如何にこれまで会社に貢献してきた人材で
あるかを訴える。
が。
当然、クビにする会社にすれば、それに倍する理由があって、その
人をリストラしようとしている訳で。
かくして、両者の間で、熾烈な言葉と感情のバトルが繰り広げられ
ることとなる。
この本は、大きく5章で構成されており、主人公と五人の被面接者が
主に登場する。
その都度、業界も会社も異なる様々な人物。唯一つ共通しているのは、
誰もが会社から不要の烙印を押されたこと。
その人たちと主人公が、どのように接していくのか?を横軸に。
縦軸を、主人公の恋愛にして、物語は進んでいく。
一人の面接を終える都度、そこにある様々な人生に触れることで、
主人公は成長していく。
そしてそれにより、主人公は恋人をより理解し、理解されることで
恋人は主人公を更に思い、そうして二人の距離は章を追うごとに
近づいていく。
物語の最初では、恋人どころか敵対していた(こう書くと、恋人が
どのような設定か、判ってしまうだろうが…(笑))存在であった
のに、最終章のラストでは実に切ない愛情を、恋人が主人公に抱く
までになる。
そのラストの描写は、少々著者の狙いが見え過ぎてあざといものの、
それでも美しく、そして物悲しい。
この街で、人は出会い、そして別れていく。
今、こうして出会え、愛し合うことが出来たことは、正に奇跡。
いつまで続くかは誰にも判らない奇跡だけれど、今は目の前に
貴方がいる、そのことに素直に感謝しよう。
読み終えた後、そんな思いに浸ることが出来る、良作である。
正直、リストラ請負人という主人公の職業を見たときには、
もう少し殺伐とした内容も想像していたが、その思いは
見事に裏切られた。
が。
それも、又よし。
人事権を持ち、時には辛い宣告をしなければならない世の
中堅管理職すべてに捧げる寓話であるとすれば。
まだまだ寒い、冬の日々。
読み終えた後、暖かい気持に満たされたいような気分である
ならば、お勧めの書である。
(この稿、了)
付記×1
この本の中で、度々出てくる主人公のスタンスが気に入った。
自分が会社にどれだけ貢献できているのかを、ラフでもいいから
計算してみよう、というもの。
要は、人件費、諸経費等の会社がその人個人に支払う費用に対し、
自分がそれを上回る利益をもたらしているのか?ということを、
きちんと考えてみる、ということ。
いつの間にか、会社にいることが当たり前。そして、毎月決まった
日には、口座に給料が振り込まれるのが当たり前と思っている
ような人には、耳の痛い描写であろう。
#って、人ごとか? 違うだろう~!? > 自分(笑)
付記×2
AMAZONの書評でもあったが、妙に露骨なセックスシーンは、
僕も不要かと。
トーンというものがあるだろう?
#いや、そりゃ男として楽しくない訳じゃ無いけどさ(笑)。