『絵本百物語 船幽霊』
『今昔画図続百鬼 舟幽霊』
『土佐化物絵本 船幽霊』
船幽霊は海上で溺れ死んだ人の魂魄が、夜の紛れに、航海する船を沈める為に現れるという。
中国では、船頭が食物を与えると、この怪異は消え失せると伝えられているが、
我が国にもしばしば出現することがある。
その妖異の始まりは、波の上に一握りの綿が風で飛んで来たように見え、
浮び漂ううちにそれが大きくなり、顔かたちができて眼鼻が具わって来る。
かすかに声がして、友だちを呼ぶように聞こえる。
そのうち行き成り数十の鬼が、遠く、あるいは近くに出没する。
船に乗り込むばかりに船ばたへ手をかけ、船の航行を止めようとして、船頭は逃げることができない。
幽霊は声をあげて「イナタ貸せ......」という。
このイナタというのは船頭たちの俗語で大柄杓のこと。
馴れた船頭は、柄杓の底を抜いて海上に投げ入れる。
この杓で船幽霊は海水を汲んで船に入れ、船を沈めようと図るが、沈められないで済む。
万一、底のある柄杓を与えれば船は沈没する、と伝えられている。
我が国にもしばしば出現することがある。
その妖異の始まりは、波の上に一握りの綿が風で飛んで来たように見え、
浮び漂ううちにそれが大きくなり、顔かたちができて眼鼻が具わって来る。
かすかに声がして、友だちを呼ぶように聞こえる。
そのうち行き成り数十の鬼が、遠く、あるいは近くに出没する。
船に乗り込むばかりに船ばたへ手をかけ、船の航行を止めようとして、船頭は逃げることができない。
幽霊は声をあげて「イナタ貸せ......」という。
このイナタというのは船頭たちの俗語で大柄杓のこと。
馴れた船頭は、柄杓の底を抜いて海上に投げ入れる。
この杓で船幽霊は海水を汲んで船に入れ、船を沈めようと図るが、沈められないで済む。
万一、底のある柄杓を与えれば船は沈没する、と伝えられている。
『世事百談』 巻三
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私が出合った怪異である。ーーー十七、八年以前(1781~1784)、
讃岐(香川県)の金毘羅様にお詣りして厳島(広島県廿日市市)へ回ろうとする海路、
音頭の瀬戸(広島県呉市の海峡)を過ぎて、船は留まり、夜明けを待って船を出し、
二、三里(1キロメートル弱)ばかりも過ぎた頃であった。船頭が急に「静かに!」という。
何事かと怪しむうち、水面に烏帽子のような物が浮かんでいるのが見えて船と行違った。
「今のは何だ」と訊くと「アレです」としか言わない。
よくよく尋ねるとそれは海蛇で、烏帽子状のものは海蛇の尾の先であった。
これを見て後、また暫くすると、東北の方角から、子どもの声で「ホイ、ホイ」と三度ばかり呼ぶ声がした。
すると船頭は、また手真似で人を制して、その方向へ向かって「よいわ、そこに居れ、そこに居れ」と呼びかけた。
その日は霧が立ち込めて四方が見えない。
初めは同じく航行する船からの声かと思ったり、霧の向こうにある島から、
鳥の声が人の言葉に聞こえたかと思ったりしたが、この船頭の応答によって、それは怪異であると知った。
その後、それが何であったのか、船頭に問いただしたかったが、
船中では縁起を担ぐ風習が強い為、訊くのは諦めた。
考えてみたが、これこそが船幽霊だったのであろう。
『閑田耕筆』 巻一
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江戸時代 怪奇事件ファイル