活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

はやぶさを見守り続けて■はやぶさトークショー 第2回 「はやぶさと見た夢」 (その3)

2010-12-31 23:50:39 | 宇宙の海

はやぶさと見た夢 ~関西からはやぶさとその未来を考える~
開催日時:2010年9月20日(月) 14時~ 約2時間半
会場:大阪市阿倍野区民センター 大ホール
主催:和歌山大学宇宙教育研究所、大阪市立科学館
協賛:NEC
前半の部 パネルディスカッション 出演者(五十音順):
池下章裕(スペースアート・クリエイター)
林譲治(SF作家)
森本睦子(JAXA)
吉住千亜紀(和歌山大学)
司会:尾久土正己(和歌山大学)

歌:中谷泰子(ジャズボーカリスト)

後半の部 講演と対談 出演者(五十音順):
山川宏(京都大学)
秋山演亮(和歌山大学)


■はやぶさを見守り続けて(2)

森本氏は、ある意味今回のパネラーの中でもっとも直接的にはやぶさに
関わった方である。

今更を承知で、敢えてご紹介すると。

森本氏は、はやぶさの打ち上げ後まもなく、相模原キャンパスにて
「学生当番」としてはやぶさの運用を行った。

その後は、学生からJAXAへの就職を経て、はやぶさの運用責任者である
スーパーバイザーに就任。

相模原キャンパスにある、宇宙科学研究本部の「はやぶさ運用室」にて。

日夜、はやぶさを見守り続けていたのである。

そして。
あの、運命の6月13日も。
氏は、AM6時30分から15時30分までの割り当てで、ローテーション
に参加していた。

運用当番のローテーションは、一週間交代を基本として順番に割り振られる。
勿論、24時間3交代でのフォーメーションである。

そのため、氏は最後から二番目にはやぶさを見守ったスーパーバイザーと
いうことになる。

ちなみに。
最後を看取ったラスト☆スーパーバイザーは、運用班長の西山和孝氏だった。


万が一にも、人出不足によるローテの空白を作らないように。
スーパーバイザーだけでも16名を擁し、バックアップも含めて磐石の
体制にて行われてきたはやぶさ運用。

その中で、はやぶさの最終日にローテーションが回ってきたこと。

何よりも。
様々な人生の節目を経て、自分がそうした任に就いていること。

その、はやぶさとの関わり合いを総称して。
氏は、「運命の巡りあわせ」と語っていた。


だが。
そこには、巡り合わせという他力的なニュアンスとは程遠い、
氏自身の努力の結果としての”運命”が存在していた。

そう。
かのパスツールも、こう言っていたではないか。

「偶然は、準備のない者には微笑まない」と。

また。
宮田一郎の父親も、こう語っていた。

「ボクシングにラッキーパンチは無い。
 結果的に偶然当たったパンチにせよ、
 それは練習で何百何千と振るった拳だ!」  


凡そ。
世の中に、偶然などない。
有るとすればそれは全て必然であり、その必然を生み出すのは
人の意志の力だ。

勿論これは、一つの考え方に過ぎない。
同意する人もいれば、そうでない人もまたいるだろう。

元より、このパネルディスカッションで氏が自分の努力を
ひけらかした訳でもない。

それでも。
こちらで氏が紹介していた、はやぶさとの馴れ初めを知れば。

少なくとも、偶然が必然となるケースも有るということに、
皆賛同していただけるのではないか…。


今回のディスカッションでは。
上記のリンク先で紹介された内容とは、また異なるはやぶさとの
馴れ初めが披露された。
以下、少しだけ補足を加えながら紹介しよう。


氏は、高校生の頃から空に対する憧れをその胸に秘めていた。


大阪府立大学工学部航空宇宙学科に進学したのも、”飛行機が飛ぶ
理由を知りたい”というためである。

大学に進学する際に、明確な目的意識を持って学部学科を選んで
いる人が、今の時代どれほどいるだろうか?

会社に入る時も、また然りである。

就職氷河期とも呼ばれる時代。
そんな贅沢は言っていられない。
まずは、糊口を凌ぐことが先決なのだから。

そういう声もまた、あるだろう。

それでも。
実力テストの偏差値と大学のレベル相関表のみを頼りにして、
双方がクロスするラインに存在する大学へ、まずは潜り込む。

自分自身の反省も含めて、そうした傾向は世間に色濃くある
のではないだろうか。

そんな中で。
氏が自分のやりたいこと、学びたいことと進路のベクトルを
かっきりと合わせた選択をしたことについて、素直に賞賛したい。

そうして、学業に練磨する傍ら。
氏は、更にその歩みをはやぶさに向けて進めていく。

その、キーワードは。
小天体探査フォーラム(MEF)。
2000年5月に発足した、このフォーラムは。
宇宙開発を考究するものであれば、知らない人はいない程の
錚々たる顔ぶれが集っている。

創設時の代表は、JAXAの矢野創氏。
そして、創設5年後に交代した新代表は、和歌山大学宇宙科学
研究所の秋山演亮氏である。
#つまりは、今回のトークショーのメンバーがかなり重複する
 のであるが。

その他、どのような豪華メンバーが参画されているかは、
こちらを参照されたい

また、その開設の謂れは、こちらに詳述されている。


このMEFに。
まだ同大学の院生だった氏は、恐らく発足程無い頃から参画
していた。

そこでのオフ会の写真も紹介されていたが、実に楽しそうな
雰囲気であった。


メンバーに、参加資格は問わない。
ただ。
匿名ではなく、自身の文責において議論を積み重ねていくと
いうスタイルで交わされた掲示板。
執筆された論文。

そうした中で、氏は静かに自身の専攻である軌道計算への
情熱を燃やしていく。

その炎は、やがて見も知らぬ人(=このトークショーにも参加
している山川教授)への一本のメールへと繋がっていくのだが、
その点については先ほど紹介した氏自らの言葉に任せよう。


やがて。
院を卒業後、一度は民間企業に就職するも。
宇宙への夢を捨てきれなかった氏は、2003年に再度研究室へ
戻る決心をする。

それが、上述した山川教授の研究室であり、JAXA相模原
キャンパスであった。

そこから先は、冒頭で紹介したとおりである…。


はやぶさの運用当番の仕事とは。

 ・ヘルスチェック
 ・作業コマンドの投入
 ・トラブル時のデータチェック
 ・ミーティング
 
といった手順で進んでいく。

その作業のフィールドは、勿論相模原キャンパスの運用ルーム
であるが。

面白いことに、そこでの作業とはやぶさとを結ぶチャネルと
なる臼田さんに、氏はまだ足を運んだことがないそうだ。



それはともあれ。
そこで、氏はメーカー、JAXA、その他様々な立場の人達が
一体となってひとつの物事に当たっていく情景を目の当たりにし、
かつ自分もその原動力として活躍していく。

スライドは、そうしたシーンを鮮やかに切り取って映しだす。

そして。
6月13日。

その月の運用当番ボードには。
14日以降の当番が記載されておらず、真っ白のままとなって
いる。

それを見たときに、氏は。

「ああ。本当に、終わるんだな」

と、感じたそうである。

スライドは、変わって。
6月13日当日の集合写真。

花束贈呈のシーン。

当日は、はやぶさからイカロスの運用に回った人々も戻ってきて。
たいそうな賑わいだったそうだ。

どなたかが用意した、はやぶさケーキ。
なんと、りエントリカプセルは、シュークリーム製。

それは、NECのカプセル担当の方が記念にと頂いたそうな。


最後に。
氏が触れたのは、MEFのこと。
関西のおっちゃん的なノリで運用されていたこのフォーラムを。
10年間氏はWeb上でサポートしてきた。

その功績は、非公開ページに過半はあって外からは見ることは
出来ないが。

こちらの公開ページには、氏が作成した”MEFの歩み”が
掲載
されている。


研究者。SF作家。アマチュア天文家。
その他、様々な人が、その立場を超えて参画したMEFという
フォーラム。

そこは、日本の小惑星探査を志す人々にとって。
自身が所属する社会的な組織とはまた別に、このような揺り篭
とも呼べる場が存在したことは、なんと素晴らしいことだろう。

元より、そうした場は天から与えられたものではなく、そこに
いた人々が創り上げたものなのだが。

そして、氏も。
そうした場作りを通じて、ある時は育てられ、ある時は貢献
してきたのである。


そうしたMEFとの関わりを主眼において、氏のトークは
終了した。


時間にして、僅か10分程の時間ではあったけれど。

氏の、様々な思いが籠められた、よいトークだった。


(この稿、続く)


(付記)
2010年7月24日。
氏の母校 大阪府立大学で、学生や関係者を対象とした氏の
講演会があった。

その講演会の案内チラシがこちら(氏の来歴付き)。

また、講演会に参加された方の感想ブログはこちら

講演会の後は、氏を囲んで居酒屋でのぶっちゃけトークまで
あったようで…。
羨ましい限りである。

ところで、このブログの中で、居酒屋でブログ主が氏から
伺ったという以下の話は、どういう意味なのだろう?

 「はやぶさの地球スイングバイは,
  実はイオンエンジンを用いた
  動力スイングバイでは”なかった”」

地球接近時には、引力のみに導かれており、イオンエンジンの
推力は使ってなかったということかな?

こちらは、その際の講演会の模様が紹介された産経新聞の記事
この記事の中に引用された氏の言葉が、なかなか辛辣。

「JAXAに入ることだけで満足してしまう若い人もいる。」

目的意識をどこに置くか。
そこがはっきりしていれば、自ずから人生における自分の
ベクトルが確立する筈。

「7つの習慣」にも通じる、人生の真実である。


最後に紹介するのが、毎日新聞に紹介された氏に関する記事

研究者として、また二児の母として頑張る氏の側面に迫った
よい記事である。


大人のプラモランドVOL.3小惑星探査機はやぶさ(夜光バージョン)(ロマンアルバム) [ムック]
クリエーター情報なし
徳間書店



こちらは、ブログ中で紹介した宮田一郎の父の言葉の
引用元。
このコミック。
こうした熱い言葉がてんこ盛りで、いつも励みを貰って
いるのだ。

はじめの一歩(94) (少年マガジンコミックス)
森川 ジョージ
講談社

コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「春の大三角」を見ながら■は... | トップ | はやぶさ進化論■はやぶさトー... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (シャドー81)
2011-01-08 09:29:04
一度民間会社に就職しても、夢をあきらめずに、再度研究室にもどり、自分の夢をかなえ、また次の夢へと進んでいるなんてすてきですね(素敵と簡単にいえない苦労があったと思いますが)

天文関係の仕事に憧れたが、電気工学なら電波天文とかに役に立つ?と進み、就職は、NECで通信衛星の製作を目指したが・・・結局通信関連会社に・・・

夢をあきらめず実現した人の話は、元気が出るなぁ。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

宇宙の海」カテゴリの最新記事