久し振りに好みの小説に出会った気がします。
辞書編纂の手順など、その概要をきちんと表現しているにも関わらず、その部分は小説全体の極一部しか占めておらず、大半は、とある出版社の辞書編纂部の人々とその辞書編纂に関わる人々の恋愛や会社組織における存在感への葛藤など、悲喜こもごもとした人間模様の描写が主となっています。
とは言え、表現は暗くならず、冒険小説のような文脈で満ち溢れており、一気に読み切ってしまいました。
書 名 :舟を編む(ふねをあむ)
著 者 :三浦しをん
発行所 :株式会社光文社
初版発行:2011年9月20日
国語辞書編纂に関わることを題材としているためか、装丁に「花布(はなぎれ)」を付ける凝りようです。
本のタイトルの趣旨は15ページ目に出てきます。また、最後の最後、主人公の言葉として語られています。タイトルを理解させ、そして忘れさせない手法と言えるでしょう。
また、国語辞書編纂を語るのに外せない、大槻文彦氏が編纂した日本初の国語辞書『言海』について、きっちり触れているのは流石だと思います。『言海』編纂における大槻氏の苦労と同類項のものとして重ね合わせる演出が心憎いばかりです。
書 名 :言海(げんかい)
著 者 :大槻文彦
発行所 :株式会社筑摩書房
初版発行:2004年4月7日
『言海』は現在でも古書店で入手することが可能ですが、敢えて、文庫として発行された復刻版を紹介します。
この復刻版は、大形、中形、小形の三種類の大きさがあったという『言海』小形版の実物大コピーが文庫として出版されたものです。
辞書部分も興味深いのですが、後書のように記載されている、武藤康史氏による「『言海』解説」がとても面白いと思います。