活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

彷徨える艦隊2 特務戦隊フュリアス(後編)

2009-05-26 00:00:28 | 活字の海(読了編)
著者:ジャック・キャンベル 出版社:早川書房(SF1712)
訳者:月岡小穂(さほ) 



前篇では、第二巻の縦軸である、ギアリーを巡る人間関係に
ついて述べた。

後編では、横軸となる星間戦争について述べよう。


相変わらず、艦隊戦の描写は壮観。

光速に近い速度で移動し、戦う艦隊戦において、モニターの映像は
既に過去のものでしかない。
それでもつい、マイクをとって指揮をしたくなり、通信が届いた
頃には眼前の状況はとっくに変わってしまっていることに気がついて
首を振りながらマイクを下ろし、自分が選んだ指揮官を信頼しようと
自分に言い聞かせるギアリーのもどかしさが、よく伝わってくる。

#でも、考えたら、ギアリーが最初に現役だった当時(つまり、
 ギアリーが緊急脱出用救命ポッドで冷凍冬眠していた約1世紀前
 のことである)から、こうした速度域での戦闘は常態化していた
 筈だから、まるで今の僕達のような感覚で彼がもどかしさを感じる
 方が、実はおかしいとも言えるが。

 まあそこは、判っていても、つい反応してしまうのだという風に
 理解しておくとするか。


それに加えて、今回は更にハイパーネット・ゲートを舞台にしての
攻防戦が、熱を持って迫ってくる。

 ※ 未読の方のために。
   ハイパーネットとは、時空にトンネルを開けて遠距離を結ぶ、
   言わばワープと思っていただければ宜しいかと。
   ただ、スタートレックやヤマトのように、任意の空間で発動
   出来るのではなく、ゲートと呼ばれる門を潜って移動する
   必要がある。
   星界シリーズの「門(ソード)」と捉えていただいてもOK。
   もっとも、星界の門が、空間として成立しているのに対して、
   こちらのゲートは通路としての機能を維持させるために、
   人工物によるフィールドの固定作用が必要となるのが大きな
   相違点。
   この人工物が、今回のゲート攻防戦の鍵となる…。

   それとは別に、もっと短い距離の移動用の超空間移動という
   ものも、本作品では設定されている。
   こちらもジャンプ点という特定ポイントからの移動となるが、
   ハイパーネットと異なることは、少なくとも人類はこの移動を
   ある程度自家薬籠中のものとしていること。
   ハイパーネットについては、移動出来る、というだけで、その
   詳細はよく理解できていない。
   そのこともまた、物語の重大な鍵となってくるのだが…。

サンセレ星域にあるハイパーネット・ゲートを巡る攻防が、どのような
理由で行われ、どのように帰結したのか。

それは、これから読まれる方のために伏せておこう。
ただ、前巻ではおぼろげにしか提示されなかった第三の勢力の存在が、
今回もまた、ゲートに絡んで匂わされてきた。
前巻では、敢えてそうした存在を出さなくてもよいのでは?という
思いが強かったのだが、今回もたらされた情報により、少し考えが
変わってきた。
と同時に、作者がこの物語をどういった方向に持っていこうとして
いるのかも、判ってきたような気がするのだが、それについては
いい意味でのどんでん返しが待っていることを期待しておこう。


なお、今巻でも、敵方のシンディックとの戦闘を通じて、民間人を
犠牲にしない。戦争法に従った自軍への規律と敵軍への処遇を遵守
させるという、ギアリーのポリシーは一環して変わらない。

だが…。
ギアリーが冷凍睡眠していた1世紀の間というもの、長引く戦闘に
よる精神の疲弊と相互憎悪によって、敵側のみならず、星系同盟
(アライアンス)の兵士達にとっても、敵=殲滅という図式に
すっかり慣れ親しんでしまっていたのだから、それを変えようと
するギアリーの腐心たるや、生半なものでは無い。

そして、ようやくその考えが、船団の中にも浸透してこようとして
いた矢先に、アライアンス艦隊にファイティング・ファルコという
異分子が混入してくることとなる。


シンディックの捕虜収容所から自軍兵士を救った際に、ともに救出
されたファルコ大佐は、正しくそうした近来の戦闘精神の具現化の
ような人物であり、それ故にある種のカリスマ性を帯び、捕虜達の
精神的支柱となっていた。

そして彼は、規律と秩序と戦略的視点に則った艦隊運営を行おうと
するギアリーと、事あるごとに衝突していく。

このファルコの精神論に満ちた主張(例えば、「一の精神力は
三の武力に匹敵する」!)を聞いていると、第二次大戦中の
日本軍のデッドコピーを見ているようで、非常に心が痛い。
(当時の日本軍も、燃料が切れたら、手でプロペラを回してでも
 飛んで、敵をやっつけろという文化だったからなぁ)

そして、ギアリーとファルコは艦隊の指揮権を巡って争うことと
なり、そのことが艦隊を危機に晒すこととなる。

このエピソードにはハラハラとさせられたが、ただ身内の造反
分子をどう調伏していくのかについては、前巻でも同系統の本と
して挙げた「銀河の荒鷲シーフォートシリーズ」の1巻にあった
シーフォートとヴァクスとの件を超えるものではなかった。

#当時、部下との人間関係で悩んでいた自分にとって、あの話は
 物凄いインパクトをもって迫ってきた。息を凝らしながら二人の
 確執を追いかけていったことを思い出す。
 そのヴァクスが、後年ああいった行動に出るとは…!
 
 全ての、部下、同僚との人間関係に悩む人にとって、お勧めの
 書である。



ギアリーと、アライアンス艦隊の、故郷への長い旅は続く。

それはあたかも、ソロシップのそれを彷彿とさせる。
ソロシップもまた、不意に訪れた(彼らにとっては)理不尽な
敵襲により、故郷を目指して宇宙を彷徨う運命を背負わされた
船だった。

ソロシップの旅の果てには、やがて人間存在への壮絶な絶望という、
陰惨たるゴールが待っていた。
#映画を初めて観た時には、なんて楽天的なラストだ!と思ったが、
 歳月を経た今となっては、あれは究極の人類ダメ宣告ラストだと
 思うようになった。

ギアリーの旅は、どこに行き着くのだろう?

既にアメリカでは、6巻(5巻?)までが発売されているらしい。

月岡小穂氏へ。
お体を壊されぬよう、かつ、一刻も早い翻訳の上梓をお願いします。

ハヤカワ書房様へ。
「太陽の女王号」シリーズのように、途中で打ち切りにだけは
しないで下さい。ならばと原著に当たれるだけの語学の才がある
読者だけでは無いのですから。


そして、何よりJ・キャンベル様へ。
物語を紡ぎ出した以上、如何なる形であってもきっちりとラストを
迎えて下さいね。
ファインタック氏のように亡くなられた(合掌)場合は仕方ないと
しても、作者が存命中にきちんと終わることが出来るのか、はなはだ
心もとないシリーズが、この世には山ほどありますので…。

くれぐれもご自愛の上、引き続き読者を唸らせる作品を生み出して
下さいますよう、お願い申し上げます。

(この稿、了)


彷徨える艦隊 2 (ハヤカワ文庫 SF キ 6-2)
ジャック・キャンベル
早川書房

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ジャック・キャンベル
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