神奈川朝鮮学園に通う児童・生徒に対して、他の外国人学校に通う児童・生徒と同様に、補助金を交付することを求める会長声明 |
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2014年07月11日更新
神奈川県は、平成26年度から外国人学校生徒等支援事業を開始することとし、本年3月にその事業費を含む予算が可決され、同事業が実施されることとなった。これは、平成25年2月12日に行われた朝鮮民主主義人民共和国(以下、「北朝鮮」という)の核実験を理由として、神奈川県内に5校を運営する神奈川朝鮮学園(以下、「朝鮮学園」という)に対する年間約6,300万円の運営費補助金を打ち切ったことに対する代償措置といえる事業であり、生徒である子どもたちには責任はないことを明確な形としたもので、評価されるべき措置である。
しかるに、この事業について神奈川県議会の委員会審議において、朝鮮学園に通う児童・生徒に対する外国人学校生徒等支援事業の実施にあたっては、朝鮮学園が「教科書編纂委員会に対して、拉致問題の記述のある教科書への早期改訂を要請すること、改訂されるまでの間、同学園が拉致問題に関する独自教科書を作成し、当該教科書を使用した適正な授業を実施することの確認の上で執行されたい」との意見が付された。これを受けて、神奈川県知事は、外国人学校のうち唯一朝鮮学園に通う児童・生徒に対してだけ、朝鮮学園が拉致問題を明確にした授業を実施すること、拉致問題を明確に記述した独自教科書を作成すること、授業を公開することなどを補助金交付の条件とするかのような発言を行った。
もし、外国人学校生徒等支援事業の実施において、朝鮮学園に通学する児童・生徒に対してのみ、他の外国人学校には要求していない条件を求めるのであれば、憲法第14条に定める平等原則に違反する違法な差別といわざるを得ない。補助金の支給対象を定めることは行政裁量が認められるものではあるが、北朝鮮という国の行為を理由として個人に対する支援の有無を決するとすれば、他事考慮あるいは裁量を大幅に逸脱したものといわざるを得ない。
朝鮮学園に通う児童・生徒への公的支出は、他の私立学校・外国人学校に比べてきわめて少額にとどまっている現状において、生徒に対してまで補助金の支出すら行われないとすれば、憲法26条が保障する子どもが教育を受ける権利にも影響を及ぼしかねず、子どもの権利条約第28条第29条が保障する教育における機会平等、財政的援助ならびに文化的アイデンティティーの尊重にも違反することになりかねない。また、補助金交付の条件として、県が教科書の作成や、教科書の内容にまで踏み込むとすれば、私学の自主性の尊重をうたった教育基本法や私立学校法の趣旨に反することとなるおそれが極めて高い。
神奈川県は、多文化共生、国際交流を重視し、朝鮮学園とも長年信頼関係を築いてきたが、このような措置は、これまでの信頼関係を覆すのみならず、国際情勢・政治情勢について何の責任もない朝鮮学園の児童・生徒にだけそのしわ寄せを及ぼすものである。朝鮮学園の卒業生の大半は、日本の大学・専門学校等へ進学したり、日本企業への就職をするなど、日本あるいは神奈川の社会の一員である。
このような点から、当会は、神奈川県に対し、朝鮮学園に通う児童・生徒に対して、他の外国人学校に通う児童・生徒と同様に、外国人学校児童・生徒学費軽減事業補助金の交付を行うことを強く求める。
2014(平成26)年7月10日
横浜弁護士会
会長 小野 毅