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あの戌年の夏~逢衆①

2018年07月08日 | 教育ノート
 Cちゃんシリーズに続き、「逢衆シリーズ」(と言っても2回だけだが)をお届けする。

 どうして、こんなことを書いたのかよくわからないが、妙に記憶がよみがえってきた。
 初めて「東北校長会」なるものに参加したときだのようだ。


◆逢衆列車が行く
 ~07/10/2006~


 八戸発のスーパー白鳥は、ひどく混みあっていた。

 狭いデッキにひしめくあう人々。

 最初の駅で数人が降りたが、降りた以上の人数がまた乗り込んで、ますます息苦しさがつのってきた。


 二つ目の駅で、そいつは乗り込んできた。

 開いたドアの中を見て、ギラリ

 ステップに足をかけて、ギラリ

 周囲の乗客を威嚇する目で、肩を少し揺さぶりながら

 そいつは、この空間に入り込んできた。


 短髪、ややパーマがかかっている。
 色黒、やけに細い眼鏡をかけて、あごひげに、金のネックレスが音を立てている。
 ゆっくりめの開襟シャツに、茶のスラックス、、白いエナメルの靴。
 そして、約束のように黒いセカンドバックを携えて。


 つり革などないデッキの中では、寄りかかるスペースをいかに確保するかは死活問題である。
 まして、新幹線ではない地方の特急。
 揺れは、意外な局面で起こってくる。

 そいつは、通路側の一角を占めたが、さすがに、周囲はみんな背を向けている。


 起こるべくして、揺れが大きくなった。

 黒い上下の服をきたサラリーマン風の男が、そいつの脚部にぶつかったようだ。
 まあ、一般の客であれば、この揺れでの接触は、当然のような顔で受けとめるのだが…

 そいつの視線が、サラリーマンの後姿の、背中から後頭部にかけてゆっくりと上がっていく。

 細い眼鏡の奥の瞳は、異常に大きく見開かれている。

 始まるか…


 「間もなく青森です。お降りの方は…
 アナウンスが入る。
 そいつの目が少し気勢をそがれたように伏せられた。


 ほっ、気弱な観察乗客は、つめていた息を少しだけ吐いた。