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目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

凍りついた瞳(め) 子ども虐待ドキュメンタリー

2009-05-30 00:01:48 | マンガの海(読了編)
原作:椎名篤子 作画:ささやななえ 集英社
1996年12月 初版刊行
(入手版は、1998年4月刊行の第7版)


自分は、無知だった。
本書を読んで、改めてそう思った。

虐待の実情、という意味ではない。
実際に行われている虐待が、どれほどむごく、悲惨なものなのか。
そういったことについては、リアルに接する機会はないまでも、
そうした事件が起こった際の報道等で、一端なりと垣間見る
ことは出来る。

問題は、その加害者である。

例えば、先般の西淀川女児殺害死体遺棄事件の母親。
幼稚園で、亡くなった(いや、殺された、とはっきり言おう)
女児の手を引いて、優しく見つめる母親の写真からは、その僅か
数年後に、離婚後自分を慕って自分に付いて来てくれた子どもを
虐待し、あるいは見てみぬ振りをし、食事も満足に与えず、
死後はまるでゴミのように捨てに行く。そんな姿を想像も
出来ない。

この散文的な事実からだけ見ると、鬼のような母親(という
表現を使うのも不愉快になるほどだ)というイメージしか
沸いてこない。


だが。
本書に拠れば、子どもを虐待する親には、大きく二種類に
分けることができるとある。

一つは、自らの行為に悩み、苦しみながらも虐待を止められ
ない親。

そしてもう一つは、虐待を悪とは実感できない親。


今回の事件のケースが、果たしてどちらなのか。

軽々に、外部から論じることは避けようと思う。
#もっとも、それ(=専門知識の無い部外者に、何の教育も
 施さず、市井の民としての貴方の感覚で判断を、といって、
 他者の罪状認否を丸投げする)をこそ、国民に求めるものが
 裁判員制度なのだが。


更に、それぞれのタイプにおいても、様々なバリエーションが
存在する。

例えば、後者の虐待を悪と思えない親。
そうした親に接する際でも、本書に出てくる医師やソーシャル
ケースワーカー、児童相談所の方たちは、実に粘り強く、かつ
丁寧に対応していく。

その結果、子供を虐待する親の何割かは確実に、自らの幼少期に
親から虐待を受けていたことが明確になる。

そこまで、顕著な因果関係でなくとも。
虐待をする方にも、愛情への飢餓感(妻の愛を自分に独占したい
のに、子供のお陰でそれが満たされない)といった、当事者なりの
理由が存在する場合が多い。

少なくとも、幼少より暴力に晒されてきた人にとっては、暴力は
日常の一部であり、自分が親となった際に、そのまま再生産する
ことに、問題があるという認識すら持てない親も又、多い。

そんな彼らに対しても。

虐待に遭っている子どもを親から引き離し、隔離する。
今、正に虐待に遭っている子どもがいれば、緊急避難としての
そうした措置も必要だろう。

但し、その状況がベストとは思えない。と、本書に出てくる
人々は考える。

難しいかもしれないが、親子の間に本来の愛情と信頼関係を
修復して、初めて関わる全ての人が幸せになれるのではないのか?

そうした見地からである。

そうした努力は、不毛に終わることも多い。
本書で紹介までされた事例は、医療福祉関係者の目から問題を捉え、
こうして明るみに晒すことが出来たという点では、むしろ例外的な
事例であり、殆どの虐待が発生している家庭では、こうした外部の
サポートも理解も得られずに、ひたすらに耐え忍ぶ子どもと、その
子に相対する親達の方が、どれくらい多いことか。


このドキュメンタリーコミックの中で紹介された事例は8件。
(うち、2件は前後編なので、章としては計10章)

そのどれもが、少し触れれば血が迸るような、親と子の関係で
満ち満ちている。

上述したように、その関係には実に様々なパターンがある。

一方的に、親が人でなしな場合もある。
その一方で、自らも心で血を流しながら、子どもを責め続ける
親もまた、存在するのだ。

無論、だからといって、なんら免罪されるものでは無いことは、
自明である。

どのような原因であれ。
人は、自らの犯した行為に、責任を取らねばならないのだから。

ただ…。
そこに至るまでには、様々な道がある。
そのことだけは、判らないといけないと思う。


そのことを、より深く感じていただくために。

先日ご紹介した続巻と、本書を合わせて読まれることを、
強くお勧めする。

いや、親も。子も。
全ての人が読むべき書である。

(この稿、了)


凍りついた瞳(め)―子ども虐待ドキュメンタリー
ささや ななえ,椎名 篤子
集英社

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続巻では、被虐待児が成長して、自らの半生を振り返って
記した手記が元となっている。
そのどれもが、切なく、哀しい。
凍りついた瞳(め)―子ども虐待ドキュメンタリー (続)
ささや ななえ,椎名 篤子
集英社

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どこまで続くのだろう。この連鎖は。
と、思えてしまう書。
新凍りついた瞳(め)―子ども虐待ドキュメンタリー
ささや ななえ,椎名 篤子
集英社

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