南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

DIESELのBE STUPID.は革命的なマニフェスト

2010-03-17 00:11:13 | HONG KONG

香港のセントラルのQueens Road CentralにあるDieselの
ショップです。マークス&スペンサーのならびにあります。
入り口に大きく、BE STUPID.のスローガンが立体文字で
でかでかと掲げられています。DIESELのロゴよりも目立っ
ています。ショーウィンドーには、商品は一切置かれて
なく、広告キャンペーンの一つが大きく飾られています。
入り口の向こう側にも、派手な色の文字でメッセージが。

お店の中に入ります。めちゃくちゃかっこいい雰囲気。

左の壁には、広告がパネルででかでかと飾られています。
この階段を上がると、そこは、時計、シューズ、バッグ
などの売り場。地下に降りるとメンズ。上に上がると、
メンズとレディース。キッズもあって可愛いです。

中央の踊り場に、マックが並んでいて、BE STUPID.の
メッセージを流しています。そして壁には大きく
"STUPID."すごーい。

DIESELのファッションは全く自分の好みとは違っています。
ちょっとこの年になると、この店のもので身につけようと
思うものは正直ありません。せいぜいフレグランスですが、
それもそれほどのものではない。ではなぜ、私がこの店に
行こうという気になったのかというと、実は雑誌の広告で
した。

広告を見て、お店に行くというと、クーポン券かなにかが
ついていて、それに誘われていったんだろうと思うかもしれ
ませんが、そうじゃありません。

ある日、たまたま、会社の近くの喫茶店で、カプチーノを
飲みながら、Hong Kong Time Outという雑誌をパラパラと
眺めておりました。そこで目にしたのがこの広告です。



雨の中を二台の車が走ってきて、車の窓から身を乗り出して
キスをしている男女。車を走らせた状態でキスをしているの
でしょうか?一つ間違えば死を覚悟しないといけない状況
です。「何て馬鹿なことしてるんだ」とつい私たちは思って
しまいます。

そして過激な赤の文字で、次のようなメッセージ。
SMART LISTENS TO THE HEAD.
STUPID LISTENS TO THE HEART.

このコピーを読んだときに、やられたと思ってしまいました。
日本語にすると、「頭のいいやつは頭の言うことを聞く。
馬鹿なやつはハートの言うことを聞く」
SMARTとSTUPIDというのが対立概念として出てきますが、
DIESELはSTUPIDであることを賛美しています。

この広告を見たときに、SMARTであることがむしろかっこ
悪く思えてきてしまいました。心の命ずるままに思い切った
生き方をしたほうが全然かっこいい。人からどう言われよう
が、世間体がどうたらとか、常識がどうたらとか関係なく、
自分を信じて、思いっきりやればいい。DIESELが提唱する
"BE STUPID."というスローガンはそんな思想を伝えています。
そう、これはもはやコンセプトとかというものではなく、
思想だ、哲学だ、フィロソフィーだと私は思いました。

"STIPID"という差別用語ぎりぎりの言葉を広告の中で堂々と
使っているところがまた潔いです。おそらく我々は、SMART
であることに辟易しているのでしょう。あれしちゃいけない、
これしちゃいけない、常識をきちっと守って、いい会社に
入って...でも、はたしてそれが幸せな生き方なんで
しょうか?いや、じつは人間は、無駄に頭をよくするよりも
馬鹿でもいいから、自分のやりたいことを思い切ってやった
らよい、そのほうが人生は何倍も楽しい。失敗したって
いいじゃないか。失敗を恐れて何もできないより、思い切り
やって失敗したならそのほうがよほど楽しい。この広告は
そういう強烈なメッセージを伝えているように思えます。

このBE STUPID.の前では、Nikeの”Just do it"も、Adidasの
”Impossible is nothing"も、お利口さんの無難なメッセージ
に聞こえてしまいます。ほとんどすべての広告の中で、
このDIESELのBE STUPID.に対抗できるものはおそらくない
のではないかとさえ思いました。

それに、グラフィック的には、広告レイアウトの常識を
ちょっと逸脱したような非常識な文字の大きさ、色、レイ
アウト。STUPIDであることにかっこよさと誇りを感じさせる
ような広告になっています。

英語では、"Don't be stupid"という言い方をよく使います。
「馬鹿なこと言うなよ」とか「馬鹿なことしないで」という
意味ですが、常識世界から少しでも逸脱しようとした場合に、
そういって常識側の世界に連れ戻そうというための言葉なの
です。このDIESELの"BE STUPID."は、常識世界からの逸脱を
むしろ奨励しているという意味で、反逆的、革命的です。

以前、アップル・コンピューターが"Think Different."という
キャンペーンをやったことがありました。世の中を進化させ
てきたのは、ちょっと人と違う考え方をするクレージーな
人々(例えばピカソ、アインシュタインなど)というやつで、
これもいいキャンペーンでした。DIESELのメッセージもこれ
に似ていますが、これまでネガティブな言葉でしかなかった
"stupid"という言葉を使ったということで革命的な起爆力を
もっています。

日本のDIESELのサイトを見てみました。そこの日本語は、
「大人は頭で考える。僕らは心で動く」となっています。
何かこの日本語では、この革命的な思想がぜんぜん伝わらん
ぜよと思ってしまいました。「大人」と「僕ら」という
対比が何か古くさいです。70年代フォークの時代の名残り
のような気がします。

まあ年齢ではなく「大人的考え方をする人々」と言いたい
のでありましょうが、子供でも最近の子供は小賢しいのが
多く、大人よりもよほどスマートです。そういう小賢しい
ガキどもには絶対にDIESELは着させたくないがです。
むしろ私のように50才を過ぎていても、小賢しいのが嫌い
な人間にこそ着てほしいと思うがです。(残念ながら、
私はまず着ることはないですが。)年齢的に大人と若者で
線引きをして欲しくないがです。(←若干龍馬風)

また「僕ら」という、軟弱な連帯意識を前提とした呼称に
違和感を感じます。DIESELはもっと過激で、強烈なものだ
と思います。日本の広告では「馬鹿」とかという言葉は
差別用語になるので使えなかったんでしたっけ?
「僕ら」じゃなくて、堂々と「馬鹿」とか「愚か者」とか
言ってほしいです。

じつは、このキャンペーンはすごい数のクリエイティブで
できています。

たとえばこんなの...

「馬鹿はしくじることもあるかもしれない。
でもスマートなやつはトライさえしない」
(どうだ、馬鹿なほうが、何もできないスマートなやつより
全然かっこいいじゃろが)←このカッコの中は自分なりの捕足です。


「スマートなやつのほうが計画性はある。
でも馬鹿なやつには物語がある」
(どうだ、無難な計画しか立てられんスマートなやつより
馬鹿のほうが全然面白いじゃろが)


「スマートなやつは評論をする。クリエートするのは馬鹿のほうだ」
(どうだ、口先だけのスマートよりも、行動力のある馬鹿の
ほうが全然素晴らしいじゃろが)


「馬鹿はいつも試行錯誤だ。ほとんどの確率で錯誤なんだけど」
(でも結果はどうであれ、馬鹿のほうが面白いじゃろが)


「スマートなやつはそこにあるものしか見えない。馬鹿なやつは
そこにありえるものも見える」
(馬鹿なやつのほうがイマジネーションがすごいあるぜよ)


「スマートなやつは脳みそはあるかもしれない。馬鹿なやつは
肝っ玉を持っている」
(頭でっかちのスマートより、ガッツのあるSTUPIDのほうが
全然かっこいいぜよ)


「スマートなやつはノーと言う。馬鹿はイエスと言う」
(びくびくして何もできないスマートよりも、ポジティブな
馬鹿のほうが人生が何倍も楽しいぜよ)

というような感じでまだまだいっぱいあります。もっと見たい
人はこちらをどうぞ。
http://www.diesel.co.jp/be-stupid/index.html
下の右のほうのSEE THE IMAGESというところをクリックすると
広告が見られますし、その右のGET THE CATALOGUEという
ところを見ると、コンセプトカタログがダウンロードできます。

このコンセプトカタログは、STUPIDのマニフェストです。
マニフェストというのは今は政党の施政方針を言いますが、
もともとは「共産党宣言」とか「シュールレアリズム宣言」
みたいな「宣言文」なんですね。これはまさにSTUPID思想の
宣言文がこのカタログです。全部英語ですが、PDFで
ダウンロードできます。

セントラルのDIESELのお店を見たあと、地下鉄に乗ろうと
歩いていたら、コンコースにこの広告が10数個連続で出て
いました。

すごいインパクトです。

この壁面が全部DIESELの広告です。これだけ揃うと壮観です。

たまたま隣の駅の構内に、キヤノンのプリンターの広告がありました。

"BE SMART"というメッセージが、めちゃくちゃかっこ悪く見えて
きたのが面白かったです。ちょっとこのタイミングで不運でした。
SMARTという概念は広告の正解ではよく使われる常套手段なんで
すけどね。DIESELの広告の勝利です。

しかしDIESELのこの強烈なメッセージは、中国共産党はどう思う
んでしょうかね?シンガポール政府や教育委員会もあまりいい顔は
しないんじゃないかという気がします。チューインガムはダメだし、
ゴミ捨ても罰金の国ですからね。このキャンペーンの国ごとの受容度
とかを調べると面白いかもしれませんね。

DIESELのお店は香港でも数カ所ありますが、以下のウェブサイトで
世界中のお店の場所が検索できます。
http://www.diesel.com/store-locator/
左下のSTORE FINDERというところで国と都市を選ぶと出てきます。

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2 コメント

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お久しぶりです。 (へいたらう)
2010-03-27 18:04:27
これ、なかなか、面白いですが、同時に深いですよ。

西郷隆盛は、命もいらぬ名誉も金もいらぬという大バカにしか大事は為せぬと言いましたが、それに繋がる部分があるんじゃないですか?

ばかじゃなれない、利口じゃなれない、中途半端じゃなおなれない・・・ってのもありましたが、結局、神に愛されるのはあまり、深く考えない奴の方ですよ。
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おかえりなさいませ (南の国の会社社長)
2010-03-27 19:00:53
へいたらう様、久々のご訪問ありがとうございます。
お帰りをお待ち申し上げておりました。

このDIESELの広告は、日本ではおそらく単なるファッションという
ことで、あまり影響を与えないのかもしれないのですが、思想的
には結構強烈なものがあると思っています。

日本人は(というか人類は)小利口になってしまい、知的なことの
ほうがかっこいいということになっていますが、西郷隆盛の例にも
あるように、頭がむしろよすぎないほうがよいという気がします。

坂本龍馬も、それなりに頭が良かったのだとは思いますが、
彼の魅力は頭のよさではなく、心構えというか人間的な魅力のほうです。

利口な人たちは、いい大学を出て、役人になって、なれの果てが、
さえない政治家の皆さんです。利口なことは、むしろかっこわるい
ことのように思えますね。

へいたらうさん、今後ともよろしくお願いいたします。
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