ザビエルといえば頭頂部が禿げた外国人宣教師、というイメージを誰もが抱いているのではないだろうか?「あの人は禿げていたわけではなくて、トンスラといって頭頂部を剃るキリスト教のヘアースタイルだったんだ」と詳しい人なら訂正するかも知れない。だが、そもそもザビエルの髪型はトンスラではなかった可能性があるのだ。この肖像画は、ザビエルの死後80年ほど経った1619年以降に日本人の手によって描かれたと考えられている。16世紀の日本には、宣教師によって建てられた教育機関があり、そこで簡易版ではあるが宗教画の制作方法も教えていた。学習の一環として西洋の宗教画をお手本にしてコピーを作らせていたわけだ。ザビエル像はこの学校に持ち込まれた銅版画を基に、絵の技法を学んだ日本人が描いたのではないか、と考えられている。お手本にしたと言われる銅版画では、確かに頭頂部が剃られておりトンスラの様に見える。だが、ザビエルが所属していたイエズス会ではトンスラの習慣はなかったことから、彼が髪を剃っていたとは考え難いのだ。そもそもトンスラは頭頂部のみでなく、襟足やもみあげなども剃って鉢巻状に髪を残す髪型だ。ならば考えられるのは、「髪は生えていた」か「トンスラではなく禿げていた」かのどちらかだが、西洋画のザビエルは頭頂部に髪がフサフサと生えている様に見える一方で、イエズス会の依頼を受けてルーベンスが作成した聖画では頭頂部に髪が描かれていない様に見える。残念ながら真相は謎に包まれたままなのだ。
お馴染みのザビエル像。
下部に崩し字が記されているのが分かる。(神戸市立博物館所蔵)
頭頂部に髪が生えているように見えるザビエル
(フランシスコ・デ・ゴヤ 「フランシスコ・ザビエルの死」)
頭頂部に髪がないように見えるザビエル
(ルーベンス 「聖フランシスコ・ザビエルの奇跡」
ウィーン美術史美術館所蔵)
歴史教科書のウソ