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クヨクヨし引きずり抗え

2018年07月02日 | 読書
 「引きずることから切実な表現が生まれる」と筆者は書いた。小さなことにクヨクヨし、様々なコンプレックスを引きずればいいのだ。だからミタビ読み直そう。


2018読了65
 『コンプレックス文化論』(武田砂鉄  文藝春秋)



 最初なんとなく「コンプレックスはバネ」と題付けをしたが、なるほどと頷きたくなるような面白いデータがある。2009年の資料なのでちと古いが、「身長と年収・幸福度に関する調査」である。一つは「男性の身長と年収には比例関係がある」。そしてもう一つはおおうっと思う…こう書くと予想できるかもしれない。


 「160cm以上の男声より、160cm未満の男性の方が、『幸福』と感じている人の割合が高い傾向にある」ということ。流行りの言葉で言えば「自己肯定感」なのだろうか。普通に考えれば逆の気もするのだが、それだけ「身長」はコンプレックスと結びついている。身長順に並ぶ学校教育、身長制限のある職業も在る。


 筆者は社会にはりめぐらされている密接な基準も紹介しつつ、こう書く。「それに届かない男たちは、早々に自分なりの選択肢を探し始めるのだ。結果として世の中には、背が高かったら生まれていなかった表現に満ち溢れているのだ」。昔「チビ」と馬鹿にされた者が、出世したり芸術家になったりする物語も好まれる。


 さて最終章は、コンプレックスの大エースとも言うべき「ハゲ」である。まずはお笑いにおける定番中の定番ネタだし、そのものを売り物にする人気コンビもいるわけだから、レベルが違う。誰にもわかる外見とある意味の可愛らしさ、そして明るさを背負っているからか。某女性議員の暴言に笑った人も多いはずだ。


 筆者は最後にユニークな論を繰り出す。曰く「ハゲはロックンロール」。一面的だが、ハゲは頭皮の健全さを保つこととは別の「不摂生の果て」にあり、それはロックンロールが持ち合わせるものだ。「『ハゲる』と『抗う』は同義」とまで言い切ると、哲学的でさえある。コンプレックスという名のバンドがあったなあ。