斗室中、万慮都捐、説甚画棟飛雲、珠簾捲雨。
三杯後、一真自得、唯知素琴横月、短笛吟風。
斗室の中に、万慮を都て捐つれば、甚の画棟に雲を飛ばし、
珠簾を雨に捲くを説かん。
三杯の後に、一真を自ら得ば、唯、素琴を月に横たえ、
短笛を風に吟ずるを知るのみ。
「住めば都」
狭い部屋の中に住んでいても、あらゆる思考を捨て去ることができれば、
殊更に榺王閣のように、色鮮やかな棟木に南浦の雲を飛ばしたり、
玉の簾を西山の雨に捲き上げたりするような、豪壮な楼閣の眺めなどを説く必要はない。
僅か三杯の酒だけでも、本当の真理を自ら体得できれば、
ただ飾りのない琴を月下に横たえて弾じ、短い笛を風に吟ずるように吹くだけでも楽しみがそこにあるのが分る。
もう数十回も秋を迎えたし、色んなところにも出かけたりもした。
けれども、今年みたいに真実に秋を楽しんだ試しもなかったものだと想うのです。
それこそ、今までときたら、ただその気になっていただっけ。
それに気づくと、これから迎える厳しい冬だって、いつになく楽しんで過ごして行けるように想います。
何が違って来たかと云うと、自身の気持ちが変わったとしか考えられません。
これまでだって幾つも楽しみはあったはずですが、何か満たされない、却って虚しくなってしまったことばかりです。
何処かや遠くにまで求めて行ったことが、実は自分の側や足元にあったと云うことかしらん。