不知火の実
為鼠常留飯、憐蛾不点燈。古人此等念頭、是吾人一点生生之機。無此便所謂土木形骸而已。
「鼠の為に常に飯を留め、蛾を憐れみて燈を点けず」と。
古人の此等の念頭は、これ吾人の一点の生々の機なり。
此れ無ければ、便ち所謂土木の形骸のみ。
左角看破楚 左角に楚を破るを看
南柯聞長滕 南柯に滕を長くするを聞く
鉤簾歸乳燕 簾を鉤して乳燕を帰し
穴紙出癡蠅 紙に穴して癡蠅を出だす
為鼠常留飯 鼠の為に常に飯を留め
憐蛾不點燈 蛾を憐れみて燈を点ぜず
崎嶇真可笑 崎嶇たり真に笑うべし
我是小乘僧 我は是れ小乗の僧
蘇東坡
「思いやりの心」
「鼠の為にいつも飯を残しておき、蛾が火に飛び込むのを可哀想に思って、
灯火をつけないでおく」と蘇東坡は詩に詠んでいる。
古の人のこの様な心がけは、これこそ現在の私達が生きて行く上での一つの重要な心の働きである。
この心がけがなかったならば、まるで土や木で作った人形と同じ様に、全く心を持たない形だけの人間に過ぎない。