日本株、5年ぶり強気に転換 金利上昇で割安株有利に
ベアリングス マルチアセット戦略責任者ジェームス・レオン氏
グローバルマーケット
2022年1月28日 12:52
米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めを背景に、市場の先行き不透明感が強まっている。米運用会社ベアリングスでアジアの機関投資家向けのマルチアセット運用を手掛けるジェームス・レオン氏は、株価指標面で割高なハイテク株から割安な景気敏感株への資金シフトが続くと想定。割安株が多い日本株を5年ぶりに強気に設定し直した。今後の運用方針を聞いた。
ベアリングスのジェームス・レオン氏
――FRBの金融引き締めを巡り、市場の動揺が続いています。
「市場は事前に2022年に3~4回の利上げを織り込んでいた。米連邦公開市場委員会(FOMC)の結果や記者会見におけるパウエル議長の発言も市場予想に沿ったものだった。株価の急落は、金融引き締めに消極的な『ハト派』発言を期待した一部の市場関係者の売りによるものだろう」
「景気は底堅いとはいえ、米国の実質国内総生産(GDP)成長率は21年より大幅に減速する見通しだ。FRBは物価とともに景気安定の責任も負っており、景気鈍化が見えれば引き締めのペースを落とすだろう。新型コロナウイルスのオミクロン型の感染が落ち着けば供給制約が和らぎ、人々は職場に戻る。物価上昇圧力が弱まり、利上げが効きすぎるリスクがある」
――どこに収益機会を求めますか。
「22年は株式市場の中での選別が重要だ。金利上昇局面では割高なハイテク株は不利と判断し、割安銘柄へのシフトを21年12月から進めてきた。金利上昇で利ざやの拡大が見込める金融株や、原油価格上昇が追い風のエネルギー株などだ。コロナ禍の供給制約に加え、脱炭素の流れで原油生産設備への投資が抑えられている。供給能力は簡単に拡大できず、原油価格は中期的に押し上げられる」
「ハイテク銘柄からの資金のシフト先として有望なのが米国の中小型株だ。大型株に比べて株価は出遅れており、PER(株価収益率)も低い。大型株はハイテク株が占める比率が大きいが、中小型はハイテク、金融、消費関連と業種分散も効いている。中小企業は借り入れもそこまで増えておらず、金利上昇に耐えられると判断した」
「21年秋、5年ぶりに日本株に強気に転じた。米欧から少し遅れて企業業績の改善が進むと読んだためだ。オミクロン型の影響で国内消費はいったん減速する恐れがある。だが割安な銘柄が多くバリュー株相場では有利だ。世界景気全体の回復が加速する局面では値上がりが期待できる」
――新興国株や債券はどうみていますか。
「ESG(環境・社会・企業統治)関連銘柄も長期的に有望だ。特に新興国ではEV(電気自動車)や浄水、自動化などのビジネスの伸びしろが大きい。環境債(グリーンボンド)への投資も増やしたい。環境債は通常の債券より金利が低く抑えられる傾向があるが、今のように社債が売られやすいタイミングなら投資のチャンスだ」
「米国債の10年物利回りは2.5%程度まで上昇する可能性がある。だが足元のように急上昇したタイミングではいったん買ってもよい。保険会社などの買いが入り、短期的に金利低下が期待できるためだ」
――ウクライナ情勢の投資判断への影響は。
「少しだけ保有していたロシア国債は売却した。米国がロシアに経済制裁を加える事態に備えた。ただ、ポートフォリオ全体のリスク許容度をこれ以上落とすつもりはない。株式の15%は(株価の安定性が相対的に高いとされる)増配期待の強い銘柄に配分しており、現状でもリスクは抑えている」
――注目する地域は。
「中国株を買い増し始めた。不動産価格の下落を受け、中国人民銀行は緩和的政策への転換を進めるだろう。不動産企業の社債の債務不履行(デフォルト)やオミクロン型の感染拡大といった不安要素もあり、景気の安定を図る必要がある。21年に相次いだテクノロジー企業への規制強化も最近は耳にしなくなった」
(聞き手は北松円香)
James Leung ベアリングスでアジア太平洋地域のマルチアセット戦略責任者を務める。クレディ・スイスを経て2017年入社。ロングオンリー(買い持ちのみ)や代替投資など幅広い戦略の運用経験を持つ。