滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン市のエネルギーセンター、本格稼働へ

2013-03-26 08:12:07 | 政策

帰国前後のバタバタでブログ更新がいつになく滞っていました。遅ればせながら、日本での講演会を主催下さった方々、そしてサポート下さった方々、どうもありがとうございました。 

私の住む北スイスのベルン州は、今年は春が遅く今朝も雪がうっすらと積もりました。冬が5か月間続いた印象で、人間も花々の蕾もそろそろ春が待ちきれなくなってきました。

 
●「再生可能なベルン」法案、僅差で否決

さて、いろいろお伝えしたいことがありますが、まずは3月3日のベルン州の住民投票結果から。前回のブログで報告した「再生可能なベルン」の2法案は、残念ながら両案共に否決されました。

惜しかったのは州議会による対案で、イェスの票が49%、ノーが51%との僅差での負けでした。可決されれば、2043年までに電気と熱の両方を100%再生可能エネルギーで供給することが、州の憲法に書かれたところでした。ポジティブに考えれば、住民のほぼ半分が30年以内に100%再生可能エネルギーを望んでいることが確認できました。

対して、緑の党が提出した住民イニシアチブ案はイェスの票が35%で、明確な敗北です。可決率からすると、左よりの有権者しかこの法案を支持しなかった様子が伺われます。やはり、エネルギー自立のような案件は、一部の政党が提案するのではなく、党の差を超えた幅広い連立を作ることに成功がかかっているように思います。

法案反対派のキャンペーンが功を奏したというのも確かでしょう。しかし、「再生可能なベルン」の推進派のキャンペーンが適切に行われたかというと疑問もあります。例えば、投票結果を見ると都市部は可決しているのに、農村部では否決の地域ばかりです。保守的な農村部の住民を巻き込んで、コンセンサスを形成することに十分な力が注げていなかったという批判も新聞で見られました。(ドイツやオーストリアでは保守的な農村部の人こそがエネルギーシフトに積極的に取り組んでいますが、スイスではその段階に到っていません。)また、100%を達成するためのシナリオ調査が事前に発表されていなかったのもマイナス要素だったと思います。

とはいえ、ベルン州にはスイスの州の中でも最も進んだエネルギー戦略とエネルギー法があります。この戦略と法律の中では2035年までに、4000W社会になること(一次エネルギー消費量を30%減らすこと)、建物で使う熱の量を20%減らし、その70%を再生可能エネルギーでまかなうこと、電力については80%を再生可能エネルギーでまかなうことなどが定められています。そしてこれを実践するために、主要な30の自治体にはエネルギー供給マスタープランの策定が義務付けられています。

●ベルン市のエネルギーセンターが本格稼働を開始!

昨年より一部稼働し始めていたベルン市のエネルギーセンターが、本格稼働を開始しました。場所は市の西側で、国会議事堂からは車で5分ちょっとのところです。このエネルギーセンターは、スイスの首都ベルン市が所有する都市公社EWBが運営するもので、市域に熱と電気を供給します。特徴的なのは、一つの建物の中にゴミ焼却炉と木質バイオマスボイラー、そしてガスコンバインドサイクル発電が入れられており、これらを組み合わせて電熱併給設備が運転されている点です。ちなみに、木質バイオマス発電所は蒸気発電式で、燃料は地域材のみが使われ、3分2が森林材、3分1が廃材となっています。

いづれのエネルギー源からも電気と熱の両方を作ります。人口13.8万人のベルン市には長さ35㎞の地域暖房網があり、以前から中心街の建物や工場への温水や蒸気の供給が行われてきました。今回、その熱源がより高効率でCO2排出量の少ないものに交換されたわけです。500棟ある顧客に年340GWhの熱を供給し、熱は一部冷房にも使われています。インゼル大学病院、ベルン州立大学、連邦議会、ベルン駅、その他の中小企業や家庭などが顧客です。

電気については、首都の電力需要の30%(年360GWh)を、このエネルギーセンターで供給できることとなりました。ベルン市では2009年の住民投票で、市の電気を2039年までに100%再生可能な電気で供給していくことを決定しており、都市公社EWBでは、そういった政策を反映させた運営が行われています。100%再生可能までの道のりは遠いとはいえ、住民の望む電力供給の質を戦略的に実施しようとする姿勢、そして市域内での電熱併給の促進する姿勢は評価できます。

土曜日のオープニングセレモニーには、なんと1.2万人もの住民が訪れたといいますから、地元社会からの注目度の高さがうかがわれます。こちらから写真が見られます。

http://www.forsthaus-west.ch/Aktuelles/News

 


●最近の福島効果:まもなく、ミューレベルク原発の運転許可に最高裁判決

3月28日に、ベルン州にあるミューレベルク原発の運転許可に関して、最高裁の判決が下されます。稼働40年が経つミューレベルク原発は、ベルン州が過半の株を持つベルン電力BKWが運転する原発です。2022年には遅くとも廃炉になると言われていましたが、ベルン州電力BKWでは、安全対策への投資に予想以上の額が必要となってきたため、2013年末に長期運転のための投資を行うか否かを決めるとしてきました。

安全性の問題を抱えるとされる同原発に、国の環境・交通・エネルギー・通信省(UVEK)は2009年に無期限の運転許可を与えています。そのことに対して、住民団体が不服を申し立てており、2011年には連邦行政裁判所でその訴えが認められました。しかし、UVEKとベルン電力はこの判決を不当として、最高裁判所に上告していたのです。その判決が次の木曜日に出ます。最高裁が行政裁判所と同じ結論に到れば、6月末に運転許可が切れます。

この高齢原発に関して、スイスの保安院は長期運転許可のための10の対策条件を出しています。が、それを満たすのは2017年までで良いしています。そのためベルン電力が、安全対策への多額の投資を避けて、2017年に廃炉の道を選ぶということも考えられると、地元誌DerBundは推測しています。

ベルン電力の抱える問題のひとつが、ミューレベルク原発の廃炉・解体処分基金への積立金です。DerBund誌によると、運転停止に5億8800万フラン、解体処分に8億7500万フランの積立が必要です。ですが40年も運転したにも関わらず、基金の予定額に4億5000万フラン(約450億円)足りないといいます。

 


ニュース

●イベント:4月10日~12日、ドイツ・フライブルク 「第三回エネルギー自立自治体会議」

毎年恒例の南ドイツでのエネルギー自立地域会議。1日目はワークショップ、2日目は会議、3日目はエクスカーションでフライブルク周辺の先進事例を見学できる。

http://www.energieautonome-kommunen.de/

 
●ドイツ:「100%再生可能エネルギー地域」が136地域へ

ドイツの環境省のプログラム「100%再生可能エネルギー」には、エネルギー自立を目指して具体的に行動する自治体や郡が参加する。参加を認められるには、一定レベル以上の取り組みがなされていることが条件となる。現在、73地域が高度なレベルを満たす「100%再生可能エネルギー地域」、60地域がまだそこには及ばない「スターター地域」、3地域が都市部でありながら自立を目指す「アーバン地域」として表彰されている。これらの地域に住む人の数は増えており、現在合計2130万人にもなる。

参照:www.100-ee.de

 
●オーストリア:半分の自治体がエネルギー自立を目指す

オーストリアの生命省と交通革新技術省に属する気候財団は、エネルギー自立を目指して行動する自治体をサポートする「気候エネルギーモデル地域」を実施している。参加する自治体の数は増え続け、現在1100に上る。オーストリアには2354の自治体があるため、自治体の半分が自立を目指していることになる。生命省大臣ニッキ・ベルラコビッチはこう語る。

「私は、オーストリアの全ての自治体に気候エネルギーモデル地域になって欲しい。地域の再生可能エネルギーの増産と自治体におけるエネルギー効率の向上はオーストリアのエネルギーシフトぬ向けた重要な一歩だ。地域の力によって私達は依存しないエネルギー自給国になれる。既に250万人もが気候エネルギーモデル地域に住んでいる~私の目標は一人一人のオーストリア人がエネルギーシフトのパイオニアになることだ。」

オーストリア政府は2050年までに省エネと再生可能エネルギーにより脱化石エネルギーすることを目指している。ちなみにオーストリアには原発はない。

参照:www.klimaundenergiemodellregionen.at

 
●スイス:「エネルギー戦略2050」、エネルギー大臣がラウンドテーブルを招集

スイスの脱原発と脱化石エネルギー政策の長期的戦略である「エネルギー戦略2050」と、それを達成するための第一対策パッケージに関して、1月末にパブコメが締め切られ、459のパブコメが提出された。このパブコメ結果を反映させ、修正されたものが年内に議会の審議にかけられる。現在、スイスのエネルギー大臣は「エネルギー戦略2050」に関係して対立する意見を持つ団体を7回のラウンドテーブルに招集し、コンセンサス作りに努めている。

参照:www.bfe.admin.ch

 
●南ドイツ:1000㎡の太陽熱温水器を持つ新バイオエネルギー村

南ドイツのシンゲン市に拠点を置く、市民エネルギー会社のソーラーコンプレックス社では、毎年1~2の農村をエネルギー自立させる事業を手掛けている。今年、スイスと国境を接するビュージンゲン村もその一つとなった。この村では熱分野でのエネルギー自立となる。目玉は、1000㎡の太陽熱温水器。夏の間の給湯負荷は、太陽熱だけで供給する。暖房シーズンには、これに加えて木質バイオマスボイラーが稼働する。熱は地域暖房網により、村のほぼ全ての建物に供給される。

参照:www.solarcomplex.de

 
●ニュースレター「フクシマニュース」2013年3月号

ドイツ語圏の読者向けに、環境団体スイスエネルギー財団がウェブサイトで季刊フクシマニュースを執筆しています。福島第一原発事故2周年目のニュースはこちらからご覧になれます。

リンク http://www.energiestiftung.ch/aktuell/fukushima/

  

●環境専門誌「ビオシティ」2013年 54号発売

環境専門誌のビオシティの最新号は、「韓流エコアクション」というとても面白そうな特集です。その中に、拙著の「欧州中部のビオホテル探訪2:南ドイツ、ホテル・アルターヴィルト」が掲載されています。3月末に販売予定ですので、是非ご覧下さい!

リンク http://www.bookend.co.jp/biocity/bn/outline/54.html

 

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