『宿無し弘文 スティーブ・ジョブズの禅僧』
ジョブズの作ったアップル製品には禅の心が込められているというが、どうかなあ。むしろ、ゼロックスのパロアルト研究所でアラン・ケイが構想したダイナブックやその前段階として製作したAltoをジョブズは現実のものとしたのであって、ダイナブックはiPhoneとiPad(その前はiPod)となり、AltoはMacのシリーズになっていった。デザインの原点も、アラン・ケイのものを現実化したという方がいいのではないだろうか。
かといって、本書の趣旨を否定しようとするのではない。むしろ、60−70年代のアメリカ西海岸のサブカルチャーとしての禅ムーブメントを知ることができて大変興味深かった。本作品は、芥川の羅生門方式によって、主人公の乙川弘文の姿をえがこうとした。羅生門方式というのは一つの事実や出来事(本書では、弘文という人物)をそれに関わった人々の視点で語らせて、全体像を描くというもので、主人公弘文の人となりや悩み、苦しみ、宗教家として、また、人間としての生き方がよく描かれていたと思う。