米株市場、早くも崩れた楽観論(NY特急便)
NQNニューヨーク 松本清一郎
NY特急便
2022年10月8日 6:03 (2022年10月8日 6:43更新)
9月の米失業率は半世紀ぶりの低水準に並んだ=AP
7日のダウ工業株30種平均は3日続落し、630ドル安で終えた。朝方発表された9月の米雇用統計が堅調な内容となり、米連邦準備理事会(FRB)が利上げペースを早めに緩めるとの期待が薄れた。前日夕に発表した米半導体大手、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の業績下方修正も嫌気された。
米投資会社グッゲンハイム・パートナーズの最高投資責任者、スコット・マイナード氏は6日夕、顧客向けメモで「FRBの金融引き締め終了が近づいている。ドライパウダー(待機資金)を持っている投資家は市場の混乱に乗じるチャンスだ」とリスク資産への投資を呼びかけた。だが、時期尚早だったようだ。
雇用統計では非農業部門雇用者数は前月比26.3万人増と市場予想(27.5万人増)を下回ったが、失業率は3.5%と0.2ポイント低下し、半世紀ぶりの低水準に並んだ。労働需給の逼迫による賃金上昇を気にするFRBが、歴史的な低失業率が続く中で利上げの手を緩めるとは考えにくい。
来週には注目の9月の消費者物価指数(CPI)が発表される。よく当たると評判の米クリーブランド連銀の予想によると、エネルギーと食品を除くコアCPIは前年同月比6.6%上昇と8月(6.3%上昇)から伸びが加速する。インフレ沈静化もまだ先だ。
今週前半に米株相場が急伸したのは、3日発表の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数の低下と欧州市場の不安定化を受け、FRBが利上げを早期に減速するとの楽観論が広がったからだ。だが、景況感悪化がインフレ率低下につながるとの期待は雇用統計で崩れた。
欧州では英年金基金の危機、金融大手クレディ・スイスの経営不安が取り沙汰された。もちろん予断は禁物だが、FRB高官から警戒する声は聞かれない。クリーブランド連銀のメスター総裁は6日のイベントで金融環境の悪化について聞かれ「米国では金融市場は健全に機能している」と意に介さなかった。
インフレと利上げが続けば米企業収益には逆風となる。その懸念を呼び起こしたのがAMDの業績下方修正だ。7~9月期の売上高を前年同期比29%増の56億ドルと従来予想(67億ドル)から引き下げた。パソコン市場の悪化と供給網の混乱でCPU(中央演算処理装置)の販売が伸び悩んだ。
7日のAMD株は14%安と急落。同業のエヌビディアとインテルも大幅安となった。パソコン市場の低迷は周知の事実で、AMD株は年初来で前日までに5割強も下げていた。株価には織り込み済みのはずだったが、まだ甘かったようだ。
40年ぶりの高インフレに悩む米経済。40年前はインフレのピークアウトに合わせて株式相場も大底を付けたが、1981年後半にインフレ率が10%前後で下げ止まると株式相場は大幅調整した。株式相場の本格上昇はインフレ率低下が明確に確認できないと難しい。
労働市場の需給緩和にはまだ時間がかかりそうで、どこまで景気が悪化すればインフレが収まるのか、エコノミストも、おそらくFRBのパウエル議長もわからない。楽観が許されない市場環境が続いている。
(NQNニューヨーク=松本清一郎)
NQNニューヨーク 松本清一郎
NY特急便
2022年10月8日 6:03 (2022年10月8日 6:43更新)
9月の米失業率は半世紀ぶりの低水準に並んだ=AP
7日のダウ工業株30種平均は3日続落し、630ドル安で終えた。朝方発表された9月の米雇用統計が堅調な内容となり、米連邦準備理事会(FRB)が利上げペースを早めに緩めるとの期待が薄れた。前日夕に発表した米半導体大手、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の業績下方修正も嫌気された。
米投資会社グッゲンハイム・パートナーズの最高投資責任者、スコット・マイナード氏は6日夕、顧客向けメモで「FRBの金融引き締め終了が近づいている。ドライパウダー(待機資金)を持っている投資家は市場の混乱に乗じるチャンスだ」とリスク資産への投資を呼びかけた。だが、時期尚早だったようだ。
雇用統計では非農業部門雇用者数は前月比26.3万人増と市場予想(27.5万人増)を下回ったが、失業率は3.5%と0.2ポイント低下し、半世紀ぶりの低水準に並んだ。労働需給の逼迫による賃金上昇を気にするFRBが、歴史的な低失業率が続く中で利上げの手を緩めるとは考えにくい。
来週には注目の9月の消費者物価指数(CPI)が発表される。よく当たると評判の米クリーブランド連銀の予想によると、エネルギーと食品を除くコアCPIは前年同月比6.6%上昇と8月(6.3%上昇)から伸びが加速する。インフレ沈静化もまだ先だ。
今週前半に米株相場が急伸したのは、3日発表の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数の低下と欧州市場の不安定化を受け、FRBが利上げを早期に減速するとの楽観論が広がったからだ。だが、景況感悪化がインフレ率低下につながるとの期待は雇用統計で崩れた。
欧州では英年金基金の危機、金融大手クレディ・スイスの経営不安が取り沙汰された。もちろん予断は禁物だが、FRB高官から警戒する声は聞かれない。クリーブランド連銀のメスター総裁は6日のイベントで金融環境の悪化について聞かれ「米国では金融市場は健全に機能している」と意に介さなかった。
インフレと利上げが続けば米企業収益には逆風となる。その懸念を呼び起こしたのがAMDの業績下方修正だ。7~9月期の売上高を前年同期比29%増の56億ドルと従来予想(67億ドル)から引き下げた。パソコン市場の悪化と供給網の混乱でCPU(中央演算処理装置)の販売が伸び悩んだ。
7日のAMD株は14%安と急落。同業のエヌビディアとインテルも大幅安となった。パソコン市場の低迷は周知の事実で、AMD株は年初来で前日までに5割強も下げていた。株価には織り込み済みのはずだったが、まだ甘かったようだ。
40年ぶりの高インフレに悩む米経済。40年前はインフレのピークアウトに合わせて株式相場も大底を付けたが、1981年後半にインフレ率が10%前後で下げ止まると株式相場は大幅調整した。株式相場の本格上昇はインフレ率低下が明確に確認できないと難しい。
労働市場の需給緩和にはまだ時間がかかりそうで、どこまで景気が悪化すればインフレが収まるのか、エコノミストも、おそらくFRBのパウエル議長もわからない。楽観が許されない市場環境が続いている。
(NQNニューヨーク=松本清一郎)