滝川薫の未来日記

スイスより、持続可能な未来づくりに関わる出来事を、興味がおもむくままにお伝えしていきます

ベルン州、3月3日に「100%再生可能」を住民投票へ

2013-02-18 19:59:35 | 政策

まだ雪が残るものの、小鳥たちのさえずりが春めいてきました。庭の雪の解けた場所にはスノードロップやセツブンソウが可憐な顔を見せています。明日から日本に講演会のために帰国するのですが、その前にどうしてもブログを更新してお伝えしたいと思っていたことがありました。

 
写真:「ベルンに再生可能エネルギーを」キャンペーンのポストカード。写真はベルン市近郊のパイオニア的なエネルギー農家のヴィースさん。農業のほかにバイオガスコージェネ、大きな屋根置き型の太陽光発電を営む。

私の住んでいるベルン州で予定されている住民投票についてです。3月3日はスイスでは国民・住民投票の日曜日。ベルン州レベルでは、住民発議案「再生可能なベルン」と州議会の対案が、住民投票にかけられます。

住民発議案も州議会の対案も、両方とも「100%再生可能エネルギー」という目標を州の憲法に書き込むことを求めるものです。住民発議案の方は、緑の党が中心となり2009年11月(なんという待ち時間の長さ!)には既に必要署名が提出されていた法案で、要約すると下記を求めています。

●住民発議案

- 2050年までにベルン州での電力・暖房・給湯熱需要を100%再生可能エネルギーでまかなうこと、その際に下記の途中目標を設置すること。

- 電気:2025年75%、2035年100%を再生可能エネルギー

- 熱:2025年50%、2035年75%、2050年100%を再生可能エネルギー

- 新築建築物は可決から2年以内に100%再生可能エネルギーのみを許可


これを州議会は否決、対案を出しました。その対案の概要は、下記の通りです。

●州議会の対案

 - 30年以内にベルン州での電力・暖房・給湯熱需要を100%再生可能エネルギーでまかなうこと


図:大工版のポスター、「省エネは確実な職場を作る」。これまで外国に流出していた化石エネルギーへのお金を地元の建設産業に循環させる。

住民案では、電力は2035年というスイスの脱原発完了の年までに100%再生可能エネルギーに、熱は2050年までに100%再生可能にするという目標です。対して州議会の対案では、電気も熱も2043年までに100%再生可能エネルギーにする、ということになります。ですが、対案は途中目標がないので、具体的なプランが先延ばしになる危険性をはらみます。

スイスの場合、国の内閣が提示した「エネルギー戦略2050」の目標の中で既に、電力については2050年までに100%再生可能エネルギーでまかなうことが記されています。ですから、ベルン州の法案は脱原発という側面よりも、脱化石エネルギーをいっそうに促進するものとして捉えられています。通常、熱源設備は15年前に買い替えられますから、次の2回の交換の間に、全ての設備を順繰りに再生可能にしていくという、かなり現実的なプランです。

 
図:キャンペーンの中では一番の有名人、シモーネ・ニッグリ・ルーダーさんと家族。オリエンテーリング競技で世界24回の優勝記録を持つ国民的スポーツ選手。自身がミネルギー基準で建てられたプラスエネルギー住宅に暮らす。「人間と環境のために2XJa」

最終的な目標は一緒なので、両案共同で投票キャンペーンを張り、「2XJa(両方にYesを)」と発信しています。いつも通り、賛成、反対に熱いキャンペーンが繰り広げられていますが、なんとなく、今回は賛成派の方が存在感があります。というのも、「2XJA」キャンペーンには、右から左までの広い層の政治家や市民が賛同しているからです。中には、100もの企業、33の自治体長、漁業連盟、労働組合、賃貸人連盟、環境団体、スポーツ選手、環境医師会等々も有ります。雇用、環境、暮らしへのメリットが強調されています。

反対しているのは、毎度のことながらスイス国民党(SVP)や自由民主党(FDP)、持ち家主連盟等。反対キャンペーンでは、「改修義務反対」を強調。しかし、今回の法案では断熱改修義務化は記載されていません。

 
図:ポスター職業訓練中の電気職人編「クリーンテックが安心な職場を作る」、若者に未来ある仕事と社会を。エネルギーシフトは2世代分の仕事を作る。

人口100万人のベルン州では、これまでに何度もエネルギー関連の住民投票が行われていますが、今回の法案は(少なくとも対案は)可決されそうな雰囲気を感じます。住民案も通って欲しいものです。そうなればベルン州は、スイスで初めて熱と電気の両方を2050年までに100%再生可能エネルギーにすることを法律に明記した州になります。

とはいえ、この目標設定についてもスイスの直接民主制らしい「妥協主義」が見られます。100%再生可能エネルギーの目標の対象になっているのは、「電気」と「建物の暖房・給湯」。それ以外の重要分野である「交通」と「産業の工程熱」については言及されていません。それが、今の段階で社会的に幅広いコンセンサスを得るためのツボと捉えられたのでしょう。

欧州中部では、州のこういった動きは決して珍しいものではなく、例えばお隣のオーストリアのフォーアールベルク州では2050年までに電気・交通・熱の全てを100%再生可能エネルギーに、ドイツのヘッセン州も2050年までに電気と熱を100%再生可能エネルギーにすることを決めています。ベルン州の投票結果は、3月上旬に日本からスイスに戻りましたらまた報告しますね。


図版出典 Bilder :www.eebern.ch
 

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